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「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

【東京電力に損害賠償を請求する 3】 損害賠償はプレゼンみたいなもの?

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昔、「納得がいかないっス・・・」と口癖のように嘆く青年がいた。彼は新卒で企業に入社したばかりということもあり、野望や希望でギラギラしていた。しかし、会社の上司や不条理な組織を前に、入社早々にうちのめされる日々を送っていた。

「会社や世の中なんて、不条理が当たり前だよ。オトナになれば、いずれ分かるよ」。私は先輩面をして、彼をよく諭したものだ。

先日、この青年と久しぶりに酒を飲んだ。彼はすでに30代半ば、ビジネスマンとして成熟しつつある年代に入り、あれほど口にしていた「納得いかないっス」の言葉も聞こえてこなかった。納得いかないコトも多いだろうが、それをグッと堪え、難事をうまく処する術を身につけたのだろう。

そんな彼の成長ぶりを微笑ましく眺めつつ、酒を飲みながら、今度は私が複雑な心境。「オレは日々納得がいかんのだよ。まったくもってね・・・」と。

私は東電の放射能問題の影響を受け、主宰していた農業ビジネスを廃業した。昨年の夏のことだ。そこから東電に損害賠償を請求をしているのだが、東電の担当者のヒジョーシキぶりと言ったら・・・。

イワクマとの出逢い

前回のブログで書いた通り、東電の対応は被害者を基本的にナメている。普通の農家として東電に電話をかけると「はい、はい、今いっぱいだからね」みたいな扱いをされ、どんどん後回しにされる。ところが、私がコンサルタントであることを告げると、一気に対応が変わった。こいつはきちんと対応をしないといけない相手だ・・・。東電は相手を見て、露骨に対応を変えてきた。

さて、その後・・・。

今回の賠償問題に関して、私には〝専任の男性担当者〟がついた。彼の名をイワクマ(仮名)という。物事を俯瞰できる広い視野を持ち、それをコンパクトに言語化できる、非常に優れたビジネスマンだ。年齢は30代半ば~40代前半くらいだろうか、電話で話をしているだけでも「さすが東電、デキる社員が多いんだな」と、納得させられる。

通常は「福島原子力補償相談室」に電話をすると、偶然電話に出た女性オペレーターと交渉をすることになる。しかしこのオペレーターがクセモノで、まるで〝家電製品のクレーム処理〟のごとき扱いを受ける。まったく機転が利かず、いっこうに話が進まない。

私が手掛けていた農業はかなり特殊なビジネスモデルであったため、一般のオペレーターでは対処できないことは最初から分かっていた。そこで「話の分かる人間を担当に付けろ」と頼み、出てきたのがイワクマだった。

〝ケツをまくれない企業・東電〟と対峙するには、まずは自分が闘いやすい土俵を準備しないといけない。その最初の一歩が、専任担当者を付けること。イワクマは私が東電に用意させた〝最低限の準備〟だが、これは相当に稀なケースである。多くの農家は女性オペレーターの機械的な対応にアタマが痛くなり、憤り、場合によっては損害賠償の請求すら断念してしまう。

さて、イワクマは本当に話が分かるオトコだった。私の農業ビジネスのコンセプト・社会的意義・将来性をしっかり理解し、東電が犯した罪を真摯に認め、どうにかきっちり賠償したいという誠意が伝わってきた。しかし腑に落ちないことがある。私の話に対するイワクマの理解があまりにも早過ぎるのだ。

私が主宰していた農業ビジネスは、農業というよりはブランド・ビジネスに近い。モノ=野菜を売りながら、実はポリシーやライフスタイルを売ることを目的にしていた。そのために会員制販売という特殊なシステムを採用し、会員とじかに会い、長い時間をかけて事業内容を説明し、その後も継続的にコミュニケーションを取ることで、ようやく理解できるビジネスだ。それをイワクマは最初の1時間の電話で、すっかり理解してしまった。

東電がイワクマを私の担当に付けるのに、およそ半日かかった。「話の分かる人間を用意しろ」と私が言ってから、半日経って東電が折り返しの電話を寄越した。それがイワクマだった。察するに、私をネット上でおおよそ調べ、私が手掛けていたビジネスを〝予習〟していたから、イワクマは判断が早かったのだろう。さすが、東電。ぬかりない。

