AI時代のエビデンスの残し方 - 格安レンタカーを借りたら「見たことがない傷がある!」と言われた話
先月、長岡の花火を観に行ってきました。一生に一度は行くべき花火大会です。本気でそう思うので、まだの方は来年ぜひ。
で、今回書くのはそっちじゃなくて、その足に借りた格安レンタカーの話です。
返却時に、「私が見たことがない傷がある!」と言われました。
結論から言うと、出発前にスマホで撮っておいた写真を見せて、数分で終わりました。
そのあとお店に問い合わせて、書面で回答をもらいました。これが、なかなかのものでした。
まず、借りたところから
2020年にマイカーを買ってから、ガソリンスタンドは使ってもレンタカーは全然使っていませんでした。あるのに借りる意味がないので。
ただ今回は長岡まで往復500km超。うちのミニバンは燃費が超悪いので、素直にコンパクトカーを借りることにしました。借りたのはバリューレンタカー 練馬光が丘店です。
出てきたのはホンダ FIT、おそらく2代目。渡されたキーがドアのリモコンすら付いていない物理スペアキーで、運転席側のドアに挿さないと施錠も開錠もできないやつでした。荷物を積むたびに運転席まで回り込むことになります。
走行距離は12万キロオーバーで、アクセルのレスポンスもちょっと微妙な感じ。まあこれは格安レンタカーだから仕方が無いでしょうね。安いんだから文句を言う筋合いじゃない。
「大きな傷は記入しておいたんでー」
12万キロも走っていれば当然、車体には傷があちこち入っています。
で、出発時の傷チェックなんですが。チェックシートには店員さんがあらかじめ記入済みで、私と一緒にシートと車体を突き合わせて確認する、みたいなことはありませんでした。「大きな傷は記入しておいたんでー」って感じで、確認のサインを求められて終わり。
これ、悪い予感がしたんですよ。
なので出発する前に、その場で車の隅々をスマホで撮っておきました。
正面、斜め前、真横、斜め後ろ、真後ろ、と1周まわって、ホイールは4本とも寄りで、あとナンバープレートと車内も。数えたら15枚くらい撮っていました。給油機や店舗の看板も一緒に写り込んでいます。
5分もかかりません。

出発前に撮った写真の一部。給油機の価格表示や看板も一緒に写り込んでいます
徹夜明けで返しに行ったら
長岡の花火のあとは、ご存じの方も多いと思いますが終夜の大渋滞です。ヘトヘトになりながら翌朝に帰着して、8時の開店を待って、その場で満タンにして返却チェックをしてもらいました。
そこで、返却対応の店員さんがこう言いました。
「私が見たことが無い傷がある!」
「チェックシートにも記載はない」
そして貸渡時の店員に連絡を取ると言い出しました。
いや、なんじゃそら、ですよ。
というか、この時点でおかしくないですか。
「私が見たことが無い傷がある!」って、根拠がその人の記憶なんですよ。
自分の車ですら、どこにどんな傷があるかなんて覚えていませんよね。私は覚えていません。ましてや不特定多数が毎日乗り降りする、12万キロ走った、元々傷だらけのレンタカーです。全部の傷の位置を記憶している人間がいるとは思えない。
「チェックシートにも記載はない」も同じです。店が書き漏らしただけかもしれない。実際そうでした。なのにその可能性は最初から無いことになっていて、「シートに無い=お客さんが付けた」に直行している。
証拠は記憶と、自分たちが作った書き漏らしのある紙。それで「あなたが付けましたね?」に近いことを言われる。出発点からおかしい。
徹夜の渋滞でボロボロになって、返却時間に間に合わせるために必死で帰ってきて、開店を待って、給油まで済ませた。その直後にこれです。眠いし疲れているしで、正直それどころじゃない。
で、これがまた反論しづらい。「ぶつけてないです」と言ったところで水掛け論にしかならないので。
なのでスマホを出して、出発前に撮った写真をお見せしました。該当箇所を拡大すると、その傷はしっかり写っていました。
というわけで、当たり前ですが無罪放免です。
だって傷がつくような運転もトラブルも無かったですし、駐車場での乗り降りのときは必ず周囲を確認してから乗っていましたもん。ドアパンとかされていて気付かないまま帰着とか嫌ですから。レンタカーの保険って、警察の事故証明をもらわないと適用されないとかありますからね。
このときの一部始終はGoogleマップの口コミにも書きました。星は1つです。
で、写真が無かったらどうなってたの?
出発時に写真を撮っていなかったら、傷を新たにつけたと難癖をつけられてNOCとか取られる系ですかね?先日、ニコニコレンタカーとかが炎上していませんでしたっけ?
