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スマートグリッド整備コスト、誰が負担する?

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米コロラド州ボルダーで行われている「スマートグリッドシティ(SmartGridCity)」プロジェクト。ユーティリティ企業のエクセルエナジー(Xcel Energy)社が進めているもので、スマートグリッドの先進事例として紹介されることも多いプロジェクトですが、その裏でコストに関する問題が持ち上がっているそうです:

Xcel’s SmartGridCity Can Thank Fiber For Ballooning Costs (Earth2Tech)

Xcel Energy’s showcase smart grid project in Boulder, Colo. has cost a lot more than originally expected, and the Colorado Public Utility Commission is now asking the utility to prove why it needs its Colorado customers to foot part of the bill. The main culprit for the cost overruns? — fiber.

エクセルエナジー社がコロラド州ボルダーで進めている、スマートグリッドのショーケース・プロジェクト"SmartGridCity"。当初の予算を大幅にオーバーしており、コロラド州公益事業委員会はエクセルエナジー社に対して、「なぜコロラド州の住民がプロジェクト予算の一部を支援しなければならないのか」を明らかにするように求めている。予算超過の主犯は誰なのか?――それは光ファイバーだ。

ということで、光ファイバーの敷設に予想以上のコストがかかっているとのこと。実際、当初の予定ではプロジェクト全体で1,530万ドルという見込みだったものが、最新の想定では4,210万ドルにまで膨れあがっているそうです。さらに運用・維持コストまで含めれば、1億ドルを超過する可能性もあるのだとか。コロラド州はこの予算超過ついて、エクセルエナジー社が電気料金の値上げで埋め合わせを行うことを許可したのですが、その代わりに同社に対して説明を求めたわけですね。確かに当局でなくても、「なんでそんなに予算オーバーしてるの?支払う価値はあるの?」と聞きたくなるのも無理はありません。

Rumors that SmartGridCity was facing fiber-related cost overruns have been circulating for some time. The whole affair brings into question whether smart grid services alone can justify the cost of building out a fiber optic network. While many utilities have fiber optic networks installed, they’re usually limited to major transmission lines and end at big substations, rarely venturing out into neighborhood distribution grids.

Granted, some municipal utilities have installed fiber optic lines to homes and businesses and are now looking at providing smart meter connectivity through them — but those investments have typically been justified by including the potential to sell video, data and voice communications over the same lines.

スマートグリッドシティ・プロジェクトが光ファイバー敷設コストの超過に直面している、という噂は以前から出回っていた。この出来事によって、「スマートグリッド関連サービスだけで、光ファイバーネットワークを整備するコストを負担することを正当化できるか」という疑問が持ち上がっている。多くのユーティリティ企業は既に光ファイバー網を敷設済みだが、主要な送電網と変電所の周辺に限定されており、配電網にまで整備している例は少ない。

確かに公営ユーティリティ企業の中には、一般家庭や企業にまで光ファイバー網を敷設済みで、それを通じてスマートメーターを整備しようとしているところもある。しかしそうした投資が正当化される際には、同じ光ファイバー網を使って、ビデオ販売やデータ通信、音声コミュニケーションなどといったサービスを展開しようという話が含まれている場合が多い。

ということで、今回の問題は(スマートグリッド整備が本格化した場合)エクセルエナジー社のみの問題にはとどまらない可能性があること、コスト負担を正当化するには別の要素を持ち出す必要があることが示唆されています。記事では光ファイバー以外の、もっと安い方法で通信網を整備する可能性についても触れられているのですが、程度の差はあれ何らかのコストが発生することは避けられません。「スマートグリッドの敷設コストは正当化できるのか」「コストの費用対効果をどう判断するのか」――以前から懸念されていたポイントですが、いよいよ現実のものとなりつつあるようです。

今回は米国の例であり、既に電力系統の高度化が進んでいる日本の場合、状況は異なります。ただし世界の流れに合わせてスマートグリッド化を進めた場合、当然ながらそこにはコストが発生します。ではどこまでそのコストが認められるのか、誰がどう負担するのかといった議論が起きるのは間違いないでしょう。電力会社だけに任せておけば良いのか?そのコストが電力料金に転換されることを認めるべきか?別の形(派生サービスでの収益など)で穴埋めさせるべきか?関連技術の海外輸出を見据え、産業育成的な視点で考えるべきか?――等々の問題を考える上でも、ボルダーでの議論の行方は、決して無視できない話なのではないでしょうか。

< 追記 >

その意味でこのニュースを読むと、いろいろと考えさせられるかもしれません:

Google、1Gbpsのブロードバンド実験計画を発表――5万世帯以上に提供 (ITmedia エンタープライズ)

実験は、Googleが米国内で選ぶ1つ以上の自治体で行う。5万~50万世帯に対し、家庭に直接光ケーブルをつなぐFTTHで、現行の家庭向けブロードバンドの100倍以上高速なネットワークを提供するという。サービスは有料で、“ほかのサービスと十分競争できる”価格になるとしている。

Googleはこの実験の目的を3つ挙げている。まず、超高速なネットワークを必要とする家庭向けキラーアプリやサービスの登場を促すこと。次に、ファイバーネットワークの新たな構築方法をテストし、そこで得たノウハウをほかの事業者と共有すること。そして、ユーザーがサービスプロバイダーを選べる“オープンな”ネットワークを提供すること。

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