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国境は「超える」のか「越える」のか 【文章技術:表記】

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以前、翻訳学校のプルーフリーディング(翻訳校正)講座を受講したことがあります。講師は英文翻訳と校正(英日)のベテラン社員で、いろいろと参考になる話が聞けました。

その翻訳学校では、顧客から日本語表記に関して特に指示されない場合は、共同通信社の『記者ハンドブック』を使うということでした。この本は表記だけでなく、数字の書き方、紛らわしい会社名など、一度は目を通しておきたい情報が多数掲載されています。

ビジネスパーソンのたしなみとして、相手の名前や社名を間違えてしまうのは大変失礼なので注意したいものです。『記者ハンドブック』に掲載されている例をいくつか挙げてみましょう。

【誤】味の素ゼネラルフー、キノン、ブリストン、ブルドッソース

【正】味の素ゼネラルフー、キノン、ブリストン、ブルドッソース


ある日の講義は日本語表記についてだったのですが、ひとつだけ意見が食い違いました。それは「越える」と「超える」の違いについての説明で、その講師は、

「国境は "超える" が正しい」

と言ったのです。思わず、「普通は "越える" を使うのではないですか?」ときいたところ、「国境は目に見えないから "超える" を使う」という説明でした。そこで、

「"超える" だと "国境を超越する" という意味になり、
通常の文脈では変です」
(大意)

と説明したのですが、その講師の方は納得できないようでした。

国境は目に見えませんが、厳然として存在するモノです。でなければ、領土問題が発生するはずがありません。さらには「越境」という言葉も「超境」にすべきだという話にもなりかねません。まあ、時空を超えるようなSF的状況なら「超境」も悪くないと思いますが、まだ日本語として定着していません。

ただ、次のような場合には「国境を超える」と言ってもよいでしょう。

国境を超える恋愛

これは、自らの祖国や人種がなんであろうと、困難を乗り越えようとする恋人たちの恋愛を意味しています。まさに「国境を超越」した愛なわけです。考えてみると、その講師は実は大変なロマンチストだったのかもしれません。


「越える」と「超える」の使い分け
以前のエントリーでも紹介した『これは便利! 正しい文書がすぐ書ける本』と『記者ハンドブック』を参考に使い分けの例を示しておきます。

越える ある地点やモノの上を過ぎて先へ行くときに使う
    山・川を越えて 飛び越す 国境を越えて亡命 年を越す 〔熟語〕越境 越年 越権
超える 一定の分量や基準を過ぎたときに使う
    限度を超える 百万円を超える金額 国境を超えた愛 音速を超え 〔熟語〕超過 超然


【参考文献】
以下の2冊を読めば、文章技術の基礎固めは完璧でしょう。

『記者ハンドブック 第12版 新聞用字用語集』共同通信社、2010
 ▼出版関係者・翻訳者なら一度は目を通しておきたい一冊。一般の方でも有用です。
  最新版では、「こえる」の項の用例に「国境を越える」が載っています(以前の版にはなかった)。
 http://www.amazon.co.jp/dp/4764106191
 共同通信社のページでは、特徴を詳細に説明しています。
 http://www.kyodo.co.jp/kkservice/HB/index_ht.html

小川 悟(2002)『これは便利! 正しい文書がすぐ書ける本』日本経済新聞社:146ページ 
 ▼会社の新人さんに最初に読ませたい一冊。社内研修にも最適です。
 http://www.amazon.co.jp/dp/4532310032/


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