ちなみに、元々傷だらけなんで今回指摘されたような傷なんて修理しないと思いますし、そもそも12万キロも走っている傷だらけのFITなんて下取りでお金がつかないくらいですよ?
ということで、お店に問い合わせフォームから聞いてみました。
電話じゃなくて、文章でください
で、そのあとの話です。
問い合わせフォームから質問を送ったら、しばらくして電話がかかってきました。で、それっきり。
いや、電話じゃなくて文章で欲しいんですよ。こちらは仕事中だったりするし、口頭で説明されても後から確認できないので。「メールで回答をください」とあらためてお願いしました。
そしたら、また電話がかかってきました。取れませんでした。
で、やっとメールで回答が来ました。8月21日です。
で、ここが地味に大事だったなと思っていて。
電話で説明されて「はいわかりました」で終わっていたら、この記事は書けていません。何を言われたか記録が残らないし、後から「そうは言っていない」と言われたら終わりです。書面で出させることに意味がある。
別にこのお店を責めたいわけじゃないんです。現場の感覚として「電話のほうが早いし丁寧」なのは分かる。ただ、世の中を見渡すと「証拠が残るとまずいものは、だいたい電話で済ます」という法則があるよなあ、と。
ちょうど朝日新聞が総務省の内部チャットを報じていましたね。日本郵便の郵便物放棄の件で情報開示請求が入った直後に、省内のグループチャットに「特別延長してほとぼりをさめさせる」と書き込まれていた、というやつです。しかもそのチャットについて再度開示請求したら不開示。
チャットに書いたから残ったわけで、裏を返せば、残ると困ることは残らない手段でやる。Teamsですら記録が残るので、次はもっと消える手段に行くだけでしょうね。
まあ、そういう目で身構えて、書面を要求し続けました。
で、届いた回答が想定外だった
で、届いたメールを読んで、思わず声が出ました。
全文は長いので要点だけ引用します。
〇該当の傷が貸渡時のチェックシートに記載されていなかった件
貸渡時には、私が秋山様と一緒に車両を一周しながら傷の確認を行いましたが、その際に該当箇所を見落としてしまい、チェックシートへ記載されないままサインをいただき、ご出発いただく形となってしまいました。貸渡時の確認が十分でなかった点につきましては、店舗側の確認不足であり、申し訳ございません。
見落としでした、と認めています。
次がこれです。
〇今回スマートフォンで撮影していなかった場合はどうなっていたのか?
今回の傷につきましては、写真撮影の有無にかかわらず、ノンオペレーションチャージの対象外となります。返却時に担当スタッフが確認のため、出発時の担当者である私へ連絡をしてまいりましたが、電話が途中で終了してしまい、最後までお話しすることができませんでした。そのため、その時点で秋山様へ「今回の傷はノンオペレーションチャージの対象外である」というご説明を十分にお伝えできなかったことにつきましても、申し訳ございません。
店舗によって傷の基準は異なると思いますが、当店では細かな傷まで全てを対象としてしまうとキリがなくなるため、基本的に大きな擦り傷やガリ傷、ヘコミ傷などを対象としております。
読んだときは正直ちょっとずっこけました。写真の有無にかかわらず対象外って、じゃああの朝の緊張感は何だったんだ、と。
ただ、少し考えて、そりゃそう書くよなと思い直しました。
だってこの時点で、逃げ場がもう無いんですよ。
私の手元には出発前の写真が15枚ある。傷はそこに写っている。だから「お客さんが付けた」とは言えない。じゃあ「チェックシートに書き漏らした」しかなくて、それは認めるしかない。
その上で「写真が無ければ請求していました」とは、書面では絶対に書けない。書いた瞬間に、傷の基準が客ごとに変わると認めることになるので。だから「写真の有無にかかわらず対象外」に着地する。ここしか無いんです。
嘘を書いているとは思いません。書いてある基準そのものは、たぶん本当なんでしょう。
だったら、完全に矛盾してるんですよ。
もう一度、書面のほうを並べます。
・細かな傷まで全部を対象にするとキリがないので、大きな擦り傷やガリ傷、ヘコミ傷などを対象としている
・今回の傷は写真の有無にかかわらずNOCの対象外
・今回の傷は当店の基準では修理対象としていないので、次回の貸渡までに修理もしない
つまり店の公式見解は、「この程度の傷なら請求もしないし、直しもしない」です。
で、現場で何が起きたか。
「私が見たことが無い傷がある!」。チェックシートにも無いと言われ、貸渡担当に電話をかけられ、こちらは返却カウンターで待たされた。
請求もしない、修理もしない傷に対して、この動き。言っていることとやっていることが、まるっきり逆です。
ということは、どちらかです。書面の基準が現場に共有されていないか、あるいは基準はあるけど、通る相手には通してみるか、という運用になっているか。
前者なら「基準があります」と書面で言われても意味がない。後者なら、まあ、そういうことです。
この文面を引き出せたのは、こちらが先に逃げ場を潰していたからでもある。写真が無く、電話で済まされていたら、この文面は存在していません。
そして「写真が無かったら実際どうなっていたか」は、永久に分かりません。返却対応の人は「私が見たことが無い傷がある!」と言って、貸渡時の担当者に電話をかけようとして、その電話は切れた。そこから先の展開は起きなかったので。
何を言われて、いくら取られていたか。それは永久に分かりません。
ついでに言うと、その場で「対象外です」と言えなかった原因も「電話が途中で終了してしまい」だそうです。ここでも電話か、と。
3つ目の回答はこれです。
〇該当の傷は次回の貸渡時までに修理するのか?
