『おもてなしの経営学』、あるいは「スーパープログラマーの実力を発揮させる方法」
昨日に引き続き書評を。中島聡さんの『おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由』をご献本いただき、週末から一気に読ませていただきました。
中島さんのブログ"Life is beautiful"を読まれている方なら、「おもてなし」という言葉が何を示しているかはお分かりかと思いますが、発端となったのは次のエントリでした:
■ デジタルデバイドとユーザーエクスペリエンス (Life is beautiful)
こんな私の問いかけに対して、たくさんの読者から意見が寄せられたのだが、その中に、ブログだけでなくリアルの世界でも付き合いのある Naotake さんという方から次のようなコメントをいただいた。
User Experience は「おもてなし」だと思っています。
私はこれがいたく気に入ってしまった。直訳ではないので、必ずしもそのまま入れ替えて使うわけにはいかないが、元々の言葉の持つ意味合いを的確に表すという点では、最も適切な言葉だと思う。
この「おもてなし」という精神を具現化できる企業しかこれからは生き残れない、そのために何をすべきか、というのが本書の主テーマとなります。しかし僕はそれ以上に、「中島さんのようなスーパープログラマーが実力を発揮できて、世界と勝負できるような企業を作るためにはどうすれば良いか」を説いてくれるのがこの本の存在意義である、と感じました。
誤解の無いように言っておきますが、「おもてなしの経営とは」という部分もすごく面白いです。しかしこの本が、(タイトルなどから)単にありきたりな経営論と捉えられてしまっては残念。マイクロソフトの成長期から絶頂期にかけて、ビル・ゲイツと対立しながらWINDOWS開発をリードした中島さんだからこそ書ける、「技術者が元気に働く会社とはどんなものなのか」というアドバイスがこの本には溢れています。特に古川享さんとの対談では、お二人しか知らない裏話が次々と飛び出していて必見です。
例えば以下の部分:
僕はジム・オールチンと衝突したし、アダム・オズワルドともケンカした。アダムについては、インターネット・エクスプローラーチームでの上司になりそうだったのを止めさせたんです。
(中略)
アダムは技術的にすばらしいものを持っているけど、マネージャーとしてある日付に向かってスケジュール通りにプロダクトを出すという業務にはふさわしくない。代わりにリン・ショウといううってつけの女性がいるから、彼女に上司になってもらったんです。とはいえ、物を出すためにはどうすればいいという正論が通る会社でした。当時のマイクロソフトは実にすばらしかった。言いたいことが言えたし、本当に楽しかった。
そんな楽しい会社をなぜ辞めたのか、まで本書には述べられているのですが、上司には誰がふさわしいかまで技術者が考え、それを声に出し、実際に上司が替わりうるという文化を持っていたこと。それがマイクロソフトの成長を支えた一因であったことがうかがえます。単に「風通しの良い組織を作ろう」などという理論を書かれるより、何倍も役に立つ話でしょう。
ということで、「タイトルに経営学とあるから」というだけでこの本をスルーするのはもったいない。技術者の方で、いずれは起業したいと考えている方、あるいは大勢の技術者をマネージする仕事に就いている方は、必ず目を通しておくべき本だと感じました。