スマート革命、ロンドンオリンピックとブランド品サーバービジネスの終焉
<序文>
一人一台のパソコンとケータイ時代から2015年には一人七台のスマート機器を使いこなす時代を迎えて、新しい個人コンピューティングの形が登場する一方、色々な事業モデルにも「創造的破壊の波」が押し寄せています。
2012年のロンドンオリンピックは日曜日(8月12日)に無事、終焉しました。
当初はツイッターの呟きの量が想定を超えてオリンピック委員会も困っていたようですが、なんとか乗り切っています。
さて今回のロンドンオリンピックの特徴は、原則、全ての競技がインターネットからライブ中継され、テレビやパソコンだけではなくスマート機器(スマートフォンやタブレット)で視聴の視聴がターゲットとされた点でしょう。
更にサーバービジネスと言う視点から見逃すことができないのはクラウドコンピューティングがオリンピックで始めて本格活用され、一方伝統的なオリンピックプレイアーのIBMなどの影が非常に薄くなった点かもしれません。そういえばNASAが先日実施したキュリオシティの火星着陸のインターネットライブ中継もIBMではなくアマゾンのクラウドサービス(Amazon Web Services (AWS) )でした。嘗てオリンピックを支える技術の象徴、サーバービジネスの象徴がIBMだった時代は終わりました。(1998年の長野冬季オリンピックを覚えている方には懐かしいかもしれません。)
オリンピックがサーバービジネスを象徴するイベントであることを考えれば、この影響は意外に大きいかもしれません。
★★ How Do You Break the Olympics Website? Throw a Cloud at It
★★ NASA Mars Mission Fueled By Amazon Web Services
★ ★ IBMとオリンピック
<引用元:ワイアード誌>
<マイクロソフトのAzureが担当>
ワイアード誌などによればロンドンオリンピック委員会は、インターネット中継とモバイル対応のサービスに関して米国のSOASTA 社に調査を委託し、SOASTA 社は17のクラウドサービスをテストし、インターネット中継とモバイル対応に伴う膨大なトラフィック量をシミュレーションしました。従来は一つのサービスのテストに数週間かかり、一社あたり数百万ドルのコストがかかる所を一サービスあたり2-3時間と非常に安く収まったそうです。その結果、マイクロソフトのアジュール(Microsoft Azure )が中心サービスとして選ばれました。
開会式の直前に女子サッカーの中継中、Microsoft Azure は欧州で障害を起こし、数時間サービスが停止しましたが、幸いにしてオリンピックの中継には影響がなかったようです。
<スマート革命とクラウドサービスと新旧の主役交代>
ではそれぞれの情報家電からネットの根と茎が伸び、その上にサービスの森が茂るスマート革命の進展は、サーバービジネスに如何なる影響を与え始めているのでしょうか。スマート革命の特徴の一つに「モノ支配論理からサービス支配論理」があります。サムスンの立派なタブレットよりもアマゾンのやや劣るとされるプライベートブランドのタブレットが売れる理由は、「モノ支配論理からサービス支配論理」が理由です。判りやすく申し上げればハード機器の機能や性能、ブランドには価値を置かないで、価値をその上のサービス内容の方に置く見方や価値観(パラダイム)です。
サーバーのビジネスに関しては先行するクラウドサービスの普及と共に「オープンソースソフトウエアの採用や無印良品のハードウエア機器の採用」でコストを非常に下げるトレンドが広がり始めています。だからアマゾンのクラウドサービスなどはあんなに安い値段でサービスが出来る訳です。フェースブックなども同様の傾向を持っています。
そして企業におけるスマート革命の広がりは、サービス支配論理の発想を更に普及させ「オープンソースソフトウエアの採用や無印良品のハードウエア機器の採用」に拍車をかけることになると考えられます。そうなれば従来からのブランド品のサーバーは売れません。またスマート革命の普及は、その上に成り立つサービスとそれを支えるクラウドサービスを普及させます。確実にクラウドサービスの普及との相乗効果を生み出します。
その結果、サンを買収したオラクルもハードウエアの売り上げが16%減少し始めています。(第3・四半期(2011年12月─12年2月)決算)
またIBMの2012年第二四半期はハードウエアの売り上げが前年比、9%ダウンし、遂に全社の売り上げも下がり始めました。
既にHPはパソコンビジネスの未来やタブレット、スマートフォンにかかわるWebOSを巡ってIBMの道かアップルの道かで大きく揺れ始めています。尚、サーバービジネスは6%減です。(2012年2~4月期決算)
アマゾンやラックスペースなどのサービス支配論理に基づいたサーバーを無限に消費するクラウドサービスのベンチャー企業が成長する一方従来からのサーバービジネスは次第に衰退し始めています。この点では大赤字を出した国内家電と大きく同じトレンドに入り始めてると申し上げても良いでしょう。
★★ Is there a cloud bubble?
★★米オラクル12─2月期利益は予想上回る、ソフト販売が好調
★★ IBM Reports Revenues Of $25.7 Billion, Down 3% But Beats Estimates For Earnings Per Share
引用
Software revenues were flat compared to last year. Hardware revenues were down 9% with services off 3%. Revenues for servers, storage and chip sales all declined.
引用終わり
★★ HPの2~4月期決算、3四半期連続の減収減益、2万7000人を削減へ
<オリンピックやイベントでのサービス活用は時代の象徴>
既にハードウエア機器の価値ではなくその上に花開くサービスの価値、10億人からのアクセスを無理なく裁く「性能を保証するサービスの価値」が求められる時代が来ています。その基準でNASAはアマゾンのAWSを選びロンドンオリンピック委員会はマイクロソフトのAzure選びました。
オリンピックのようなイベントは時代の象徴です。そして東西冷戦の終焉がベルリンの壁の崩壊に象徴されるように、イベントは人々に古い時代の終焉と新しい時代の到来を示唆します。その結果、世界中のIT担当はIBMなどのブランドサーバーの時代が終わり、無印良品のサーバーやオープンソースのサーバーを活用する時代、クラウドの時代の到来と言うICTの時代のメッセージを図らずも受け取ることになりました。
スマート革命は全てを創造的に破壊します。