自動車に25万円補助するなら、YouTube も使いませんか?
米国で大手自動車メーカーの救済が議論を呼んでいますが、日本も他人事ではありません。不景気に苦しむ自動車業界への救済策的な性格を持つ、自動車購入助成案が検討されています:
■ エコ買い替え、呼び水なるか 自動車・家電購入補助 (asahi.com)
最近「ECTの購入助成+高速料金の週末減額」という策が高速道路の利用率上昇に効果があったことを受けてか、今度は自動車の買い替え・省エネ車の新車購入に補助金を出そうという案が検討されているとのこと。
自動車では、新車登録してから13年以上の車を買い替えて、古い車を廃車にする場合、一定の燃費基準を満たしていれば、普通車で25万円、軽自動車で12万5千円を補助する方向。4月から始まった自動車取得税などの減免制度と合わせれば、ハイブリッド車などは最大で40万円近く負担額が減る計算だ。
自動車業界は深刻な販売不振に苦しんでおり、「一気に販売台数が増やせるチャンス」(販売会社幹部)などの期待の声が相次ぐ。第一生命経済研究所の熊野英生・主席エコノミストは「45万~151万台の買い替え需要を刺激する」と試算し、「30~50代の勤労者の購買力のてこ入れになる」と分析している。
確かに「そろそろ今のクルマを買い替えないと」と考えている人々にとっては、今回の助成が良いきっかけとなるでしょう。しかし、お金に余裕が無いということだけが自動車離れの原因はではないはずです。そもそも自動車自体に魅力を感じない人々が増えてきていることが指摘されていますから、単に買いやすくするというだけでは、今回の策は一時的な延命策で終わってしまうでしょう。特に「若者の自動車離れ」が叫ばれる中で、30代~50代をターゲットにした「買い替え」刺激策を取るというのは少しズレていると思います。
一方米国ではというと……フォードがこんなキャンペーンを展開しているそうです:
■ Ford Takes Online Gamble With New Fiesta (Wall Street Journal)
フォードの"Fiesta Movement"キャンペーンについて。どんな内容か、記事を抜粋&翻訳しておきます:
To build a new generation of Ford car buyers, the "Fiesta Movement" marketing effort is enticing its 100 test drivers with a free car for six months, auto insurance and gas. In return, they agree to upload their adventures online.
Ford selected the 100 participants from more than 4,000 video submissions viewed more than 640,000 times online. Ford assigned applicants two scores: a "social vibrancy" rating based on how much they were followed online and across how many platforms; and an overall grade based on those factors plus creativity, video skills and their ability to hook a viewer within the first five to 10 seconds.
フォード社製自動車の購入者を新しい世代の中にもつくるために、"Fiesta Movement"と名付けられたマーケティングキャンペーンでは、「6ヶ月間無料で乗り放題、保険とガソリン付き」という条件で100名のテストドライバーを募集した。その代償として、彼らには自分の体験をオンラインで公開することが課せられる。
フォードは4,000件以上が投稿され、64万回以上も閲覧されたビデオの中から100名の参加者を選んだ。その際、フォードは応募者を2つの点からチェックした。1つは「活発に他人と交流しているか」度で、これは応募者がオンライン上でどれだけのウェブサービスに参加し、どれだけの他ユーザーからフォローされているかを基に算出された。もう1つは全体的な評価で、これは創造性・ビデオ作成能力・最初の10秒で視聴者を惹きつける能力などから決定された。
要はオンライン上で影響力のある人物を100名募集して(応募の条件として YouTube 上に動画をアップしてもらったようです)、無料で自動車(Fiesta)を提供する代わりにその体験をオンラインで公開してもらう、という話ですね。こういった手法は最近では「スポンサード・カンバセーション」と呼ばれ、賛否両論あるのですが、個人的には「~というメリットを与える代わりに~ということをしてもらっている」という関係が明示されているのであれば、判断は視聴者に任されているという意味で許されても良い手法ではないかと考えています。また、
But the campaign isn't without risks. Ford says it will have no control over the online material posted by the 100 participants. That means some could be bluntly critical of the car and Ford won't be able to stop it.
このキャンペーンにはリスクも伴う。フォードは100名の参加者によってオンライン上に投稿されるコンテンツについて、何の検閲も行わないことを宣言している。つまり Fiesta について激しい批判が行われたとしても、フォードにはそれを止める術がないということだ。
と「参加者の自由な発言」を容認していますから、この点でも問題の無いキャンペーンではないでしょうか(もちろん「便宜をはかってもらった以上、批判など書けないはずだ」という意見もあると思いますが)。
ちなみに選ばれた100名の参加者は「エージェント」と名付けられ、公式ページにこのような形でプロフィールが掲載されています。よく見ると、下の方にエージェント個人の Twitter/YouTube/Blog へのリンクがちゃんと貼られていますね:
さてさて、これから参加者たちがどんなコンテンツをアップするのかは分かりませんが。いずれにしても、彼らが開拓したい若者層の中で、よりユーザーの生の声に近い情報が広まることになるでしょう。もし Fiesta がクチコミに耐えうるだけの魅力を持つクルマであれば、このキャンペーンがもたらす効果は少なくないはずです。
そういえば日本の自動車メーカーだって、ブログや仮想空間をマーケティングに活用するなど、新しいテクノロジーの活用には積極的だったはず。政府から対処療法を施されるだけで良しとせず、いまいちど、消費者との対話を始めて欲しいと思います。
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