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Kindleで3Dプリンタの本を出してみた。

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いよいよ日本でも出荷の始まるAmazonの電子書籍端末「Kindle」。iPhone/iPad等のアプリを通じて「電子書籍フォーマットとしてのKindle」自体は既に読まれている方も多いと思いますが、ついに端末も上陸するということで、日本でどこまで普及するか興味深いところです。

そして電子書籍プラットフォームとしてのKindleが普及した場合、どうしても気になるのが関連サービスである「Kindle Direct Publishing(KDP)」。その名の通り、個人でも(出版社等を通じずに)Kindleフォーマットの電子書籍が出版でき、さらにAmazon上で販売もできる!というサービスです。これは乗るしかない、このビッグウェーブにということで、僕も一通りKDPを体験してみました。以下、簡単ですがまとめです。

1. ネタを選ぶ

ここは一番楽しいところですね。何しろ「こんなテーマで書きたいんですけど(著者)」「うーん、それ読みたいと思う人いますかねぇ(出版社)」というキリキリするやり取りをしなくて良いのですから(笑)。しかし言うまでもないのですが、ある程度「売れる」ようにしたいのならば、他人とディスカッションしてアイデアを揉むプロセスは欠かせません。KDPは当然そんな話し相手にはなってくれないので、信頼できる友人との会話や、あるいはソーシャル時代ということでTwitterやFacebook上でのディスカッションが基調になってくるのでしょう。

*ちなみに僕の場合ですが、最近興味を持っている「3Dプリンタ and パーソナル・ファブリケーション」をテーマに選んでみました。

2. 書く

次は当然「書く」という作業です。実はKDP出版で一番ハードな部分かも。というのも「そろそろ締切なんですけどねぇ(出版社)」とおしりを叩いてくれる人がいないので、気分が乗らないとズルズルと出版が先延ばしになることになります。ただ制約がないという状況を逆手にとって、とりあえず思いついたネタで書いてみて、情報が足りない・熱意が湧いてこないとなったら止めて次のネタに移るという「つまみぐい戦法」が使えるのかもしれません。

それから何で書くか?というツール選びも問題です。後で解説するように、KDPではWordファイルも受け入れてくれるのですが、これだと「目次」ページ等が生成されずちょっと見栄えが悪くなります(ファイル内のリンクは引き継いでくれるので、Wordの目次機能や脚注機能を活かすことは可能です)。また僕は大丈夫だったのですが、WordファイルをアップロードするとKDP上でのフォーマット変換(アップしたファイルを.mobi形式に変換してくれる)でエラーが起きる場合があるようです。ですので最初から、ePub形式のファイル作成が可能な編集ツールを使うか、Wordはあくまでも「テキスト」を準備するためのツールと割り切る必要があるかもしれません。

*ちなみに僕の場合ですが、普段からムダに文章が長いので、なんとかある程度のボリュームの文章が用意できました。ツールですが、最初はWordで原稿を準備し、最終的にある方からオススメいただいた編集ツール"Sigil"を使って体裁を整えてゆきました。

3. KDPにアップするファイルを準備する

さて、原稿が準備できたらいよいよアップロードです。公式の解説を読むと、KDPがサポートしているファイル形式は以下の通りとなっています:

現在KDPがサポートしているファイル形式は、HTML (.htm、.html、画像を含む場合は.zip)、 ePub (.epub)、圧縮されたXMDF (.zip)です。 Microsoft Word (.doc、または .docx) で作成した日本語の本については、試験的にサポートしています。出版前に本のプレビューを行い、品質を確認することをお勧めします。

というわけで、試験的ではあるものの、「Wordで書いてそのまま出版」という荒業ができてしまう場合もあります。しかしいろいろ未知の問題があるので、ここはePubでファイルを作って……とやってみたのですが、なぜか僕の場合は(某ツールを使って用意した)ePubファイルの方がエラーになってしまいました。恥ずかしながらePub作成初体験だったので、どこかしら不備があったのでしょう。ということで嫌になってWordファイルをアップしてみたところ、これが問題なく受け入れてくれるではありませんか!なんだ大丈夫じゃーんと思ったのが運の尽き。ちゃんと公式解説で警告されている、

出版前に本のプレビューを行い、品質を確認することをお勧めします。

を怠って登録完了させてしまったために、何度もやり直しを繰り返すはめになるのです。

4. 思い通りの体裁になっているか確認する

ありがたいことに、Amazonから公式のプレビューツールが用意されています(Windows版/Mac版)。アップロードが完了すると、mobi形式に変換されたプレビューファイルがダウンロード可能になるので、これをプレビューツールで確認すれば出版された際のイメージが一目瞭然。またこのプレビューツールは便利で、準備中のePubファイルもその場で変換して、mobi形式に変換された場合の画面を表示してくれます(変換エラーが起きる場合にはちゃんとエラー内容も教えてくれます)。どう見えるか心配、という方は、逐次このプレビューを確認しながら進めると良いかも。

5. 金額やDRM等の詳細を決めて登録を完了させる

この辺りは深入りすると時間がなくなるのでサラッと飛ばしますが、アップロードが終わったら、「いくらで売るか」「DRMをかけるかかけないか」といった詳細設定を行い、保存すれば登録完了。完了するとステータスが「レビュー中」になり、日本語の場合は48時間ほどかけてレビューが行われることになります(当然ですが内容次第でかかる時間は変化するようです)。

