PowerPoint講義は板書講義よりも非効率、なわけではない
たとえば大学の授業で、PowerPointを使ったものと伝統的な「黒板への板書」(ホワイトボードでもいいですが)を使ったものと、どちらがよいですか? という話題があったので一言。
パワーポイント powerpoint のスライドを使った授業が恐ろしくつまらない理由まとめ
どうもPowerPointを使ったスライド講義(以下、この用語を使います)は不人気なようですが、僕の結論を言ってしまえば、
別にどちらが圧倒的に良い/悪いわけじゃないので適材適所で使えばいい
です。まあ、当たり前ですけどね。でも少なくとも「板書のほうが絶対に良いんだからスライド使う奴はクソ」のようには考えないでください。以下、詳しく説明します。
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「スライド講義が良いのか、板書講義が良いのか?」
という問いの答えは「場合による」であって、確実にどちらがいい、という絶対の正解はありません。状況に応じて、向いているほうを使えばいいだけです。
一例を挙げれば、私がやっている分野(「わかりやすく書く技術、図解の技術」)の場合、板書には向いていません。板書ではまったくスピードが追いつかないからです。そんな分野もあります。
つまり、
■どのメディアが良いかは、内容によって違う
ある分野の授業で板書が好まれたからと言って、それが他分野にも通用するとは限りません。
■メディアに応じた授業設計をしているかも問わなければならない
スライドと板書は違うメディアなので、それぞれに合わせた授業の進め方を設計する必要があります。
たとえば、板書で書く内容を単にパワポスライドに変えて、それを一度に映して前から順番に解説していくようなスタイルを延々とやっていたらそりゃ眠くなるのは当たり前です。
↓こちらのまとめを見ると、「先生の思考プロセスが「追体験」できる授業の方が楽しい」という話がありますが・・・
パワーポイント powerpoint のスライドを使った授業が恐ろしくつまらない理由まとめ
人間が新しい知識・考え方を理解するためには「自分で考える」ということが決定的に重要なので、「自分で考える」場所があるように授業を構成しなければいけません。
ここで重要なことが1つありますが、「自分で考える」ように仕向けるためには、「情報の読みづらさ」が役に立つことがあります。読みやすさではなく、読みづらいほうがよい、という場合があるわけです。
参考→読みにくいフォントが学習効果を上げる The Educational Benefit of Ugly Fonts | WIRED
板書をしている時は、情報が一気に出てこないので、先生が書いている間に知らず知らずのうちに考えているものです。さらに、読みづらい字が出てきたら「ここは前後関係から言って j だろう」のようにこれも自然に考えているものです。
板書を単純にスライドに変えると、こういう形で「自然に考える」機会が失われます。だからそういう機会を意識的に作るように授業を設計しなければいけないわけです。
そこで、板書ならそれを考える必要がないのだから板書のほうがよい、とは言えません。板書のときはメディアの限界上たまたまそうなっていただけです。
板書には板書特有の欠点があります。
■板書の欠点とは
人間が手書きで書くということにともなうさまざまな欠点があります。
(1)書くのに時間がかかる
文字数が少なくて済むタイプの講座ではこれは問題になりませんが、世の中のすべての分野がそうではありません。私がやっているタイプの講座では文字数が多いためここが決定的なデメリットになります。
(2)画面の切り替え・再利用ができない
「さっき出てきたこの話をもう一度考えてみよう」といった振り返りがやりづらいです。
(3)アニメーションが使えない
アニメーションを乱用するのも問題ですが、使ったほうが明らかに分かりやすいものについては使うべきです。板書ではそれが不可能です。
ざっとこういった欠点があるため、スライドがよいか板書がよいかという答えは単純には決まりません。具体的にどういう分野でどういう授業設計でやるかを個別に見て判断していくしかないです。