スマート革命、アップルiPhone5発表での注目点は、スマート機器の性能ではなくサービス支配論理の重視
<序文>
2012年9月12日にアップルが記者発表により、iPhone5など(New iPod Touch, iPod Nano, EarPods)が発表されました。YouTubeを見ているとある参加者は、iPhone5の印象を「まるで宝石のようだ。」と言っており、その表現にはとっても詩的な響きがあります。なにしろデザイナーのチーフは、あの英国女王様からナイトの称号を授けられたジョニー・アイブ氏ですから。
さて今回のアップルiPhone5の発表では「ワオ!!と言う驚き」の要素が無いとかアップルは夢、感動、興奮を失ったと言った指摘が多くなされています。確かにハードウエア機器の面では4インチ画面やLTE対応など改善と言うレベルでしかなく、アップルのCEOテイム・クック氏は、故ジョブズ氏が決して使わなかった、改善を意味する「ソリューション」と言う表現を使い始めました。
実際、故スティーブ・ジョブズ氏の時代が去って、アップルは輝きを失ったという見方が急速に台頭していますが、天邪鬼の筆者は少し違う見方をしています。
★★ Apple 「iPhone 5」のプロモーションビデオ
★★ With iOS 6 Integration, Facebook Set To Accelerate Mobile Success
★★With New iOS 6 App Store, The Most Important Changes Are Under The Hood
★★Apple Releases A Totally Redesigned iTunes With iCloud Built-In
<出所:アップル>
<注目すべきはサービス支配論理の充実>
今回の発表では新しいiTunesストア、iCloud統合、フェースブック統合などサービス支配論理面の充実が目立たない形で発表されています。音楽プレーリストの改善やアップストアにおけるカテゴリーの廃止とアップルが推奨するジーニアスアプリ(天才アプリ)の推奨などがそれにあたります。またHTML5優位を放棄したフェースブックとの統合も音声操作のシリによる投稿などが可能になっています。そしてアップル独自のソーシャルメディアであるPingの廃止が発表されました。
そしてiTunesストアにパーソナルクラウドサービスの iCloudが直接、統合され、連携がスムースになっています。
<NFCチップの不採用、 Passbookによる対応>
更に注目すべき点は、NFCチップの不採用でしょう。この点はマーケティング担当役員のフィル・シラー氏が「決済はPassbookによる対応を行う」と言っている点で明らかです。クラウドサービス(一種のネットワークコンピューティングの発展系)と言うソフトウエアで対応すれば、無駄なチップは省けますし、狭い筐体を更に薄くできると言う訳です。今回の発表では、これも非常に重要な点です。(無論、将来、アップルがNFCチップを導入する可能性も残っていますが。)
現時点では、アップルは日本流のお財布携帯は時代遅れと宣言したと言うことでしょう。グーグルウオレットや米国の通信キャリアが推進するISISには打撃でしょう。
<モノ支配論理からサービス支配論理へ>
さてアップルが作り上げたポストPCコンピューティング時代の新しいパソコンの形においては、スマート機器の仕様の価値は下がり、その上にWiFiネットワークやブロードバンドの根と茎が生え、豊かな森のようなサービス(音楽、映画、テレビ、ゲーム、電子書籍、チケット、EC、ネットスーパーなど)が繁茂します。そして森のようなサービスを支える閉鎖的なスマート機器群がまるで玩具のレゴのような連合艦隊としてセット販売されます。
そして価値はサービスや個々のスマートデバイスから繋がり革命で連合したスマートデバイス群にシフトします。
従ってこの論理で考えれば、幾ら個別領域の機器で「凄い!!」と言わせても豊かなサービスを背景とした玩具のレゴのような連合艦隊には勝てない構造になっています。
それから考えればiPhone5は日本のゼロ戦のような無敵の強さは必要なく、寧ろ米空軍のグラマンがレーダーを背景にして5機編隊で対抗する、赤穂浪士が討ち入りの際、吉良家の剣豪に複数で切りかかったような仕様でで十分だと考えられます。
もはやiPhone5には「ワオと言う感動」は必要なく、寧ろiPhone5の上でフェースブックに対して音声で投稿できる、iPhone5の上でiTunesストアに良いねボタンが付くサービス面の充実の方が重要だと考えられます。
恐らくワオと言った感動は、サービス面の充実とスマートデバイスの連合艦隊を背景に「アップルテレビなど新製品発表」などで実現する戦略だと考えられます。
これまでiPadで楽しんでいたiCloud上の「24」や「ゴシップガール」「ニキータ」のドラマが幻のアップルテレビを購入すれば、即テレビで楽しめます。そしてそのワオと言う感動を音声操作でフェースブックやツイッターに投稿できるとすれば、その時こそアップルの「夢、感動、興奮」のジョブズ・マジックが蘇るでしょう。
今後のアップルの問題はスマート革命のために故スティーブ・ジョブズ氏が編み出したサービス支配論理の「新しいイノベーションの形」をどれだけ忠実に守り、「新しい個人コンピューティングの形」を求める生活者に訴求し続けることができるかでしょう。それがアップルにできなければアマゾンが実現し、グーグルやサムスンが追いつくかもしれません。