「新入社員の夢は『終身雇用』と『管理職』」(←某紙見出し)なんかじゃない
今日、私のRSSリーダーにこんな記事が飛び込んできました。
「えー、そんなの夢として掲げないでしょ?『あなたの夢は何ですか?』って聞かれて『管理職になることです』って答えた新入社員が多いってこと?いやいや、さすがにそれはないよー」と思って、記事を開いてみると...
将来、「管理職」か「専門職」のどちらになりたいか聞いたところ、「管理職」と答えた新入社員は過去最高の44.3%で、2000年度以来初めて、「専門職」(44.0%)を上回った。
やっぱり。どこにも「夢」なんていう文字はありません。この時点で見出しの恣意性にほぼ確信を持ちつつ、元のソースを当たってみます。
■産業能率大学「2010年度新入社員の会社生活調査データ編(PDF=1.69MB)」
『管理職』の話はこのファイルの「問10」に載っています。見ると、
問.将来の進路としてどのような方向を望みますか。
[選択肢]
A.管理職として部下を動かし、部門の業績向上の指揮を執る
B.役職には就かず、担当業務のエキスパートとして成果を上げる
C.独立して自分の会社を立ち上げる
D.ボランティア活動の道を探す
という設問だったようです。そして結果は
A.44.3% B.44.0% C.8.7% D.3.0% 計 100.0%
とのこと。
「将来の進路」というスケールの大きな質問に対して、答えをこの4つの選択肢から選ばなきゃいけないなんて酷じゃないか、という話もありますし、「夢」という言葉もやはり出てきません。そして気になるのはA.とB.の差です。44.3%と44.0%、その差はわずか0.3%。調査対象者数は515人と書いてあるので、実数に直せば約1.5人。500人中1.5人差ということは、もはや差は無いと見た方がよいでしょう。
が、それをサマりにサマって新聞記事の見出しにしてみると「新入社員の夢は『管理職』」。。。うーん、なんでそうなる?
以前、ここの前身のブログに、私がアンケート結果の考察文を読む際に心がけていることを書きましたが、残念なことにそのブログが削除されてしまったので(苦笑)、別のアンケートデータを元に同様の記事を書いてみました。アンケート結果の考察文は往々にして恣意的、あるいは恣意的とまではいかないにしても客観性を欠きがちです。それを目にする我々は、そんな文言のニュアンスに踊らされないよう、気を付けたいものですね。
※もうひとつ、見出しにあった『終身雇用』の話は詳しくは触れませんが、『管理職』の話と同様です。「新入社員の夢が終身雇用」なわけではなく、「“終身雇用制度”を望みますか」という質問に対して「望む:71.1%、望まない:28.9%」という結果が出た、というだけの話。詳細は前出リンクの問18をご参照ください。
【関連書籍】:「統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか?」(光文社新書)
本書は考察文というよりも算出される数字そのものの話をしています。「○○の経済効果」とかがどういう風に算出されるのか、興味のある方は是非!全部が全部そうではないでしょうが、「え?そんなざっくりなの?」みたいな話も載っています(笑)