* ちなみに僕の場合ですが、価格は300円(文章の量が新書の3分の1程度になったので価格も同じイメージで)、DRMは設定しないことにしました。

6. 出版されるのを待つ

あとは48時間かけてレビューが終わるのを待つだけ、なのですが……僕は変換されたプレビューファイルの確認を怠っていたために、ここで自業自得の手間がかかることになりました。

まず登録完了後、念のためと思ってプレビューを確認してみたところ、横書き設定が縦書き設定になっていて(単にボタンの押し間違いをしたため)、しかも様々なところで体裁が乱れていました(Wordファイルで登録したため)。これはまずいと思い、レビューをキャンセルしようとしたところ……キャンセルできませんでした。

現在KDPでは、いったんレビュー中になってしまうと、「レビューが終わって購入可能な状態になるまで」取り下げることはできません。しかもステータスで上は「出版準備中」となっている(つまり取り下げができない状態である)場合でも、Amazonのストア上で検索するとヒットして、購入することができてしまいます。つまり売りたくないバージョンなのに、誰かが間違えて買ってしまうかもしれないのを手をこまねいて見ているしかありません!

というわけで最終手段として、「キャンペーン」機能を使うことにしました。これは指定した書籍を一定期間無料にできるという機能で、期間は自分で設定することができます。そこでこの間違えたバージョンを無料化し、誰かが誤ってお金を出してしまう、ということが無いようにしました。一連の流れは完全に僕が悪いのですが、せめて無条件の即時キャンセルぐらいはできるようにして欲しい……というのが切なる願いです。

7. 出版後のアップデート

ということでドタバタがあったものの、最終的にWordで書き起こしたテキストをSigilを使って体裁を整え、ePub化したファイルをKDPにアップロード。この(いちおう)完成したバージョンが、先ほどAmazonで購入可能な状態になりました。その名も『3Dプリンタの社会的影響を考える―英国の政策レポートをもとに』です!

でいったん公開されると、コンテンツのファイルや販売条件を再び編集可能な状態になります(ここで初めて取り下げが可能になりますが、すぐにAmazonストア上から消えるわけではなく、処理に時間がかかるようです)。そこで実験的に……というより改めて内容に加筆したい部分が出てきたので、内容をアップデートして先ほどファイルを再登録してきました。そしてまたレビュー中というステータスに。解説によれば、新規登録よりもアップデートの方が時間はかからないそうですが、この最新版がいつ反映されるのか現在確認中というところです。

※ 11月16日追記: やはりアップデートにもある程度時間がかかるようです。最初の登録時(つまり間違えて登録を行ってしまった時)は24時間で出版状態まで行ったのですが、そのアップデートには24時間以上かかり、現在も完了していません。恐らく全体の申請状況等々により、レビューがどのくらいの時間で終わるのかはかなりバラつきがあるのでしょう。

雑感。

というわけで、素人丸出しのドタバタぶりでしたが、分かってしまえば何のことはないという部分も多いので、KDPへの登録自体はそれほど難しくないと思います。これからKDP解説本的なものも数多く登場してくるでしょうし(もう既に出始めていますが)。

それよりも感じたのは、「本」という体裁を整えることの難しさです。今回僕は横書きでファイルを作成したのですが、本当は縦書きフォーマットで作成しようと思っていました。しかしどうやってもまともな縦書きファイルを作ることができず、けっきょく横書きに。これはツール類の進化でどうにかなるかもしれませんが、それ以外にも細かな部分、例えば脚注の処理や図表の掲載方法など様々なところで手を焼きました。本の出版だったら編集者さんにお任せしてしまえるのに!と思ったことが何度も(笑)。

世の中にはパッケージなど関係なく、コンテンツの力だけでグイグイ引っ張っていける人が存在します。そのような人から見れば、また違った景色が見えてくるのかもしれませんが、僕個人としては「本」というフォーマットに見えることが非常に重要でした。それなりの表紙があり、目次があり、脚注があり……そういったことを気にしなければ、それこそWordファイルで書きなぐったテキストを即座にKDPへ!という行動ができるのでしょうが、気にしだすとそう簡単にはゆきません。苦労を重ねながら、なんとか「本」に近づけてゆくことになります。

その意味で、電子書籍に多くの素人が参入するような時代になっても、編集者さんというか編集者的スキルは無くなることはなく、逆にそのニーズが拡大するような感じがしています。テキストを用意すれば、ある程度の価格で体裁の整理からePub作成までを行ってくれるようなサービス。既にあるのかもしれませんが、そんなのがあるといいなぁと作業をしながら感じました。

あともう一つ。アップデートの確認待ちなので、それがどの程度の時間で行われるのか、また読者側のアップデート作業はどの程度簡単なのかによりますが……「最初は必要最低限の内容を用意しつつ、アップデートで情報を追加してゆく」という出版スタイルも可能になるのでは、と感じました。その分最初に高めの価格を設定しておいて(当然ながら読者との信頼関係が必要になりますが)、活動予算を手に入れつつ、逐次最新情報をアップするということも可能になるかもしれません。また無料キャンペーンの活用、シリーズ化の可能性といったことも考えてゆけば、単なる「電子版自費出版」ではない新しい情報発信のスタイルが現れてくるのではないかと感じています。

3Dプリンタの社会的影響を考える―英国の政策レポートをもとに 3Dプリンタの社会的影響を考える―英国の政策レポートをもとに
小林 啓倫

2012-11-13
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というわけで、何はともあれ。無事に『3Dプリンタの社会的影響を考える』が形になりましたので、皆さまどうぞよろしくお願い致しますー!

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