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「結婚式教会」に学ぶ

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ハロウィンも終わり、いよいよ世間はクリスマスに向けて一直線ですね。僕は一年のなかで今のシーズンが一番好きなのですが、「キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝うなんてけしからん!」という方、実は別の形で「キリスト教の侵攻」が進んでいることに気づかれていましたか?それが「結婚式教会」です:

「結婚式教会」の誕生

「結婚式教会」とは、結婚式を挙げるためだけに使われる教会のこと。いや、厳密な意味での「教会」ではありませんから、「教会風建物」と呼ぶ方が適切かもしれません。いずれにせよ、最近増加中のこの不思議な建物に対して、著者の五十嵐太郎さん(建築史・建築批評家)が建築論・文化論・宗教論など様々な側面から考察された本です。

結婚式教会とはどんな存在なのか?という問いに対して、五十嵐さんは「日本人にとっての結婚式教会は、西洋の雰囲気を楽しむ装置である」と看破されています。より詳しく言えば「結婚式というイベントを通じて、西洋の雰囲気を楽しむための装置」ということですね。その目的を達成するため、結婚式教会は様々なギミックを用意しています:

  • 結婚式教会は、西洋建築の、特にキリスト教の教会堂に範を求めるものが多い。ウェブ上の説明でも、海外の形式を模したり、西欧の調度品、たとえば、ステンドグラスや説教壇、パイプオルガンなどを取り寄せたことを強調している。建築全体がフェイクゆえに、せめて部分の由緒を求めるのだろう。(51頁)
  • パーツで見ていくと、ステンドグラスを重視しており、総数589件中427件が所有していた。つまり、導入率は7割を超える。これは教会らしさを表現するための重要なアイテムなのだ。(51頁)
  • 教会のスペックとしては、特に天井の高さやバージンロードの長さが注目されている。業界では、いずれも10mを基準としており、両方をクリアしている物件は133件存在した。またブライダル企業の各社は、比較的大きい物件の場合、「大聖堂」というキーワードも使う。こちらは54件が確認された。(52頁)
  • 隣接するホテルからゆとりをもって配置された白いチャペルは、アメリカの建築家ゲーリー・フィリップ・コーナーの手による設計だという。ホテルを手がける建築家らしいが、正直言って、初めて聞いた名前である。それほど知られているとは思えない。建築の関係者にとっては意味を持たない固有名だが、一般人にはわざわざ外国人が設計した本格的な物件として理解されるのだろう。(92頁)
  • ともあれ、愛グループでは、大聖堂についても独特のセールスポイントを示している。それは「世界の祈りの協定(ワールドワイド・フェローシップ)」という提携をイギリスのウェストミンスターやアメリカのセント・パトリック教会など、世界の名だたる教会と結んでいる、というものだ。またイタリアやオーストリアのセント・ヴァレンタインから公式認定を受けたシスターチャーチ(!)にもなっているらしい。姉妹都市ならぬ、姉妹教会。この由緒書きのような宣伝文句を提示することで、分霊によって神をおすそわけするホテル内の神社と同様、大聖堂の権威と本物感を演出している。(118頁)

……などなど。逆に「教会」として必要でも、「結婚式の場」として必要のない部分については、容赦なく切り捨てられることも解説されています。

まぁよく思いつくものだな、という感じですが、その結果「結婚式教会」は宗教学という点からも、建築学という観点からも、本来の「教会」からは大きくかけ離れた存在になってしまっています。また本来の教会は、既に権威主義とは決別し、かつてのような重厚長大な建築物を避ける傾向にあるとのこと。教会という「西洋の雰囲気を楽しむ装置」を追求した結果、本物とは似ても似つかなくなったというのは、まさに皮肉と言うべきでしょうか。

そんな「ニセモノ」を良しとするかどうかは別にして、結婚式教会をビジネスという観点で見たとき、彼らは利用者の求めることに非常に上手く応えているという印象を受けました。結婚はかつてのような「家と家の結婚」というものではなく、あくまでも個人同士の結びつきという意味が強くなっています。従って結婚式も、新郎新婦がお世話になって人々をもてなすというより、当事者たちが楽しむというイベントになっているでしょう。そんな時代に、新郎新婦が(というより新婦が?)望むような「演出」を最大限に実現してくれるのが「結婚式教会」なのではないでしょうか。下関にある某結婚式教会では、イタリアの教会から譲り受けたという聖者の遺骨があるそうですが、ユーザーのワガママ(この場合「由緒ある場所で式を挙げたい」)に応えるために聖遺物まで入手してしまうその姿勢には、ある意味学ぶところが多いと思います(繰り返しますが、「そんなものを所有してていいのか」という議論は別にして)。

話は変わりますが、この本は「まだ学問として成立していない分野をどうやって調査するか」というケーススタディとしても参考になると感じました。五十嵐さんは結婚情報誌(ゼクシィ)やそのウェブサイト等に掲載されたデータを活用したり、フィールドワーク(実際に結婚式教会を「巡礼」する)によって、この不思議な社会現象にアプローチされています。特に「巡礼」レポートはなかなか読み応えがありますので、興味のある方(近々結婚の予定のある方?)はぜひどうぞ。

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