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プロセス、戦略、人間学の視点からプロジェクトを眺めます。

見積もりのバッファを許すべきか?

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昨日はPMI日本支部主催のセミナーで講師を務めました。8月に入って早々に予約満席となりましたが、当日のキャンセルもほぼなく、100名の会場がいっぱいになりました。ありがとうございました。
※ 様子は『満員御礼! PMI日本支部セミナー』に書きました。

セミナーでは、時間が押してしまってケーススタディの時間があまりとれず、残りのケーススタディは、ブログにアップするとお約束しました。その第一弾です。

ケース1:見積もりのバッファを許すべきか?
いまプロジェクトは計画の策定中です。要求仕様がほぼ固まり、工数見積もりを出さなくてはなりません。あなたはプロジェクトマネジャーとして、各サブチームのチームリーダーに、工数見積もりを出すように指示しました。

きょうはその工数見積もりのレビューです。工数自体は担当者に見積もらせました。レビューは、プロジェクトマネジャーであるあなたと、各チームのチームリーダーが参加して行ないます。

必要なタスクの一覧とそれぞれの担当者、そのタスクに必要な工数が記載されています。そのなかで、武田さんのタスクがほかのメンバーと比較して、「ちょっと余裕を見すぎているな」という印象を持ちました。武田さんは技術力もあり、他のメンバーよりも生産性は高いはずです。しかし、他のメンバーと同等、もしくは少し低いくらいの生産性で見積もっています。

「武田さんにしてはちょっと多すぎないか」とチームリーダーに聞いてみると、「そうですね。すぐに修正させます」と答えました。

あなたがプロジェクトマネジャーなら、どのように判断しますか?
すぐに修正させますか?
それとも、そのままにしておきますか?

この問題の着眼点は3つです。
着眼ポイント①:武田さんは納期のプレッシャーに強いか
着眼ポイント②:武田さんはバッファを使い切るタイプか
着眼ポイント③:見積もりを修正させるとどうなるか

①武田さんは納期のプレッシャーに強いか
メンバーによって、納期のプレッシャーに強い人とそうではない人がいます。納期は単なる「予定」であって、「予定は未定」という人もいます。一方で、納期のプレッシャーに非常に弱い人がいます。そういうタイプの人は、余裕がない状況になると、極端にパフォーマンスが落ちます。

この問題を考えるときは、プレッシャーに強いメンバーと、そうでないメンバーとでは、対応を変える必要があるということです。

②武田さんはバッファを使い切るタイプか
バッファの取り扱いはマネジャーによって異なります。

1.プロジェクトマネジャーが隠し持つ
2.オープンにはするが、マネジャーが管理する
3.オープンにして、メンバー本人に管理させる

私は原則として「3.オープンにして、メンバー本人に管理させる」方法をとります。
理由は「バッファをオープンにするマネジャー、隠すマネジャー」の記事に書いたので読んでいただければと思います。

しかし、ここでの問題はオープンなバッファではありません。本人が「余裕をもった見積もり」をしているということです。それを指摘するか、しないかということです。これは本人がバッファを使い切ってしまうタイプか、余裕をもって終わらせるタイプかによります。

<パーキンソンの法則>という有名な法則があります。「仕事は与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というものです。時間に余裕のあるうちに色々と検討に時間を使いすぎて、結局バッファも含めてギリギリになってしまうということはよくあることです。

武田さんが仕事をできるだけ前倒しにするタイプなのか、時間を使い切ってしまうタイプなのかを考えましょう。

③見積もりを修正させるとどうなるか
ここで見積もりを修正させた場合、本人としては少し余裕をもたせるか、トントンぐらいだと思っていたとしても、修正指示そのものが、「少なく見積もれ」という圧力になる可能性があります。

すると必要以上に少なく見積もることもあり得るわけです。プロジェクトマネジャー本人にはそのつもりはなくても、修正指示を受けたほうはそう感じるものなのです。結果として「やらされ感」のある、本人はなっとくしていな見積もりになってしまうのです。これではパフォーマンスは望めません。

【実際の対応】
これは実際に私が経験したことですが、このときは、修正はさせませんでした。本人は技術力もあり、納期への責任感もありました。しかし、納期ギリギリになるとパフォーマンスが低下し、ミスが多くなります。バッファを使い切るタイプではなく、できるだけ早く終わらせて、より洗練しようとするタイプでした。

ここでは「ちょっと多いんとちゃうか?(笑)」とだけ伝えて、「早めに終わらせて、みんな手伝ってやって」とお願いしたのです。すると彼はいつもよりも高いパフォーマンスを発揮して、積極的にまわりのメンバーのサポートをしてくれたのです。

プロジェクトマネジャーは組織的にも、顧客からも厳しい要求にさらされているため、どうしてもメンバーが人間であるということを忘れがちです。メンバーに張り付いている「タスク」しか見えなくなるのです。

プロジェクトを実行するのは、あくまでも「人間」です。「人間」を理解しなければ、プロジェクトの成功はおぼつきません。仮に成功したとしても、そこに「成長」や「喜び」はありません。

しかし、人間同士の結びつきを大切にしながら、プロジェクトをやり遂げたときの喜びは、何事にも代えがたいものがあるのです。

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