【書評】『日本サッカーが世界で勝てない本当の理由』
ここのところ、仕事に旅行に火山噴火にと、相変わらず本を読む時間がまったく取れず……ご献本いただいた本も、なかなかご紹介することができなくて申し訳ございません。ゆっくりになってしまいますが、少しずつ書評を書いていきたいと思います。
で、申し開きはこのぐらいにして。今回は、毎日コミュニケーションズ様からご献本いただいた『日本サッカーが世界で勝てない本当の理由』です。ちょうど2010年のFIFAワールドカップまで1ヶ月となりましたが、単に日本サッカーだけでなく、日本社会のあり方を考えさせられる本でした。
本書はタイトルの通り、現在の日本サッカー界が抱える「世界に勝てない」という問題について考察を加えています。いや、正確に言えば「なぜ日本のサッカー正代表は欧米+アフリカ諸国の代表に勝てないのか」といったところでしょうか。個人レベルで言えば、欧米のトップリーグで活躍する選手はもはや珍しくなりましたし(最近では「本田△」こと本田圭佑選手が頭に浮かびますね)、本書でも紹介されているように、ユースチームが好成績を残すケースも数多く存在しています。またアジアカップでは2000年、2004年と日本の優勝が続きました。なのになぜ、正代表が世界にでるとふがいない結果に終わることが多いのか。本書は日本サッカー界をとりまく環境を中心に考察を行っています。
実際、本書のタイトルを「サッカー社会論」あるいは「サッカー文化論」と置き換えても違和感がないかもしれません。もちろん戦術やプレーレベルの話も登場するものの、日本サッカー協会の抱える問題点や、選手育成のあり方、そしてサッカーと社会の関係はどうあるべきかなど、テーマは主にグラウンドの外の世界に置かれています。これまでも日本サッカーを取り巻く「環境」をテーマに書かれた本はあったと思いますが、本書の著者である岡田康宏さんはサッカー情報サイト「サポティスタ」の編集人を務められている方であり、良い意味で「外からの視線で」客観的な考察を行われています。選手以外の日本サッカー界の当事者たちにとっては、中だけを見ていては決して気づくことのない、耳の痛い指摘が多いのではないでしょうか。
その特徴がよく現れているのが、小飼弾さんの言葉や、"Rauru Blog"の記事が引用されている点でしょう。なぜサッカー本に弾さんやRauru Blogが!?と驚かれるかもしれませんが、当然ながら何の脈略もなく登場しているわけではなく、本書の議論が巧みに補強されています(詳しくはぜひ本書でご確認下さい)。仮に本書を新書という形ではなく、ブログの記事として読んでいれば、何の驚きもなかったかもしれません。そういったネット的な、学際的な雰囲気は、岡田さんがサポティスタの編集人であるということからすれば当然なわけですが、本書が持つ価値の一つになっていると思います。
さてさて、来月のワールドカップが過ぎ、祭りの余韻も覚める頃。本書が示す「日本サッカーが世界で勝てない本当の理由」の解決に向け、日本社会全体としてどこまで変わっていけるのでしょうか。一抹の不安もありますが、本書のような書籍が登場する環境になってきたことは、1つ明るい材料なのではないでしょうか。
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