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もしタイガーマスクがマスクを被っていなかったら

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少子化や草食系化など、様々な形で「子供が減る」という問題について騒がれていますが、一方で子供が増えている場所もあります。その1つが児童養護施設。実は厚生労働省の調査によると、平成11年度から20年度の10年間で、入所児童数は約2,000人増加しています:

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(出典: 平成22年版子ども・若者白書 第3章第2節PDF版

最近の入所児童数は3万700名前後で落ち着いているようですが、社会全体で子供の数が減っていることを考えれば、決して楽観できるものではないでしょう。実際に資金とマンパワーの両面で、運営に苦しんでいる施設は珍しくないようです。しかし僕も含めて、そのような状況をよく知っているという人は少ないのではないでしょうか。

しかし、最近この問題に関心を持ったという方もいるはずです。そう、いま児童養護施設が「タイガーマスク運動」の舞台として注目を集めているわけですね:

「失業中のため気持ちだけ」タイガーマスク運動さらに  (asahi.com)

児童養護施設などに匿名で贈り物をする「タイガーマスク運動」は12日も相次いだ。

相模原市の児童養護施設「中心子どもの家」にはタイガーマスクの主人公・伊達直人を名乗る60~70代の男性が現金100万円を贈った。施設の所長を電話で金融機関に呼び出し、手渡した。

兵庫県姫路市の県姫路子ども家庭センターにランドセル21個を届けた人物は、事前に「何個必要か」と問い合わせ電話をかけてきたという。

このほか、タイガーマスク以外にも様々なキャラクターの名前をかたって寄付をするケースが出ているようです。少なくとも子供たちが喜ぶ品々が寄付されている限り、「タイガーマスク運動」は評価されるべき行動でしょう。

しかし今回の出来事については、心配や疑問を投げかける声もあります。もっとも大きな意見は、一過性のブームで終わってしまうのではないかというものでしょう。また人気コラム「ア・ピース・オブ・警句」を書かれている小田嶋隆さんは、今日の同コラムでこう述べています:

 伊達直人の善意をスタジオの善意が賞揚して、その善意の連鎖が新たな伊達直人を召喚しているというふうに考えれば、これらの善意の連鎖は、もしかして、あたらしい何かを生むのかもしれない。

 でも、私は釈然としない。
 もっとはっきりいえば、非常に白々しいものを見た気持ちになっている。
 ヤラセだとは言わない。
 インチキだと断ずるつもりもない。
 でも、薄気味が悪いのだな。どうしても。
 理由は、伊達直人の「善意」が「劇場型の善意」で、それを伝えているメディアの温かい口調も、モロにディレクター目線の賞賛だからだ。

 この度の「タイガーマスク運動」のニュース原稿には独特のいやらしさがつきまとっている。
 強いて言うなら、毎年沖縄から送られてくる「荒れる成人式」の取材映像とちょっと似ている。
 ヤラセではないものの、「実行役と取材側(メディア)の共犯関係」を感じさせるお約束ニュースの気配があるのだ。

 全国のタイガーたちの善行は、「荒れる成人式」の蛮行がそうであるように、メディアがカネと太鼓で報じることをやめれば、じきに沈静化すると思う。
 沈静化させて良いのか?
 というご意見もあるだろうが、私はぜひ沈静化させてほしいと思っている。
 第一、伊達直人が本心から匿名の善意を貫きたいのであれば、彼にとって、報道は迷惑なはずではないか。

少し長い引用になってしまいましたが、ニュアンスは伝わるのではないでしょうか。元々の「タイガーマスク」の真意は分かりませんが、それが報道され、視聴者という「観客」が登場するに至って、何か白々しいものになっているのではないか?という胸のつかえ。小田嶋さんだけでなく、同じような違和感を感じている方は少なくないと思います。

なんて心の狭い、と思われてしまうかもしれませんが、個人的にも小田嶋さんの意見に納得する部分があります。ただ、仮に最初の「タイガーマスク」が偽名を名乗らず、本名でランドセルを寄付していたとしたらどうでしょうか?恐らく何のニュースバリューもないものとして、マスメディアに取り上げられることはなかったでしょう。しかしタイガーマスクという仮面を被ったことによって、匿名の善行への敬意、「タイガーマスク」という物語/シンボルが付加する意味合い(頼れる主人公が苦労を乗り越えて恩返しをする……)、もしくは単純に「タイガーマスクなどというキャラクターの名前をかたって奇抜な行為を行っている」という野次馬根性の刺激といった側面が生まれ、「タイガーマスク運動」と呼ばれるまでの大きな行動が生まれるに至りました。

改めて、それが狙って行われたものかどうかは分かりません。しかし人々の関心を集めたことは事実であり、是非を判断すべきは、これからその関心がどのように帰着するかという点ではないでしょうか。それこそ一過性のブームで終わったり、不要なものを送りつける偽善的活動に変化してしまっては何にもなりません。僕らに求められているのは、「あー良い話を聞いた」と観客で終わるのではなく、関心を維持して行動につなげていく姿勢なのではないかと思います。

< 追記 >

ちょうどITmedia上でも、以下のような記事が掲載されていました:

「何が必要か、事前に施設に問い合わせを」 “タイガーマスク運動”受け、児童養護施設協議会が「お礼とお願い」 (ITmedia News)

 「子どもや児童養護施設には何が必要なのか、事前に施設にお問い合わせいただくとうれしく存じます」「共同募金会を通じた寄付もできます」――児童養護施設にランドセルなどを寄付する“タイガーマスク運動”の広がりを受け、全国児童養護施設協議会が、「児童養護施設へのご厚意にかかわるお礼とお願い」と題した文書を1月13日付けでWebサイトに掲載した。

 子どもや施設に何が必要か、事前に問い合わせた上で寄付してもらえれば、「よりみなさんのご厚意を活かすことができるとともに、子どもたちも、どなたからいただいたご厚意かを知ることで、今後の成長の糧ともなる」としている。施設の所在地は、同協議会サイト内のPDFファイルで確認できる。

また施設の置かれている状況についても、次のように解説されています:

 児童養護施設は全国579カ所あり、約3万人の児童が暮らしているという。子どもの生活や施設運営の費用は国と都道府県が半分ずつ出し、基本的な生活は保障されているが、「子どもの自立のための費用などは十分な配慮ができているとはいえない」状況で、多くの人からの寄付や協力が運営を支えているという。

きっかけはタイガーマスクだろうが、単なるマスメディアの「お涙頂戴」路線だろうが構いません。できる限り関心が続くことを願います。

【○年前の今日の記事】

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