ご指摘いただいた傷についてですが、当店の基準では修理対象とはしておりませんので、次回の貸渡時までに修理を行う予定はございません。
レンタカーは、貸渡時・返却時で確認するスタッフが異なることや、日々多くのお客様にご利用いただくことから、使用に伴う細かな傷が少しずつ増えていくことがございます。そのため、全ての細かな傷を修理対象としてしまうと、修理費用も含めてレンタカー料金へ大きく影響してしまいます。当店では、お客様にできるだけお求めやすい価格でご利用いただけるよう、一定の基準を設けて傷の取り扱いを行っております。
理屈は分かります。細かい傷まで全部直していたら料金が上がる。だから基準を決めて、大きいものだけ対象にする。安さの裏側としては納得できる説明です。
店長さんが名前を出して書いてくれてはいます。ただ、そこまで整理された基準があるなら、それを現場の全員が言えるようにしておいてほしい。紙の上にあるだけの基準は、客からすると無いのと同じなので。
ニコニコレンタカーの件と、何が違ったか
今年の春に炎上していた件を思い出してください。
2026年3月、ニコニコレンタカーで返却後に8万8,000円を請求されたという告発がXに投稿され、48時間で約3,900万回表示されました。対象はフロントガラスの1〜2mm程度の飛び石傷が2か所。内訳は修理相当額(1か所1万5,000円〜3万円の2か所分)と休業補償のNOC 2万円です。
フランチャイズ本部の株式会社レンタスは3月19日に声明を出し、通常1mm程度の傷は請求対象外だが今回は「ガラス内部に進行する可能性がある」と判断した特例だった、と説明。その上で請求を取り止めました。
1〜2mmです。
あちらは「基準の外にあるものを、特例だと言って請求した」。今回は「基準では対象外のはずのものに、現場が食いついてきた」。
形は違いますが、どちらも基準が客の側から見えない。線がどこに引かれているかは、揉めてから初めて教えられます。
しかもニコニコの件は、炎上して初めて取り下げられました。3,900万回表示されないと動かないわけです。
「保険入ってるから大丈夫」が大丈夫じゃない話
せっかくなので、格安レンタカーの補償まわりを整理しておきます。バリューレンタカーが公開している数字で見てみます。
まず基本の補償は、対人が1名につき無制限、対物が1事故につき無制限、車両が時価額まで、人身傷害が1名最大3,000万円。数字だけ見ると立派です。
ただし免責額(自己負担)が対物・車両ともに5万円あります。何かあったら、まず5万円は自分で出す。これを消すのが免責額補償制度で、24時間ごとに1,100円。
問題はここからで、NOC(ノンオペレーションチャージ)です。
NOCは修理費とは別物で、その車が修理で貸し出せない間の営業補償のこと。バリューレンタカーだと自走可能なら2万円、自走不可能なら5万円です。
で、免責額補償制度に入っていても、NOCは免除されないのが業界の一般的な建て付けなんですよ。免責補償とNOC補償は別商品なので。大手だとNOC補償が1日500〜1,080円程度の別オプションで用意されていますが、「免責補償入ったから安心」と思い込んでいる人はかなり多いはずです。
ニコニコの8万8,000円のうち2万円がNOCだったのも、まさにここ。利用者は保険に入っていた。それでも請求は来た。
で、結局どうすればいいのか
国民生活センターが2025年3月に「レンタカーでの傷トラブルにご用心」という注意喚起を出していて、要点は記録・確認・連絡の3つです。貸出時と返却時の状態を自分で撮って残す、返却前に事業者と一緒に確認する、納得できない請求が来たら消費生活センター(188)に相談する。
典型的な相談パターンとして挙がっているのが「返却時には何も言われなかったのに、数日後に傷が見つかったと連絡が来た」というやつ。これ、その場で反論する機会すらないので、記録がないとどうしようもない。
私がやったのは1つ目だけです。出発前に5分。それであの朝が数分で終わりました。
店員さんが「大丈夫ですよ」と言っても、必ず出発時にその場で入念にスマホで撮っておくことをお勧めします。不要なトラブルを避けましょう。相手を疑うためじゃなくて、お互いに記憶違いをしないためです。今回みたいに、店側が「見落としました」と認められるのも、突き合わせる材料があってこそなので。
AI時代に、証拠として何を残せばいいのか
