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長沢さんの「この20年くらいのビジネスとITの関係をまとめてみた」を読む。

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最近、調べ物をしていてニコラス・ネグロポンテの『ビーイング・デジタル』を見ていたところ、次のような一節がありました。同書252ページから引用します。

『ビーイング・デジタル──ビットの時代』ニコラス・ネグロポンテ著、福岡洋一 訳、アスキー、1995
http://www.amazon.co.jp/dp/4756116043/

 いずれインターネット・ユーザーのコミュニティが、日常生活の中心になっていくだろう。そしてこのコミュニティ内の人口分布が、現実の世界の人口分布にどんどん近づいていく。フランスのミニテルやアメリカのプロディジーの例で明らかになったように、ネットワークでいちばんよく利用されるアプリケーションは電子メールである。つまリネットワークの真価は、情報よりもコミュニティの方にあるということだ。情報スーパーハイウェイは、単なる議会図書館の蔵書への近道ではない。そこからまったく新しい、全地球的規模の社会の網の目が創り出されつつあるのだ。

ここには「ネットワーク=インフラ」となる日は近いということが書いてあります。この考え方をさらに押し進めると、IT=コモディティ(日用品化)という結論にたどり着くのはあと少しで、ネグロポンテの慧眼には感服するばかりです。

そういえば、オルタナブロガーの長沢智治さん(ITとビジネスの可能性)のエントリー「この20年くらいのビジネスとITの関係をまとめてみた(Publickey で紹介してくれたアレです)」(以下、パワポ資料名を「ビジネスとITの関係」と記す)に似たような表現があったなと思い出し、見直してみました。

この20年くらいのビジネスとITの関係をまとめてみた(Publickey で紹介してくれたアレです):長沢智治「ITとビジネスの可能性」
http://blogs.itmedia.co.jp/nagap/2011/12/20itpublickey-79e3.html
ITとビジネスの関係は、この20年でどう変化してきたか:新野淳一「Publickey」2011年12月 7日
http://publickey1.jp/blog/11/it20.html

これは面白いですね。そこで自分ならどう考えるだろうかと取りまとめてみました。
まずは、「ビジネスとITの関係」での時代区分についてです。

「ビジネスとITの関係」の19枚目
20it


長沢さんは以下のように時代を区分していました(上図参照)。

90年代=ITは【便利】 00年代=ITは【有効】 10年代=ITは【不可欠】

うーん、「ITは【便利】」は、コンピュータが誕生してからずっとのような気がするので、「〜80年代(まで)」と修正することにします(以降、繰り上がります)。そうすると、最後の10年代はどうなるのか。ニコラス・G・カーが、2003年に「IT Doesn't Matter」(※1)で指摘したように、「ITはコモディティ(日用品)」と位置付けたいところ。結果、次のようになります。

〜80年代=ITは【便利】 90年代=ITは【有効】 00年代=ITは【不可欠】 10年代=ITは【日用品】

ここで【日用品】の意は、ITは【不可欠】であるだけでなく、「調達が容易」で「安価」になったということです(※2)。
さらに、上の図では「ビジネス(青線)」と「IT(赤線)」の関係を示しています。ここでは、ITの重要性の度合いを面積で示しているようです。とするなら、ビジネスの面積を減らさずに、「ビジネス」と「IT」は同じ大きさになるまでITを大きくしていったほうがわかりやすいような気もします。同心円状に重ねるとちょっとみづらいかもしれませんが…。

あと、このパワポでは足りないものが1つあります。それは、最終的な顧客となる「エンドユーザー」(=消費者)です(「顧客」は18枚目で1回だけ登場します)。いまやITが使えるのは当たり前なので、ITうんぬんよりもエンドユーザーに焦点を当てたサービスや商品(=経験価値)の提供に開発部門はどのように対応すべきかについても考える必要があるのではないでしょうか(もちろん、このパワポは開発現場の方だけを対象としていて、エンドユーザーについてはマーケティング部門や経営層が考えるべきことだということであれば、それはそれでかまいません ※3)。

上の図の下段では、長沢さんは次のように2ステップを載せています。

  個別の作業の遂行にフォーカス
          ↓
  チームの成果と価値の提供にフォーカス

その流れはよいと思うのですが、その次のステップも付け足したい。いろいろな言い方があると思いますが、たとえばこんな感じです。

  個別の作業の遂行にフォーカス [個人]
          ↓
  チームの成果と価値の提供にフォーカス [プロジェクト]
          ↓
  全社的な顧客経験価値の増大にフォーカス [部門横断型組織]※4

やはり、最終的には顧客あるいはエンドユーザー(消費者)の経験価値が増大しなければ企業活動を行う意味はないわけで、それはしかも会社の一部門ががんばればよいというものでもない。それは開発現場にいる技術者の方たちも、少しは頭の片隅に置いておかないといけないだろうと思います。

これらを含めて、長沢さんの図を改訂した試案版をつくってみました。次の図を見てください。

試案版:「ビジネスとITの関係」の19枚目
It_2


最後の「10年代=ITは【日用品】」でITの円の色(赤色)が薄くなっていますが、先ほども述べたように、ITは「調達が容易」で「安価」になり「ITの利用」は常識となってしまったため、他の経営資源に比べて「重要度が低下」したことを示しています。

以上、つらつらと書き連ねてしまいましたがいかがでしょうか。ピンぼけ妄言多謝致します。

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※1 ニコラス・G・カーの「IT Doesn't Matter」(Harvard Business Review、2003年5月号)の邦訳タイトルは「もはやITに戦略的価値はない」。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、2004年3月号で読める。また、同内容の書籍を『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい』として刊行している。
 http://www.amazon.co.jp/dp/4270000627/

※2 とはいえ、日本の一般世帯のパソコン普及率は76.0%しかないのでありますが… 。しかし、今後増えることはあっても減ることはないでしょう。
●内閣府による消費動向調査「主要耐久消費財等の普及率(一般世帯)」(平成23年3月現在)
 http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html

※3 「開発部門」だけを対象にしてもよいのですが、その場合は「自社(開発部門)+顧客(システム部門)」という狭いドメイン(=問題領域)しか扱わなくなってしまいます。その狭いドメインで得られた解は 部分解 となる可能性があり、「自社+顧客+エンドユーザー(消費者)」という広いドメイン(最近はやりの言い方では「エコシステム全体」)では 別の全体最適解 が見つかる可能性があります。

※4 「部門横断型組織」を、『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解 実践編』などで有名なクレイトン・クリステンセンの言葉で言うと「重量級チーム」に相当します。まったく同じとは言えませんが、大いに関係があります。

『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』Harvard Business School Press
 クレイトン・クリステンセン著、玉田俊平太 監修、伊豆原弓 訳、翔泳社
 http://www.amazon.co.jp/dp/4798100234/
『イノベーションへの解 利益ある成長に向けて』Harvard Business School Press
 クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、玉田俊平太 監修、櫻井 祐子 訳、翔泳社
 http://www.amazon.co.jp/dp/4798104930/

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