私の手元にはすでに「農業者用の損害賠償フォーマット」が送られてきていた。メディアなどでボロクソに言われている『膨大で、不親切で、記入する気をそぐ請求書』だ。確かに、書けと言われても書く気になれないほどのボリュームだ。理解できない専門用語、無数の計算式が並ぶ、やっかいない書類だ。

まず私はイワクマに、このフォーマットでは正確な損害が計れない旨を話した。彼は即座に「もちろんです。事業者様用のフォーマットをすぐに送ります」と対応し、電話を切った。

イワクマとの1回目の交渉・・・、およそ1時間。私はイワクマという人物をある程度信用したが、東電という企業そのものはまったく信用しなかった。イワクマも所詮は東電の人間、自分の身と自分の組織を守ることしか考えていない。私は被害者であり、彼は加害者。この関係性は絶対に揺るがない。イワクマは話の分かるオトコだったが、人間臭さはまったく感じられなかった。

損害賠償は・・・社内プレゼン?

イワクマの言った通り、すぐに損害賠償の新しいフォーマットが届いたが、それは私を愕然とさせるものだった。「これ、一緒じゃんよ・・・」。やはり東電の身勝手さはそのまま。アレを証明しろ、コレも証明しろと、延々と記入を強要してくる。すべての立証責任を被害者にそのまま押しつけてくる。

そもそも被害者の数だけ、被害の実態は異なるはず。農業、漁業、観光業・・・、業界が異なれば被害に対する考え方は当然異なり、今後及ぼすであろう影響も異なる。

例えば観光業などはサービスを提供し、消費者からお金を頂戴する。野菜と異なり、カタチのない商売だ。放射能問題によって生じた「対前年度の減収分のみ」という〝現実を補償〟されても、納得いくはずもない。ダメージは将来に渡って続くと考えるのが普通だ。それが被害者のみならず国民の〝健全な一般常識〟だろう。〝見えない損害〟まで補償しなければ、誰も納得はいかない。

膨大な数にのぼる今回の損害賠償問題。東電が彼らにあまねく対応しようとすれば、どうしても〝型にハマった手法〟に頼らざるを得ない。それは理解できる。しかし、被害・損害の実態は千差万別だ。東電は被害者ひとりひとりと、誠実に向き合わなければならない。その義務がある。

ところが新しく送られてきたフォーマットもやはり不親切であり、一方的であり、かつ東電の〝悪気のない悪意〟を感じた。人のココロをまったく理解していない様子、どこまでもお役所的なのだ。

・・・2度目のイワクマとの交渉の冒頭、私はそのような話をした。なるべく穏やかに。東電の筋が通らない根本姿勢は、交渉前に正しておかないと危険だ。価値観をシェアしておかないと、交渉が無駄になる。このように考えたのは、イワクマと2度目の話をする直前の、女性オペレーターの態度にいらついていたからだ。

相談室に電話をして「イワクマさんお願いします」と言ったところ、女性オペレーターは怪訝な声で「・・・うちは個別の担当者は付けていませんが」と、断られたのだ。「いや、イワクマさんの指示なんだけど・・・」と事情を説明すると、彼女は渋々といった様子で彼に電話をつないだ。感じ悪いことこの上ない対応、まるで家電のクレーマー扱いだ。

女性オペレーターの不快な対応から、私は最初はぶっきらぼうに話したが、デキるオトコ・イワクマの、じっと耳を傾ける姿勢に私は徐々に冷静になっていった。私は自分の賠償のためというよりは、まずはとにかく東電の賠償法の問題点を指摘した。「確かにおっしゃる通りです」、「被害者様の事情は、我々も千差万別と考えております」などなど、イワクマは私の話に同調した。

そして彼は唐突に、ひっそりした声色で、思いもよらぬ提案を持ちかけてきた。 

「事業計画書を提出してはくれませんか? その方がうちの審査が通り易いです・・・」。

事業計画書? 私は思わず聞き返した。私はコンサルタントという職業柄、企画書は日々書いている。しかし、事業計画書は作成した経験がない。自分の農業ビジネスの立ち上げに際しても、事業計画書は作らなかったくらいだ。スモールビジネスであるため、その必要性がなかったのだ。

「それなら、今から事業計画書を作ってください」

イワクマは面白いことを言った。事業計画書とは、本来は「未来のビジネス」に向けて作成すべき資料。それを「廃業したビジネス」のために、今から作成しろと言う。

複雑な心境だ。 しかし、イワクマが付け加えた説明に納得がいった。

「表現は適切でないかも知れませんが〝社内プレゼン〟みたいなものと考えてください。説得力のある資料の方が審査に有利です」

非常に分かりやすい説明だ。社内プレゼンという言葉が、ストンと私のなかに落ちてきた。しかしなぜ私がそこまでしなければならないのだ? なぜその作業を被害者に課すのだ? だいたいプレゼンの相手が加害者=東電というのが、そもそもオカシな理屈だろ? なぜ被害者がお前らの顔色をうかがい、認めてもらわねばならんの?