ここからは、ちょっと先の話です。
今回は写真を見せて終わりました。写真は十分に有効で、決定的な証拠でした。
ただこれ、「その写真、生成AIで作ったんじゃないですか?」と言われる日が来るかもしれない。
いまは笑い話です。でも、傷を消すのも足すのも、スマホの純正アプリで指でなぞれば数秒でできる。「スマホで撮った写真」という証拠の信頼性は、じわじわ下がっていくでしょうね。
しかも厄介なのが、これが双方向だということ。利用者が傷を消した写真を出す可能性もあれば、事業者が傷を足した写真を出す可能性もある。両方が「写真なんて証拠にならない」と言い出せる世界は、たぶん誰にとっても不幸です。
じゃあ何を用意しておけばいいか。証明すべきものは、突き詰めると2つしかありません。
いつ撮ったのか。そして、あとからいじっていないか。
「いつ撮ったか」の証明
これは意外と簡単で、撮った直後にクラウドへ上げるか、自分宛にメールで送っておけば足ります。
スマホの中の日時は自分で書き換えられますが、GoogleフォトなりiCloudなりに同期された時刻や、メールサーバに残る受信時刻は、こちらの都合で動かせません。第三者のサーバに「その時刻に存在していた」という記録が残るのが効きます。
もっと原始的な手もあります。その日以降にしか存在しないものを、一緒に写し込む。
私は選挙期間中に違法な掲示物を見つけたとき、選挙公報と並べて撮ることがあります。公報は配布日より前には存在しないので、「少なくともこの日以降に撮った」ことが写真1枚で言える。新聞でも、駅の電光掲示板でも、レシートでも同じです。
今回のレンタカーで言えば、給油機の表示や店舗の看板が写り込んでいるのがそれにあたります。狙ったわけじゃないですが、結果的に「その場所で撮った」証明にはなっている。
「いじっていないか」の証明
こっちのほうが厄介です。
まず静止画より動画。1枚の加工は数秒でできますが、動画は連続する数百フレームで辻褄を合わせないといけないので、偽造のコストが桁違いに上がります。歩けば手ブレも反射も光の変化も入りますし。車の周りを1周、30秒で足ります。
次に枚数。1枚の完璧な証拠より、15枚あって看板もホイールもナンバーも写っていて、しかもクラウドの同期時刻が全部揃っている、という状態のほうが崩しにくい。全部を辻褄が合うように偽造するのは、現実的な労力を超えます。
それから原本を捨てない。LINEやXに一度上げると、たいていメタデータは剥がされます。人に見せる用のコピーとは別に、撮ったままのファイルをどこかに残しておく。
ここまでやっておけば、本気で調べる段になったときにも耐えます。デジタルフォレンジックの世界では、スマホの中身そのものが証拠になります。撮影データの構造、編集アプリを通ったかどうか、削除の痕跡。加工すれば加工した跡が残るので、「AIで作ったんじゃないの」に対しては、むしろ端末ごと差し出すのが一番強い。
あと将来の話としてC2PA(コンテンツクレデンシャル)があります。撮影の瞬間に「いつ・どの端末で撮られ、その後どう編集されたか」を暗号署名付きで埋め込む規格で、Google Pixel 10シリーズ以降は純正カメラでデフォルトで署名が付きます。Galaxy S26も対応済み。iPhoneは現時点では非対応で、iOS 20での対応が発表されています。
レンタカーの傷でC2PAは大げさです。ただ普及しきったあとは、逆に「署名のない画像」の立場が弱くなる。そっちのほうが怖い。
まとめると、撮ったら即クラウド。日付の分かるものを写し込む。動画で1周。原本は捨てない。これだけで、当面は十分だと思います。
まとめ
レンタカーを借りたら、出発前に車の周りを1周だけ撮る。できれば動画で。5分です。
今回は写真があったから、サクッと終わりました。無かったらどうなっていたかは分かりません。
今月は19日から23日まで5連休です。レンタカーを借りる方も多いでしょう。出発前の5分、ぜひ。
【参考】
・レンタカーでの傷トラブルにご用心−記録、確認、連絡!−(国民生活センター/2025年3月28日)
・【続報】ニコニコレンタカー 飛び石8.8万円請求を取り下げも火に油?(coki/2026年3月20日)
・保険・補償制度について(バリューレンタカー)
・「ほとぼり覚めさせる」総務省幹部がチャットに投稿(朝日新聞/2026年8月31日)