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『まぐれ』に騙されるな

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まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』を読了。Polar Bear の方でも触れたのですが、どのジャンルに置くべきか迷う本です。投資に関する話をしていたかと思えば、次の瞬間には数学(統計)や心理学、さらには文学や哲学の話までしているし。経営論のようでもあれば、人生論、人間論のようでもあり……書店泣かせの本だろうなぁ、と読みながら余計な心配をしていました。

そんなわけで切り口が非常に多い本なのですが、個人的には「人間は数字(確率)を正しく理解できない」ということを教えてくれるのが最大の価値であると感じました。本書の原題は"Fooled by Randomness"といい、「偶然に起きた事象によって騙される」という意味。単にこれまで運が良くて成功してきたビジネスマンやトレーダー、経営者を「能力がある」と信じてしまったり、ちょっとした数字のゆれを「何かのシグナルに違いない」と思い込んだり、等々……人々が犯す「勘違い」が解説され、逆に簡単な数字/確率を考えてみれば、それがいかに愚かな間違いであるかが示されます。

例えば、以下のような話が出てきます:

たとえばテレビによく出る有名な金融のカリスマがこんなことを言う。「アメリカ人の平均寿命は73歳だ。だから、あなたが68歳なら、あと5年生きると予想できる。それにあわせて計画を立てるべきだ」カリスマは続けて、あと5年間どんな投資をすべきか、事細かに描いて見せてくれる。

この話、一見何の不思議もないように感じられます(すみません、僕はすんなり読んでしまったので、もしかしたら皆さんは「そんなトリック簡単ですけど」と思われるかもしれません)。しかし、解説はこう続きます:

このカリスマがわかっていないのは、無条件平均余命と条件付平均余命の違いだ。生まれたときの無条件平均余命はたしかに73年かもしれない。でも歳を重ねて死なずにいると、年とともに平均余命は延びていく。それはなぜか?平均とは期待値ということだ。死んだ他の人たちは統計データから外れていく。だから、73歳で健康なら、たとえばもうあと9年生きると期待できる。でも、期待値は変化する。82歳になると、当然まだ生きているわけで、さらにあと5年生きると期待できる。100歳になっても条件付き平均寿命はまだプラスだ。

言われてみれば、確かにその通り。しかしとっさに上のような論理的思考を行うことが、専門家であっても難しいということが何度も示されます。読んでいるうちに、果たして自分がこれまで「論理的」だと思っていた決断がどれだけ正しかったのだろうか……と不安になってくること請け合い。

ただし本書は人を不安にさせるだけでなく、その対処法もちゃんと処方してくれています。例えば、過去の経緯をいったん無視して考えてみる(最近の流行語で言えば「ゼロベース思考」ですね)方法や、あえて新しい情報をシャットダウンしてみたり(ちなみに本書の中ではことあるごとにマスコミが「ノイズをまき散らす存在」として攻撃されます)、短期的ではなく長期的な視点でパフォーマンスを評価したり。逆に不確実性を利用してしまえ、などという発想も飛びだしてきたりと、仕事で実践してみようと思わせるアイデアが詰まっている本でしたよ。

余談ですが、この本は以前ご紹介したその数学が戦略を決める』と対になる存在かもしれません。『その数学が』が思いこみではなく数字を重視して判断を下すことを推奨する一方で、『まぐれ』は上記の通り、その数字にも騙されるかもしれない(正確に言えば、私たちの脳は数字を正しく判断できるほど発達していないかもしれない)ことを説いてくれます。実際、両書は話が被っている部分もありますので、どちらか一方を読まれた方はもう片方を読んでみても楽しめると思います。

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