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日本でもマイクロファイナンスを一般化するために

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マイクロファイナンス、もしくはマイクロクレジットという言葉を耳にされたことがあるでしょうか。普通の銀行からお金を借りることのできない貧困層・低所得者を対象に、小規模の融資を(時には無担保で)行うことを意味する言葉なのですが、いわゆる消費者金融と大きく異なる部分があります。それは「ビジネスとして継続的に事業を行いつつ、貧困撲滅を目標とする」という点。「少しお金があれば仕事が始められるのに」という人々に対して金銭的・技術的サポートを行うことで、借り手自身の努力で貧困を脱してもらうというのが特徴であり、慈善活動ではないという点で「施し」的にお金をばらまくこととも異なっています。

マイクロファイナンスの事例として最も有名なのが、ムハマド・ユヌス氏がバングラディシュに創設したグラミン銀行でしょう。しかしグラミン銀行があまりにも注目されてしまったため、「マイクロファイナンスは途上国のもの」というイメージがついてしまっているのではないでしょうか。実際にはそんなことはなく、貧困問題に対する効果は先進国でも実証されています。例えば『マイクロファイナンスのすすめ―貧困・格差を変えるビジネスモデル』という本の中に、こんな一節があります:

実際、マイクロファイナンスによって貧困層は貧困の悪循環から脱却でき、借り手の厚生水準が高められたという実証研究は多数報告されている。たとえば、米国のマイクロファイナンス機関であるアクシオンが、過去10年間に494万人に123億ドル(約1.3兆円)を融資したうち、894人のマイクロファイナンスの借り手に3年間の実態調査を行った結果、彼らの所得は平均で1月当たり455ドル(約5万円)、38%増加した。また、1月当たりの平均利益が47%増加したことが報告されている。

マイクロファイナンスが幅広い貧困対策となり得るのであれば、日本でも取り組んでみてはどうかというのが次にくる話でしょう。実際、最近の貧困・格差問題/グローバリゼーション問題への関心の高まりもあり、マイクロファイナンス的試みをスタートさせるところがいくつか登場しています。しかし依然として「消費者金融と何が違うの?」という意識が強く、「そもそもマイクロファイナンスとは……」という議論から始めなければならない場合が多いようです。

実は最近、知人がこんな活動に関わっていることを教えてもらいました:

LIVING IN PEACE (リビング・イン・ピース)

貧困問題を考えることを目的に設立された非営利団体で、現在は途上国のマイクロファイナンス機関を支援するファンドを準備とのこと。その一方で、マイクロファイナンスを研究する勉強会を開催するなど、啓蒙活動も行っています(よろしければ、サイトにアクセスしてどんな活動を行っているのか確認してみて下さい)。こういった団体が地道に実績を積み重ねていくことが、日本でも「マイクロファイナンス」というソリューションを定着させることに必要不可欠なのでしょう。

前述の『マイクロファイナンスのすすめ』では、マイクロファイナンスが成功する際のポイントの1つとして、以下のような指摘を行っています:

通常の銀行などとは異なり、借り手との間にはきめ細やかな信頼関係が構築されることが必要。貧困層や低所得者層には、生活・経営・技術などの指導・相談や就労支援などを行う。それらの面での手間やコストをかけることによって、借り手との信頼関係が構築される側面がある。それが、原則無担保の融資でありながら高い返済率を確保することに繋がる。

借り手と貸し手の間にきめ細やかな信頼関係を構築する。そのためには、各国の実情に応じてマイクロファイナンス・モデルをカスタマイズしていくことが必要不可欠になるでしょう。「マイクロファイナンス?ああ、貧困層に小口融資することでしょ」のような単純な理解では、効果的なマイクロファイナンス機関を創設することも、適切な機関を選んで資金援助を行うことも不可能になってしまいます。先日のエントリでも書きましたが、まずは貧困問題に関心を持ち、正しい知識を理解し普及させること。それが第一歩になるのではないでしょうか。

【○年前の今日の記事】

探し物は、外にある (2007年4月5日)
ネット平均年齢を上げよう。 (2006年4月5日)

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