書籍紹介 2 : 「本当のブランド理念について語ろう」J.ステンゲル
執筆者のJ.ステンゲルはP&Gのグローバル・マーケティングの責任者(グローバル・マーケティング・オフィサー)を2001年から2008年まで務め、その後P&Gを辞したのちUCLAアンダーソン経営大学院教授として後進の指導そして自身の会社Jim Stengel Companyを興し企業コンサルティングも行っています。自身で企業においてブランディングを実践し、それを体系化したブランディングの「プロ中のプロ」です。P&G グローバル・マーケティング・オフィサーとしてのミッションは「顧客がボス」意識の浸透でした。
この本は彼がP&Gをやめたのち「ステンゲルビジネス成長研究」調査を行い、10年間に渡り成長を続けている企業を50社(ステンゲル50)を選び、その成長の根本的な理由を探索した結果、共通することとして人間にとって大切な5つの基本価値のいづれかに関わるブランド理念を持っており、それを実行しているということであした。
- 喜びを感じさせる:人々が幸せや驚き、無限の可能性を体験する後押しをする
- 結びつくことを助ける:人々がほかの人たちや世界と有意義な形で結びつく能力を高める
- 探究心を刺激する:人々が新しい世界や新しい経験に乗り出すのを助ける
- 誇りを掻き立てる:人々が自身や力、安心感、活力を高めることを可能にする
- 社会に影響を及ぼす:現状を揺さぶり、新しいビジネスの枠組みを打ち出すなどして、社会全体に好ましい影響を与える
そして、「ビジネスの世界で最も頼りになり、最も大きな利益を生み出せる手段は、理念なのである。ただし、理念は、"人々の生活をよりよいものにする"ことを目指すもので、しかも人々の本能と感情、希望と夢と価値観に直接訴えかけるものでなくてはならない」と結論づけています。
これらを実践する活動として下記を提唱しています。(下線は原)
- 人間にとって大切な5つの基本的価値のいづれかに関わるブランドの理念を発見(もしくは再発見)する
- ブランド理念を軸に、企業文化を構築する
- ブランド理念を社内外に発信し、社員と顧客の両方に共有する
- ブランド理念に沿って、理念に近い顧客体験を提供する
- ブランド理念に照らして、ビジネスの進捗の度合いと社員の仕事ぶりを評価する
本書ではこれを「ブランド理念の木」と名付け、ケーススタディを中心に細かく説明しています。特に彼が属していたP&Gのケースはとても参考になります。
近年、従来のブランド(=商品ブランド)から企業ブランドが重要になってきています。このブログで数回取り上げているコトラーのマーケティング3.0でも近年マーケティングにおける企業理念の重要性が高まってきていると述べています。また、ポーターもこれからの経営手法(CSV)として企業、顧客、国、地域、社会課題を通じての「共有価値」を生み出すことだと述べています。
このブログでは企業と顧客とのエンゲージメントについて述べていますが、顧客は企業のWHY、すなわち企業理念との強い絆=エンゲージメントこそが継続的な発展を生み出すものと信じています。
最後に、「ステンゲル50」の中にブラックベリーやHPも入っており、このモデルが万能でないことも付け加えておきます。