ところで、平田凡作って誰?
「・・・でさ、追い出し部屋に行けって言われちゃったんだけど、どうすればいい?」
ひと月ほど前だっただろうか。20年来の付き合いの男友達から、深夜に電話があった。これまで、彼とのやりとりはもっぱらメールであり、もしかしたら人生で2度目か3度目の電話かもしれない。彼との仲は良く、今でもたまに一緒に酒を飲む仲だが、そもそも男同士ではあまり電話などしないものだ。
それだけに、携帯の画面に表示された彼の名前を見た瞬間、「何かあったんだろうな・・・」と嫌な予感が働いた。何とはなしに仕事絡みの話とは思ったが、まさか「追い出し部屋」とは穏やかでない。
彼は40代前半、大学を卒業して以来ずっと同じ会社に勤める、プロパーの正社員。仕事熱心で会社に対する忠誠心も高く、また誰からも好かれるタイプだ。以前、彼の会社の同僚たちと顔を合わせたことがあったが、和気あいあいと喋る彼を見て「ああ、楽しく働いているんだな」と、嬉しく思っていた。
滅多に相談など持ちかけてこないタイプだけに、彼の胸中が察せられた。
「いいか? 会社には一切の意志表示をするなよ。イエスともノーとも言わず、すべて保留にしておくのがいい」。私はとりあえず、電話でその1点のみをアドバイスした。すべてのことは、直接会って相談に乗るしかない。私は10日後に会う約束をし、電話を切った。
それから彼のコトをいろいろ考えた。彼が働く会社のことや、これまでの彼の仕事内容。会社が属する業界の現状や将来性など。また同時に、彼が最近マンションを購入したことを思い出し、住宅ローンが幾ら残っているかなど、お金の計算も必要だった。仕事だけでなく、彼の生活まで考慮しないと、正しいアドバイスはできないからだ。
その結果、追い出し部屋対策として彼が取るべき〝3つの秘策〟を思いつき、10日後に備えた。がしかし、それはすべてムダになってしまった。
「いやあ、追い出し部屋に行く前に、会社を追い出されちゃったよ!」
「どういうこと? だってあの電話から10日しか経ってないぞ?」
まさしく急転直下。わずか10日のあいだに、彼はあっさり会社から追い出されてしまったのだ。あまり聞いたことがない事態である。この日のためにスケジュールを2時間ほど空けておいた私は拍子抜けというか、さすがに返す言葉がなかった。張本人の彼もまだ事態を飲み込めていないようで、「アハハ」と笑っていた。かと思うと、突然頭を下げて、
「ということで、今日は転職の相談になったけど、ヨロシク!」。
それはそれでいいのだが・・・。その後の彼の言葉に、私は首を傾げ続けた。
まず、「やりたい仕事がない。まったく思いつかない」というのだ。だから私に「オススメの企業、オススメの業界を教えてくれ」という。コンサルタントならいろいろな〝お得物件〟を知っているはずだと。
もうひとつは「会社探しは職安しかない」と彼は思い込んでいた。もちろん職安でも会社を探すことはできるが、今は転職サイトに登録する方が一般的だし効率的だろう。そんな話をすると「え? そうなの?」と、彼は目を丸くした。
彼はプロパーとして20年、1つの企業に勤めてきたため、一度も転職を考えたことがない。そして今後も20年、同じ企業で働くつもりだったという。そのため何の準備もしておらず、やりたい仕事も職探しの仕方も皆目見当がつかない。そこで、その辺の事情に詳しい私に「すべてみつくろってくれ」と頼むのだ。私に全部お任せする、言う通りにすると、自分の人生を丸投げしてきた。
「お前、バカか?」と、私は呆れた。ちなみにその場にもう1人、我々共通の友人を呼んでいたのだが、思わず彼も「お前、バカか?」と叫んでいた。
何だか緊張感を失ってしまい、それから3人でヤケクソにバカ話をしたり昔話をしたりと大笑いし、相談は改めて後日ということで散会した。
それでもボクは会社にイタいのです