同時に、もうひとつの複雑な想いが頭をよぎる。

私はたまたま専任の担当者がつき、このような有意義なアドバイスを受けることができた。しかし、通常の請求法では女性オペレーターに軽くあしらわれ、まともに自分の被害状況を説明する機会も与えられず、東電が社内で行う〝闇の裁判〟にて運命を決せられてしまう。不平等ではないか?

イワクマ・・・、お前、どうした?

私の農業ビジネスは立ち上げて1年半ほどしか経過していない。いざこれからというときに、廃業する羽目になった。東電の損害賠償はやたらと前年実績ばかりを見るが、これでは始めたばかりで実績の少ない私には明らかに不利だ。放射能問題がなければ将来稼いだであろう「逸失利益」をきちんと評価してくれなければ、到底納得がいかない。

イワクマは逸失利益に関しては、私が仕込んだ「メディアの露出実績」を提出して欲しいと、更にアドバイスを続けた。

私の本業はコンサルティングだが、PRも少し手掛けている。廃業した農業ビジネスに関しても、新聞・雑誌・テレビなどにそれなりのパブを仕込んでいた。メディアに出れば、当然大きな反響がある。こうした〝売れそうな実績〟も、損害賠償の審査に有利に働くということだ。

結局、私はイワクマのアドバイスに従い、東電のフォーマットはすべて無視することにした。「事業計画書」を新たに作成し、「PR実績」を別添資料として提出することにした。本来は3カ月ごとに行わなければならない請求も、すでに廃業しているので一括請求も可能という言質も引き出した。

イワクマは東電の社員である。彼の今の仕事は損害賠償、被害者の請求を処理する受け身の立場である。でも彼の根っこにあるのはビジネスの面白味・醍醐味なのだろう。いろいろと電話で話をするうちに、イワクマは私のビジネスに対する想いや、思想に、とても高い関心を示し始めていた。

「その農業ブランドは、本当に価値があったのですね」、「ビジネスモデルとして非常に関心があります」などなど、イワクマは徐々に〝素の自分〟を見せ始めた。そして最終的に、彼はとんでもないことを口にした。「できれば、荒木さんと冷たいビールを飲みたいです・・・」。

イワクマも人の子。彼が一瞬、東電の社員を、現在の状況を、そして、自分の職務を忘れた瞬間である。そして、それは私も一緒だった。恐らく東電は通話記録を残している。もちろん、私も残している。損害賠償の先が見通せない現状において、東電は損害賠償に携わる社員に対し、相当に強烈なシバリをかけているに違いない。

被害者に誤解を与えるようなことを言ってはいけない。東電が不利になるようなことを言ってはいけない。東電が挙げ足を取られるようなことを言ってはいけない。損害賠償にかかる明確な金額・期限・予測の数字を示してはいけない・・・。

東電は我が身を守ることに必死であり、社員教育を徹底しているはずだ。もちろん、被害者と会うことも禁じているのだろう。そのような状況のなか、私の損害賠償がどうにかうまくいくようにと、イワクマは最大限の努力をしてくれた。

そうはいかんよ、東電は・・・

ようやく損害賠償の道筋が見えたと思った。イワクマの発言によれば「逸失利益」を認め、「一括請求」を認め、事業計画書・メディア掲載実績という「イレギュラー請求」も認める。どれも通常の請求法にはあてはまらないが、東電内部の人間が示唆するアドバイスだけに、当然これでスムースにコトが運ぶと思われた。

ところが、イワクマは損害賠償の〝入り口〟に立つ人間、ただの門番に過ぎなかった。いざ〝東電城〟に侵入すると、信じられないことが次々と起こった。「納得いかない」などと、悠長な話をしている場合ではない。

これ以降、ほぼ詐欺に近い「東電の本性」を見せつけられることになる・・・。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

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