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米国のウェブも「残念」だけど、それを乗り越えようとする人々がいる

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最近「日本のウェブは残念」と発言された方がいらっしゃいましたが、残念ながら米国のウェブにおいても、「残念」な状況が生まれているようです。ただしこちらの話には、希望を失わずに頑張っている人々が登場するのですが:

Ideas Online, Yes, but Some Not So Presidential (New York Times)

オバマ大統領の意向により、米国政府がウェブサイトを通じた双方向コミュニケーションに力を入れていることについてはご存知の方も多いでしょう。しかしそこに参加する米国民がモラルを持った人々ばかりかというと、当然ながらそんなことはありません。以前このブログでも紹介しましたが、オバマ政権への要望募集サイト"Citizen's Briefing Book"(期間限定のため既に閉鎖済み)では、「マリファナ合法化」が高い支持を得るなどといった問題が起きてしまっていました。

そして New York Time の記事が取り上げているのが、現在オープン中の"Open Government Dialogue"というサイト。「政府の透明性・開放性・協調性を高め、民主主義と政府の効率性を促進するにはどうしたら良いか?」というテーマでディスカッションするためのオンライン・フォーラムなのですが(ちなみにオルタナブロガーの佐川明美さんもこのサイトについて記事を書かれています)、ここでも不適切な発言が行われて盛り上がるという現象が起きているとのこと:

The White House made its first major entree into government by the people last month when it set up an online forum to ask ordinary people for their ideas on how to carry out the president’s open-government pledge. It got an earful — on legalizing marijuana, revealing U.F.O. secrets and verifying Mr. Obama’s birth certificate to prove he was really born in the United States and thus eligible to be president.

オバマ大統領が公約した「開かれた政府」の実現に向けたアイデアを、一般の人々から募集するオンラインフォーラム(※Open Government Dialogue のこと)を開設することで、ホワイトハウスは「人民による政府」に一歩近づいた。しかしそこで得られたのは、「マリファナを合法化せよ」「UFOに関する機密情報を開示せよ」「オバマ氏が本当に大統領になる資格を有していることを証明するために、出生証明書を提示せよ」等々のあきれるような提案だった。

そういえば日本でも、民主党が開設したSNSが10日で閉鎖されるなどという事件がありましたが、これと似たような状況なのかもしれません(民主党SNSでも政治と無関係のコミュニティーが乱立したことが閉鎖理由の1つとのこと)。確かにこんな状況になったら、さっさと閉鎖してしまうというが最善の策のようにも感じられますが、Open Government Dialogue では異なったアプローチが取られました:

“Even for people who want to talk about U.F.O.'s or the Kennedy assassination, we have created a forum for people to have a conversation with each other, and potentially to go off and organize and develop this further,” said Beth Simone Noveck, a New York Law School professor who is Mr. Obama’s deputy chief technology officer for open government.

「私たちは人々がお互いに話し合い、その後さらに協力関係を続けていってもらうためにオンラインフォーラムを開設しましたが、UFOの秘密やケネディ大統領の暗殺について語り合いたい人々ですらもその対象に含まれているのです」と、ニューヨーク法科大学の教授であり、オバマ氏の下でオープン・ガバメント担当副技術責任者を務めている Beth Simone Noveck 氏は語った。

つまり不適切な人々を排除しようというのではなく、どんな考えの持ち主でもとにかく参加してもらうと。それでは不適切な発言は野放しなのかというと、決してそんなことはありません:

She argues that the experience of collaborative Web sites like Wikipedia proves that groups of users can police sites to keep small groups from spoiling things for everyone else. During the public brainstorming about rules for open government, the White House asked visitors to vote on the best ideas by clicking a thumbs-up or thumbs-down button, much as people vote on the most interesting news articles on sites like Digg.

ウィキペディアのようなコラボレーション型ウェブサイトの実例が示しているように、ユーザーの一部が自ら「警察」としての役割を果たし、少数の人々によってコミュニティ全体が崩壊させられてしまうのを防ぐことができるはずだと彼女(※Beth Simone Noveck)は主張している。開かれた政府に関する公開ブレインストーミングが行われていた際、ホワイトハウスはユーザーに対して、(個々の提案に対して)「良い」「悪い」の評価を行うように要請した。それはちょうど、Diggのようなニュースサイト上で、最も面白い記事に投票が集まるようなものだ。

と、ユーザーが集団として「自浄能力」を発揮すること期待し、投票によって適切/不適切な投稿をより分けるよう呼びかけています(呼びかけは現在も Open Government Dialogue のトップページに掲載されています)。この対応がどこまで有効かはまだ分かりませんし、事実現時点でも「出生証明書を提示せよ」などの議論が上位に上がってきてしまっていますが、とにかくユーザー自身がコミュニティを維持していくことに賭けているわけですね。

一部の参加者が不適切な行動を取ることにより、コミュニティ全体が危機にさらされる――今回のホワイトハウスの例に限らず、あらゆるオンライン・コミュニティにおいて発生し得る状況でしょう。それを「残念」と切って捨てるか、ユーザー自身の成長に期待するか。非常に難しい問題ですが、僕自身は後者のアプローチを応援したいと思います。海外の事例とはいえ、ホワイトハウスという場でそれが実践されていることは、ユーザーの自浄能力を信じる人々にとって自信につながる話ではないでしょうか。

かつて梅田望夫氏は、『ウェブ進化論』において

日本もそろそろインターネットの「開放性」を否定するのではなく前提とし、「巨大な混沌」における「善」の部分、「清」の部分、可能性を直視する時期に来ているのではないか。

と主張しました。まさしく「巨大な混沌」から「善」を拾い出そうとしているのが"Open Government Dialogue"の取り組み。彼らに倣って、重要な社会問題を議論する場面でもオンライン・コミュニティを活用しようという動きが、私たちの周囲でも活性化していくことを期待しています。

【○年前の今日の記事】

『隣人祭り』という処方箋 (2008年6月24日)

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