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江戸時代の本屋に学ぶ?

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昨日に引き続き、いま読んでいる『本を読むデモクラシー―“読者大衆”の出現』という本からの話。本というメディアが登場して間もない頃、人々がどのようにそれを利用していたかが描かれているのですが、日本でもユニークな仕組みが存在したことが紹介されています。そのひとつが「継ぎ本」というシステム:

さて、わが日本における「貸本屋」だけれど、17世紀前半、寛永年間からこの商売が存在したことが判明している。興味深いのは、行商本屋が貸本屋を兼ねていたという、いかにも日本的な商売の形態だ。商品を担いで、客のところを定期的にまわり、読み終えた本を回収して、新しい本を置いていくというシステム。つまりは、あの越中富山の薬売りのような商売――「継ぎ本」と呼ばれる――が、長く続いたのであった。

まさしく富山の薬売りの書籍版、といった商売ですが、「手元にあるものを利用し終わると次のものが送られてくる」という点で、宅配レンタルのツタヤディスカスなども連想させます。以前 Polar Bear Blog の方で「宅配レンタルモデルが本にも登場した」というエントリを書いたのですが、宅配便ではなく自ら出向いて書籍を貸すという点が違うだけで、既に17世紀日本には「本の宅配レンタルモデルが存在した」と言えるかもしれません。

しかもこの「継ぎ本」というシステム、単にお客の便宜を図るというだけでなく、もう一つ大きな利点がありました:

こうして、行商というかたちをとることで、江戸時代の貸本屋は、路地裏の長屋に入り込んだり、地方の庄屋さまの座敷にまで上がり込んだりして、さまざまな読者との親密な交流をはかっていた。

商店の御用聞きのようなもので、客先を一軒一軒回ることが、お客との密接な関係をつくることになっていたわけですね。さらに:

このようにして、わが国では、版元を兼ねる貸本屋が、作品の成立に関与する例が非常に目立つのである。「行商」や「継ぎ本」というかたちで、顧客と身近に接していた江戸時代の貸本屋は、読者の好みやその変化を敏感にキャッチすることができた。そして、こうしたアンテナを生かして出版に乗り出して、民衆の読書を活性化していったのだ。

とのこと。さしずめ今日の Amazon.com のレコメンデーションシステム、といったら言い過ぎかもしれませんが、本を売る・貸すだけでなく出版する側にまわれるほど、人々のニーズを把握できていたと。今日の中小書店が面している過酷な状況とは、雲泥の差があると言ってよいでしょう。

もちろん今日の流通システムや著作権制度は、江戸時代とは大きく異なります。出版される本の量と種類も多いですし、自動車を使っても持ち運べる本には限りがありますから、「『継ぎ本』ビジネスを現代に復活させよ!」などということは簡単には言えません。しかし、顧客のすぐ傍にいることを心がけ、彼らのニーズをいち早く把握・対応しようという態度には学べるものがあるのではないでしょうか。

個人的には、僕の好みを正確に把握してくれて、次に読むべき隠れた名著・チェックすべき新刊本をレコメンデーションしてくれる本屋さんがいたら、「役に立たない本を買って、お金と時間を損しないための保険料」として毎月利用料を払ってもいいくらいだと感じています(そんな存在を見つけることが難しいことは分かっていますが……)。いずれにしても、本を買うといったら大型書店に出向くかオンライン書店で、とう状況を変えてくれる様々な選択肢が出てくると面白いのですが。

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