無関心と「貧困ビジネス」
週刊ダイヤモンド、3月21日号の特集は「貧困」。インパクトのある表紙に注意を引かれ、思わず購入してしまいました:
この特集、非常に力が入っています。単に「こんなに貧困層がいる!」と煽るだけでなく、それが社会全体にどんな影響をもたらすか、そして解決策として何があるのかまで考えられているところがポイント。タイトルに「あなたの知らない」という形容詞が付けられているように、非常に深いところまで問題を掘り下げていると感じました(単に僕が不勉強だった、という面もありますが)。
勝手ながら、僕はこの特集のキーワードが「無関心」であるように思いました。もちろん僕もこの日本で生活し、仕事をしているわけですから、経済状況が悪化していることは身に染みて感じています。しかし、貧困層にいる人々の状況をどこまで理解できているか、そして自分自身にも関係する問題だと捉えられているかというと、誉められたものではありません。そして僕に限らず、ともすれば「貧しいのは自己責任」「僕には影響のない話」「『ホームレス中学生』のような美談だってあるじゃないか」と考えてしまうのが日本人の「貧困感」ではないでしょうか。しかし現実を直視しないことが、政府や政党による貧困問題の放置を許すことにつながり、巡り巡って社会全体の負担を重くしている現実を本特集は解説しています。
問題は、貧困に陥っている人たちにあるのではなく、貧困を直視しない社会にある。
これは特集の最後に掲げられた言葉ですが、この文章を私達一人ひとりがよく考えなければならないと思います。
もう1つ、たまたま貧困問題に関する本を読んだところだったので紹介しておきましょう:
貧困層をターゲットにしたビジネス=「貧困ビジネス」という言葉も定着しつつある感がありますが、本書はその現状を解説した本です。ダイヤモンドの特集でも1章が「貧困ビジネス」に割かれているほど、社会にとって無視できない存在となりつつあるこの問題。もちろん弱者救済を目的とした良心的なビジネスも存在しますが、一方で弱者を食い物にし、そこから得た資金で一般人にも牙をむくような組織が存在していることが指摘されています。
例えば、依然として解決の糸口が見えない「振り込め詐欺」の問題。これに貧困層が強く関わっている側面として、こんな指摘がされています:
他人名義の携帯電話の契約や口座開設、架空会社の設立には、消費者金融で借金を重ねた多重債務者やホームレスといった社会的弱者が利用されています。
生活に困っている人たちの弱みにつけ込む形で、携帯電話の契約や預金口座開設に必要な名義を借りたり、買い取ったりしてしまうのです。
(中略)
したがって、「振り込め詐欺」の被害を食い止めるためには、「名義貸し」や「名義売り」の問題を解決することが一番効果的であると考えられます。しかし、実際に「名義貸し」や「名義売り」を一掃するのは非常に難しいことです。
もちろん名義を貸したり売ったりする行為自体が問題ではあるのですが、今日の生活にも困るような人々に、倫理を守れというのが現実的な話でしょうか。「貧困になったのは自己責任」と構えていれば、彼らを温床として(本書では、試算ですが富裕層ビジネスと貧困層ビジネスがほとんど同じ市場規模を持っている可能性が指摘されています)犯罪組織がのさばり、結果として社会全体に対する負担を増大させることになるでしょう。「自分たちにも影響があるからなんとかしろ」という言い方はあまり好ましくありませんが、少なくとも自分たちと無関係の問題ではないのだ、という点はよく理解しておく必要があると思います。
幸いなことに、週刊ダイヤモンドや『貧困ビジネス』のように、この問題を扱う新聞・雑誌記事、テレビ番組、書籍等が増えてきました。ダイヤモンドの記事では「これが一過性のブームとならないように願う」と述べられているのですが、少なくとも一過性のブームとしてだけでも、貧困問題に目を向ける人が増えることを願います。