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身体知って、本当にあるのか?――AI時代に「体から考える」

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「身体知って、本当にあるんだろうか」

AI時代に「身体知と感性」を考えるセッションで、いきなりこんな問いが投げかけられた。

esse-sense Future Forum 2026の「身体知と感性」というセッションに登壇したのは、音楽と脳科学を研究する東京大学の大黒達也氏、ソーシャル・イノベーション研究の大室悦賀氏、身体からの情報を含むリーダーシップ教育に取り組む井上有紀氏、そして働く場と人間の行動・感覚を研究してきた建築家の仲隆介氏。モデレーターは資生堂の中西裕子氏だ。

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左から、中西裕子氏、大黒達也氏、大室悦賀氏、井上有紀氏、仲隆介氏

「そもそも身体知ってなんだろう。身体知って本当にあるんだろうか」

最近、「身体知」という言葉が流行している。しかし、最初から「身体は大事だ」と決めつけてしまうと、人間の身体を過度に神秘化することにならないか――。そんな大黒氏の問題提起から始まった。

大黒氏自身は、音楽を聴いたときに「ドキドキ、ワクワクする」感覚に注目している。身体の反応を可視化し、解明していくのが研究テーマの一つだという。

一方、井上氏は、身体から得られる情報を実際の意思決定に使っている。

震災後に、身体を使ったワークショップに参加した経験が転機になった。頭では「社会を変えなければ」と思っていたのに、身体に意識を向けて動いてみると、そこにあったのは「怖い」という感覚だった。

「そっか、怖がってるんだ、私の体は」

頭で考えた自分と、身体が感じていた自分は違っていた。その経験から井上氏は、身体が持つ感覚も扱う必要があると考えるようになったという。

一人でなく、一体となり感じる

「身体知」は、自分一人の身体の話だけでは終わらなかった。「社会という身体」だ。共感や一体感、場の雰囲気まで、個人を超えた「社会的身体」の感性として捉えられないかと、大黒氏は問う。

また、音楽のリズムを聴くと、人間の身体のリズムも同期しやすくなり、それが親近感や一体感につながるという。

仲氏は、60歳を超えて始めた合気道で感じた「身体で感じる一体感」を紹介した。型を覚えるだけではなく、相手との力のやり取りから、「今、相手の肘が詰まっている」「力が伝わっている」と身体で分かる瞬間があるという。

自分の身体にアクセスする

大黒氏は、フィジカルAIやロボットが身体を持ち、非言語的な情報を学習するようになれば、「人間だけの身体知」という従来の議論では足りなくなる、と指摘する。身体知そのものを、さらに拡張して考える必要があるという。

では、私たちはどうすれば身体知にアクセスできるのか。

仲氏は、雪が30センチ積もった北海道の山中に机と椅子を置き、そこで仕事をしてみた経験を紹介した。普通なら「何をやっているのか」と思うような環境だが、実際にやってみると、意外にも気持ちがよく、頭が冴えたという。

つまり、頭ではなく、まず身体が置かれる環境を変えてみる、ということだろう。

井上氏は、もっと身近な方法も紹介した。目を閉じて歯を磨く。いつもと違う泳ぎ方をしてみる。無意識に繰り返している身体の動きを、あえて意識してみる。

重要なのは、「正しい方法」を知ることではなく、自分の身体にアクセスする方法を見つけることだと感じた。

みんな暇になりましょう

最後に大黒氏が語った。AIは人間を暇にするとは限らない。むしろ、次々に情報が飛んできて、「来たものに反応する」生活に陥るかもしれない。

だから、あえて何もしない。深呼吸する。いつもと違うことをする。自分から動いて、周囲に働きかける。

「みんな暇になりましょう」

そんな言葉で、この不思議なセッションは幕を閉じた。

「身体知」という言葉から始まった議論は、脳科学、音楽、合気道、建築、数学、社会、AIへと展開し、特に結論が出たわけではない。しかし、それでいいのではと感じた。

AIがとにかくスグ返答してくれる今、「なんか変だ」「ちょっと気持ち悪い」「どこかワクワクする」という感覚を、大切にしたいものだ。このセッションを聞いていて私には、身体知とは「身体がすでに知っている答え」ではなく、まだ答えになっていないものを感じ取る力なのかもしれない、と思えた。

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