スマート革命と電子新聞の田原坂の死闘、ニューヨークタイムス誌は電子版購読が大幅に伸びるも紙版の広告売り上げ落ち込みを阻止できず!!
<序文>
アップルのiPadが出現して以来、スマート革命を意識した新聞ビジネスの電子新聞化の流れは、ニューヨークタイムス誌の2011年3月における電子新聞再有料化後、堰を斬ったように全米に拡大し、2012年現在、既に300社を超えています。(ちなみに約1500ある米国日刊紙)有料電子新聞の数はニューヨークタイムス誌の影響で一挙に倍になりました。スマート機器やパソコンでの購読を意識して壁の中の花園=有料電子版の世界を作り上げる動きです。
マシャブルに記事が載っていますが、新聞の有料電子版を開始した新聞にはニューヨークタイムス誌のように電子版だけ見れば一定の成功を見た新聞もあれば、惨めに失敗した新聞も多く、大半が20-30%の購読者やトラフィックを落とし、その結果、紙版だけでは無く、ネット広告収入も落としています。
しかし電子新聞が成功したと一時日経が絶賛したニューヨークタイムス誌も相当苦しい戦いを続けています。まるで西南戦争の攻防の分岐点となった有名な田原坂の戦いのようです。
★★ Newspaper Websites With Paywalls Doubled in a Year
★★ How to get your readers to love paywalls
★★ New York Times paywall revenue will keep growing
<ニューヨークタイムスの死闘>
ちょっと数字を見てみましょう。以下の数字を見ればニューヨークタイムス誌が、そのビジネスモデルを広告依存から電子版の販売売り上げ依存に如何に舵を切ったかが判ります。有料電子新聞に向けた凄い努力です。広告売り上げから電子版の売り上げでビジネスモデルは全く変化しました。
2001 2011 Q3-2012
Advertising 62% 49% 39%
Circulation 29% 45% 55%
Others 9% 6% 6%
Source: NYT Co financial statements
その結果、2012年第三四半期は全体の売り上げが0.6%減少、紙の広告売り上げが11%減少、デジタル広告が2.2%減少(全体として広告は9%減少)、経費は2.2%増加です。電子版は広告版と比較して購読者数が増えればICT関連の経費(サーバー代金など)がかかります。
一方New York Times 誌とthe International Herald Tribune誌を併せた電子版の購読数は11%増加しました。紙版が減っているので全体として購読数は7%増加です。
しかしウオール街の投資家は容赦がありません。2012年第三四半期の発表の結果、株価は22%下がり、8.31ドルです。(ちなみにフェースブックは約20ドル程度)
<電子新聞有料化の戦いは西南戦争の田原坂>
1877年明治の英雄西郷隆盛が政府に反旗を翻し、西南の役と呼ばれる戦いが起こりました。(士族の反乱のうち最大規模)その最激戦地は熊本県内の田原坂(田原坂・吉次峠)であり、3月の雨がしとふる中の激戦でした。西郷軍は良く戦い、官軍側の小隊長30名の内11名が戦死しました。
しかし結局、戦況を逆転出来ず、西南戦争は官軍の勝利に終わりました。
有料電子化前、ニューヨークタイムス誌は本社を売りに出した2009年には何時潰れても可笑しくない状況でした。しかし有料電子新聞を成功させ、566,000部の顧客(ニューヨークタイムス誌は元来、全体で100万部程度)を獲得しています。これは大健闘です。その結果、米国のニューヨークへの通勤列車ではiPadを広げてニューヨークタイムス誌を読む乗客の姿が散見されるようになりました。
しかしそれでも紙版の衰退(広告売り上げ及び部数減)を補いきれていません。
ニューヨークタイムス誌の電子新聞化の成功は、太平洋戦争末期に松山沖でグラマンを一度に45機撃墜した紫電改戦闘機隊のように戦局の体制に影響が無い、局地的な勝利でしかないのでしょうか。
新聞業界全体としては一部の電子版がどんなに頑張っても「西部戦線異状なし」(レマルクの小説)と言った感じでオールドメディアである新聞の衰退と言う大勢には影響がないのでしょうか。新聞の再発明は至難の業のようです。
電子新聞の勝ち組ですらこういった厳しい状況であり、そうなれば一般の新聞の電子化は多くの場合、死への旅路でしかないと思われます。やはりメディアの交代、再発明は諸行無情です。
<出所:マシャブル>