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「ネットからの意見収集システム」の政治分野での成功は、運営者の姿勢にも左右されるのではないか

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みずほ情報総研の吉川さんが、「ネットからの意見収集システムは政治分野でも成功するのか」というエントリを書かれています。そちらへの反応として少し(タイトルで言い尽くしてしまっているのですが)。

ネットからの意見収集システムは政治分野でも成功するのか (ナレッジ!?情報共有・・・永遠の課題への挑戦)

パソコンやサービスへの改善や不満の意見に比べて政治の分野での意見は多種多様だ。しかもそれぞれが複雑に絡まっていてひとつの意見を取り上げると他の意見を却下することに繋がったりしそうだ。意見を発する人の分母も大きくてその中には当然酷い内容も含まれるだろう。そしてせっかく意見を上げたのに無視されたり却下された人が逆上してアンチに転じることは良くある話だ。

こうした問題は当然予め分かっていることで、Change.govがこうした欠点を補うためにどんな工夫や仕掛を入れたのは興味が湧くところである。そしてそれが上手に機能するのなら日本の政党も直ぐに真似をしそうだ。選挙が近いこともあるし。

残念ながらこの"Salesforce CRM Ideas"を採用したページ"Citizen’s Briefing Book"は既にクローズされてしまっているので、どのような工夫がなされていたのか確認できないのですが、結果として7万人を超えるユーザーから意見の応募があったとのこと。少なくとも注目という点ではある程度の成果を残したようです。

しかし吉川さんも仰る通り、問題はそれがユーザー=国民の満足度を高め、さらに本当の意味での「いま実行されるべき政策」へとつながっていくかどうか。米国でも同様の懸念を抱いている人が少なくないようで、例えば次のような意見が出ています:

Good intentions don't always yield good ideas (nwi.com)

I see the virtue of being open to the public's concern. I cannot imagine that the president will give attention to issues based on their popularity. I want to believe that he has a clear sense of which problems require resources and their appropriate urgency.

This Web-based popularity poll is "American Idol" in public policy. And who is winning? As of this writing, and this stuff changes by the quarter hour, there are 91,370 points for Ending Marijuana Prohibition. Actually that is a bloated figure; each positive or negative vote is worth 10 points.

国民の関心にオープンになることの価値は認める。どの問題に注意を向けるか、を関心度に応じて決めることのない大統領など考えられない。ただ、彼がどの問題がどの程度のリソースを必要として、どの程度急を要しているかはっきり分かっていると信じたい。

ウェブベースの人気投票は、テレビ番組「アメリカン・アイドル」の手法を公共政策に持ち込むことにつながる。勝つのは誰か?これを書いている時点では(結果は15分間隔で更新されるのだが)、「マリファナ禁止の撤廃」が91,370ポイントを得ている。もちろんこれは、水増しされた数字だ。肯定・否定ともに、1票が10ポイントとして換算される。

まさかこの結果を見て、オバマ大統領がマリファナを合法化することなどないでしょうし、またこの意見を無視しても怒り出す人は少ないでしょう。しかし「やっぱりネットで意見を募るなんてバカらしい、止めるべきだ」と考える人が増えてしまうかもしれません。また麻薬のようにクロに近い問題ではなく、妊娠中絶のような賛否が拮抗する(そして両サイドが強い信念のもとに行動している)問題では、逆に対立が表面化して問題への対処を難しくしてしまうでしょう。

民間のコミュニティサイトでは、運営者が意見の流れをハンドリングして、コミュニティ自体を崩壊させてしまわないように対応することとなります。現在成功しているコミュニティサイトでも、CEOレベルで重要な方向決定をすることで危機を乗り越えた、という過去を持っていることは珍しくありません。サイト上の仕掛けや仕組みを工夫することも重要ですが、最終的には運営者の腕に寄る場合も大きいのではないでしょうか。今回の"Citizen's Briefing Book"の例で言えば、オバマ大統領が寄せられた意見に全て目を通し(実際にそうしていると言われていますが)、政治的に微妙な問題については先手を打って動いておくことが必要だと思います。

ただオバマ政権はご存知の通り、大統領選の時からソーシャルメディアを活用してきた経験と実績がありますが、これを他国の政治家がマネできるかどうか。先日「電子政府の障壁―EU委員会報告書をめぐって」というセミナーに出席してきたのですが、英オックスフォード大学のヘレン・マーゲッツ教授が「電子政府の実現に立ちふさがる壁」の1つとして、「WEB1.0的な態度が政府に根強く残っていること」を挙げていらっしゃいました。市民の声に耳を傾けるのは当然として、それを会話にまで発展させていけるかどうか。仕組みや仕掛けといった要素が力を発揮するのは、市民と対話する姿勢が根づいてからなのではないでしょうか。

……本当に余談ですが、この"Citizen's Briefing Book"の最終結果で「オンラインポーカーの合法化と規制設置、プレーヤーの権利確立」が11位にランクインしたとのこと。コメント数では2番目に多かったトピックだそうです:

Online Poker Regulation Finishes 11th in Citizen’s Briefing Book (Poker News Daily)

別にオンラインポーカーを軽視するわけではありませんが、どう考えても、これがいま米国が11番目に立ち向かう問題だとは思いません。「ネットで政治的意見を募る」という手法、まだまだ研究が必要なようです。

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