これは先日創刊されたばかりの経済誌「アスキークラウド」にて、私が始めた連載小説のタイトルである。40代ビジネスマンをターゲットに、会社での生き残りを指南する内容である。会社に〝イタい〟とはもちろん、会社に「居たい・残りたい」という意味と、それに反して残れないのは「痛いビジネスマン」というダブルミーニングである。
アスキークラウドから連載オファーがあったのは昨年暮れのこと。それから試行錯誤を重ね、連載コンセプトが固まったのは今春のこと。40代ビジネスマンが置かれた環境は想像以上にシビアであり、コンサルタントとして今書くべきテーマは生き残り、と踏んだワケだ。なので、別に私の友人をモチーフにしたわけではないが、何ともリアルかつタイムリーであり驚いた。
さて、この連載は〝小説〟というスタイルを用いており、当然ながら〝完全なフィクション〟である。でもそこにはリアル性や時代性がないと読み物としては成立しない。なぜなら、それがないと読者からの共感を得られないから。
月刊誌の連載ということで、基本的には毎月原稿を執筆し、最後に〝1つのストーリー〟に仕上げる予定だ。その一方、すべての読者が毎月雑誌を購入するとは限らないので、誰がいつ読んでも楽しめるように〝1話読み切り〟も意識しなければならない。
作者である私のアタマのなかでは、すでにストーリーは80%ほど完成している。残りの20%は、時代や社会情勢を読みながら変更するためにあえてブランクにしてある。
「それでもボクは会社にイタいのです」とはいかなる小説か? 連載のために私は企画書を作成し、その最初の1ページに連載のコンセプトをしたためた。今回はその1ページをそのまま紹介し、連載の内容を知って頂ければと想う。
~以下、企画書1ページ~
リクルート流、マッキンゼー流・・・。そんな高度なビジネス書を読んでも、平田凡作はちっとも理解できない。
「成功77の法則」といわれても、覚えられるのはせいぜい15個くらい。
よし実践しよう! と思っても、3日で忘れてしまう・・・。
凡作はバカなのか? いやいや、エリート企業に勤めるビジネスマン。ここまでは、とりあえず順調。
でも、成功とか出世とか、ちょっと諦めかけている。
なぜ? それは40代に突入したから・・・。
もはや転職には厳しい年代。ディレクターにまで登りつめるのは難しいかもと、薄々感づいている。
そんな矢先、突如、新規ビジネスを手掛ける子会社への出向を命じられた・・・。
これはチャンスなのか? それとも、新規ビジネスとともに自分もコケる運命なのか?
40歳となった今、デキるビジネスマンになろう的な〝元気なビジネス書〟には、どうもしっくりこない。
そこで凡作は、ふと考えた。
「30歳の若僧よりは、人脈も経験もある」
「50歳のオジサンほど、逃げに入っているわけでもない」
ならば、
勝ちぬくことではなく、〝生き残ること〟を考えた方が賢いのではないか?
「40代なりの余裕」「40代なりの老練さ」⇒「40代ならではの処世術」があるはず。
「へえ、40代のルールってあるんだ」という驚きや、「40代は確かに強いかも」という希望を、
ゆるキャラな凡作と、強烈キャラの脇役を通してユーモラスに綴るビジネス小説である。
~以上、企画書1ページ~
平凡な40代は優秀な30代に勝てない
これが第1話のタイトル。やや刺激的なタイトルだが、かわいいイラストありシュールな川柳あり、また読みやすく書いているので、かなり楽しめるのではないかと。
ということで、私の連載「それでもボクは会社にイタいのです」ならびに「アスキークラウド」を、どうぞよろしくお願いします。
(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)
人気の雑誌連載と同レベルの品質で、御社だけの企業ストーリー/商品ストーリーを作成――。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。