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テレビのデジタル化がドライビングフォースとなり、全ての情報メディアが一旦、収縮する時代の羅針盤

スマートテレビ冬の時代と商社冬の時代

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<序文>

地デジ移行後の国内の放送業界の流れは、東日本大震災の影響もあり、総世帯視聴率の漸減傾向が進んでいます。これは広告費の落ち込みに繋がるため一部の放送事業者は「尊王攘夷から開国へ」と明確にスタンスを改め始めています。

30秒広告の一取引当たり2千万から3千万の売り上げを得ている現状を考えれば、ドラマ一本100円とか300円のマイクロコマースは、まるで落ち穂拾いのようです。

 

しかしメディアの歴史的転換の時期に当たって米国での地デジ移行時、2009年に100社も倒産した新聞と比較してテレビは技術的に非常にインターネットと相性が良く、米国では「勝ち組は従来以上の広告売り上げを得られる」可能性があるという見方も広がっています。

外から見てスマートテレビは盛り上がらず、橋下選挙前の大坂のように閉そく感が漂う業界の雰囲気の中、放送事業者は無事に明治維新を成し遂げられるのでしょうか?

 

<商社冬の時代と民放冬の時代>

今から約30年前の商社冬の時代を経験した筆者には、現在の民間放送の悩みが手に取るように判ります。

当時の商社は石油や非鉄金属、農作物などの資源取引が盛んで「一取引当たり2億から3億円の口銭」が入っていました。一方自動車の輸出は一台当たり口銭はわずか500円程度、情報電子に至ってはもっと少ないと言う状況でした。こうなれば幾ら自動車や情報電子で稼いでも担当者は評価されません。だから日本経済の構造転換の中で「商社は自動車や電子のビジネスは向かない」と考えられ、商社も構造不況に陥っていました。

 

 

今でもテレビメーカーさんは「テレビ一台売るとメーカーは売り上げで1000円稼ぐ」とおっしゃっているので、メーカーのビジネスから見れば半ば常識の売り上げ金額ですが。

 

30秒広告の一取引が3000万円、一方ドラマを消費者にインターネットで有料視聴してもらえば100円=300円です。マイクロ取引ははっきり申し上げて民間放送や広告代理店には文化的に向いていません。

 

一方グリーやモバゲーが飴玉一個100円の売り上げを積み上げて大きな収益を上げています。嘗てのメーカーと同じ売り上げ構造ですね。

民間放送は現在、商社冬の時代と同じ悩みに陥っています。従って民間放送事業者にとってはマイクロ取引(ドラマの一話売り)は未来への解ではありません。

 こういうことはマイクロ取引が得意な事業者さんたちの手に委ねた方が良いと考えられます。

 

<スマートテレビの尊王攘夷と明治維新>

 テレビはインターネットと技術面では非常に相性が良く、この点新聞や雑誌、出版ビジネスとは異なります。問題は文化の相違の克服です。

明治維新に例えれば新聞は電子新聞と言う形態変化に成功した一部を除いては、嘗ての瓦版のように旧メディアとして全体が滅びる可能性があります。一方テレビは故スチーブ・ジョブス氏が構想したように「番組が出来上がる都度、クラウドに登録する番組の分解」の時代が来るのは10年―20年と言う時間がかかると見られています。

一杯ある時間の間にゆっくりと新たなビジネスモデルを模索するゆとりがあります。それは下がったとはいえ、業界全体で1.7兆円もある広告売り上げの面でもそうです。(先行する米国の事例がそれを示しています。)

 

米国の放送事業者はインターネットが進める社会変革にテレビも参加する方向で漸進的にビジネスモデルの形態変化を進めています。スマートテレビをテレビ業界自身が進める欧州も同じです。

 

1) インターネットに見逃し放送を無料で出す。

2) ソーシャルテレビ(ソーシャル視聴)を進める。

3) テレビアプリをスマートフォンやiPad向けに出す。

4) その結果、テレビのレギュラー番組に視聴者を還流させる。

5) テレビとネットで広告費を二重取りする。

 

これは産業革命=明治維新、即ちテレビ業界の2010年代の必須戦略と考えられます。そして国内の民間放送事業者は地上波も有料放送もソーシャルテレビ、テレビアプリなどの施策を2011年7月の地デジ移行後、データ放送の活用と合わせ一斉に進めています。この点は尊王攘夷から開国への変化と申せましょう。

 

しかし肝心の「インターネットに見逃し放送を無料で出す。」と言う点に関しては日本の放送業界は未だに国を閉ざした尊王攘夷のままの状況です。これではテレビから離れてインターネットに流れた若者は還流しません。時間と場所と機器にかかわらずテレビが見られる新たな視聴スタイルを醸成しないと「テレビのレギュラー番組に視聴者を還流させ、テレビとネットで広告費を二重取りする。」と言う米国の民間放送が一定程度成功し始めている明治維新型のビジネスモデルは形成できません。

 

ベイン&カンパニーは欧米における明るい未来予測として2014年にはスマートテレビ普及率60%と出しています。閉塞感漂う日本では野村総研が2016年の普及率を20%としています。

 

日本のテレビはインターネットと一体化した新たなビジネスモデルが形成出来るチャンスがあるにも関わらず、みすみす明治維新の可能性を逃し始めているように見えます。

 

しかし慶応大学主催で行われている「スマートテレビ研究会」に参加する都度、思うのですが、夜明け前の暗い雰囲気、閉そく感漂う雰囲気の中でITベンチャーを含む多様な放送関係者の間でも変化の動きは少しずつ始まっています。TPPが進む中、今後どんな変化が起こるか楽しみですが。日本は変わり始めると早いですから。

 

スマートテレビの春を楽しみに良きクリスマスを!!

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