【53.6％】 就職氷河期に透けて見える『安・近・探』志向

　『アン・キン・タン』といえば、ここ数年旅行の定番的傾向というところでしょうが、昨今大学生の就活を巡る状況を俯瞰して見ても、この『アン・キン・タン』志向が強まっていると、わたしはみています。ただ、タイトルで『安・近・探』と表記したように、旅行業界で使われる『安い・近い・短い』とは少し漢字もニュアンスも異なります。具体的に説明していきましょう。
 
・・・『安』・・・
 
　大木さんが書いて下さった拙著の書評記事でもコメントさせていただきましたが、最近の就活では、学生の大手企業志向が強まる傾向にあります。リクルートが今年7月に発表した「ワークス大卒求人倍率調査（2010年卒）」によると、企業規模別の求人動向で、従業員1000人以上の民間企業を希望する学生数が昨年度対比で131,400人も増加。一方で求人数は49,000人も減少しており、より一層狭き門となっています。遡ると、学生の大手志向は2004年卒者以降連続して増加しており、その中でも2010年卒者の（2009年卒者に比べた）増加数は最大を記録しているのです。
　
　この他、公務員希望者も増加傾向が顕著。こうした状況から、昨今の不景気、それに伴う厳しい就職環境が、学生の保守化傾向に拍車をかけ、「安」全で「安」心できる会社、「安」定した企業を求める傾向が強まっていると見られます。
 
・・・『近』・・・
 
　昨今の就活では上記の保守化傾向と同様に、地元志向の強まりが見られます。この流れは景気動向というより近年継続して見られる傾向だと思われます。やりたいことを優先して勤務地を重視しないというのではなく、親元から通える、「近」隣の会社に就職を希望する学生が増えている、ということです。これは子世代・親世代双方の利害が一致した、共通の感覚ではないでしょうか。
　
　エン・ジャパンが今年6月に公表した「2010年度新卒採用マーケット学生・企業動向」によると、【53.6％】の学生が地元就職を希望しているという結果が出ています。過半数以上が地元で親元から通える就職を望んでいるということです。
　
　この傾向はすでに大学選びの段階から顕著であり、最近の調査では全国平均で41％が地元の大学に進学しているとされており、その割合は年々増加しているとのこと（日経新聞2009年4月3日付け夕刊）。
　
　もっともこうした傾向には地域差があって、進学先や就職先が潤沢にある地域とそうでない地域では地元率に差が見られるようです。裏を返せば、進学先・就職先が確保されれば地元に残ることを希望する学生が増えるだろうと見ることができ、潜在的に地元志向は強くなっていると捉えています。
　
　話が少しそれますが、わたしたちが就職した1980年代からバブル期にかけては、大手商社にせよ金融にせよメーカーにせよ、国際舞台で活躍できる会社というのは大変人気がありました。しかし昨今、若者の海外志向は影を潜め、海外赴任はもちろん、海外出張すら不人気のようですね。トヨタ自動車では海外で活躍することが普通のことであり、管理職への昇格にTOEFLのスコアが課されるという話を聞いた記憶がありますが、トヨタに勤める友人の話では、最近海外に行きたがらない若手が増えているとのこと。トヨタほどのグローバル企業でさえ、社員の気質が変わってきたのかもしれません。
 
・・・『探』・・・
 
　矢野経済研究所が7月に発表している「就職活動に関する学生アンケート調査2009」では、内々定を獲得できていない学生の悩みを聞いたところ、「自分が何に向いているのか？何をやりたいのか？が見つけられない（58.5％、1位）」「自己分析が上手くできない（45.2％、3位）」「自分にフィットする企業を見つけられない（32.3％、7位）」「自己分析から具体的な企業選びに結び付けられない（31.1％、8位）」など、外的要因より自己の内的要因が上位を占めている状況が示されています。つまり自分「探」し、適職「探」しが中心の就活ということです。
　
　彼らは厳しい就活の中で翻弄され、自分を見失いがちであるといえるかもしれません。しかし中にはその手前、就活にのぞむ前段階であがいているという学生も少なくないと想像します。
　
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　傾向がどうであれ、就活はいつの時代も自分の生き方を考えるプロセスということに他なりません。厳しさに流され、自分に正直でいつづけることが難しいときも多々あるかと思いますが、そんな時だからこそ、自分が何をやりたいのか、自分はどうしたいのかを原点に就活を貫いて欲しい。そう願っています。