ダイソーからマイクロSDカードが消えた ― AIメモリ高騰の"とばっちり"が100円ショップの棚に届くまで
皆さん、マイクロSDカードって最後にいつ買いました? 私は先日、久しぶりに買おうとして、ちょっとした事件に遭遇しました。
ことの発端は防犯カメラです。練馬区が「住まいの防犯対策緊急助成事業」という制度をやっていて、防犯カメラなどの購入費の4分の3(上限3万円)を助成してくれるんですね。これは使わない手はないなと、TP-Linkの屋外用ネットワークカメラを購入。あとは録画用のマイクロSDカードを挿すだけ、という段になって、「まあSDカードなんてダイソーでいいでしょ」と軽い気持ちで店に向かったわけです。
棚、空っぽでした。32GBも64GBも、影も形もない。
最初は「たまたま売り切れか」くらいに思っていたんですが、別の店舗に行っても、ない。調べてみたら全国的に在庫がほぼ枯れていて、ダイソーのネットストアにも当然ない。ほんの数カ月前まで、レジ横にどっさり積まれていたあのカードがですよ。......これはたまたまじゃないな、と。
メモリの高騰が話題になっているのは知っていましたが、それはAI向けの高性能メモリの話であって、まさか100円ショップの棚にまで余波が来ているとは思っていませんでした。というわけで今日は、この「ダイソーからマイクロSDカードが消えた」という身近な異変から出発して、半導体メモリ業界でいま何が起きているのか、そしてこの状態がいつまで続きそうなのかを、例によってあれこれ裏取りしながら書いてみようと思います。
Amazonを開いて二度見した
店頭にないなら通販だな、とAmazonを開いて、二度見しました。以前買ったのと同じようなカードが、軒並み2倍以上の値段になっているんです。調べてみると、microSDXC 128GBが約909円→1,980円(約2.2倍)、SanDiskの256GBに至っては2,383円→7,280円(約3倍)という価格推移が報告されていて、私の体感とも一致します。ダイソーの32GBが税込550円、64GBが770円ですから、Amazonの現在価格はその2〜3倍。あの100円ショップ価格がいかに例外的な存在だったか、なくなってみて初めてわかるという。
正直、こんなに値上がりしているとは知りませんでした。知っていたらもっと買い溜めしておいたのに、と地味に後悔しています。防犯カメラ、ドラレコ、Switch、ラズパイと、うちではマイクロSDカードは何枚あっても困らない消耗品なので、550円の時代に箱買いしておけば......というのは、まあ後の祭りですね。
ちなみに「家電量販店はネットより高い」というのは昔からよく言われますが、ポイント還元を加味すると実質差はそれなりに縮まるという指摘もあるので、そこは今回の値上がりとは分けて考えた方がフェアです。それを差し引いても、ここ数カ月の上がり方は明らかに異常なんです。
そもそもDRAM・NAND・VRAMって何が違うんだっけ?
で、ここからが本題です。「メモリが高騰している」というニュース、最近よく見ますよね。でもあれ、よく読むとAIデータセンター向けのDRAMとかHBMとかの話なんです。マイクロSDカードの中身はNANDフラッシュ。畑が違う。なのになぜ、こんな末端の小容量カードまで消えるのか。これを理解するには、まず「メモリ」とひとくくりにされがちな半導体の中身を整理しておく必要があります。ざっくりこうです。
- DRAM:電源を切るとデータが消える「揮発性メモリ」。パソコンやスマホの作業机です。CPUが計算中のデータを広げておく場所で、読み書きは速いが、容量あたりの単価は高め。
- NAND(NANDフラッシュ):電源を切ってもデータが残る「不揮発性メモリ」。こちらは本棚。SSD、USBメモリ、スマホの内蔵ストレージ、そして今回の主役マイクロSDカードの中身は全部これです。安くて大容量だが、作業机ほど速くはない。
- VRAM:実は独立した規格ではなく、GPU専用にチューニングされたDRAMの呼び名です。ゲーミングGPUに載っている「GDDR」と、メモリチップを垂直に積み上げてGPUに直結する高帯域・高コストな「HBM」の2系統があり、NVIDIAのH100/H200のような生成AI向けGPUはほぼHBMです。いわばGPU専属の超高速作業机ですね。
いわゆる「AIのメモリ争奪戦」の主戦場は、このうちDRAM、それも特にHBMです。AIサーバーはGPUを大量に積み、その1基1基に大容量HBMがくっついてくる。つまりAIが直接奪い合っているのは「作業机」であって、マイクロSDカードのような「本棚」は関係ないはず――私も最初はそう思っていました。ところが調べてみると、本棚は本棚で、しっかり巻き込まれていたんです。それも二重に。
本棚まで消えた理由(1):AIが本棚も直接買い占めていた
1つ目は単純な話で、AIデータセンターはDRAMだけでなくNANDも大量に必要としていました。学習データ、モデルのチェックポイント(学習途中のセーブデータみたいなものです)、推論用のデータ置き場。これらは全部、企業向けの大容量SSD――つまりNANDでできた巨大な本棚に置かれます。
この需要がどれくらい強烈かというと、NANDの契約価格は2026年に入って四半期ベースで90〜100%上昇という、ちょっと見たことのない数字を記録しています。日本のキオクシアは2026年1月の時点で「2026年分のNAND生産枠はすでに完売」と明言し、一部のハイパースケーラーとは2027〜2028年分の長期契約や前払い契約の交渉まで進んでいると報じられています。1月の段階で年間分が売り切れる商売、すごくないですか。メーカーからすれば、これだけ買ってくれる大口顧客がいるのに、利益率の低い民生用の小容量カードを優先する理由がありません。
さらに追い打ちが、米Micronの動きです。同社は2025年12月、29年続いた民生ブランド「Crucial」を2026年2月末で終了すると発表しました。自作PC経験のある方なら「え、あのCrucialが?」となるニュースだと思います。理由は明快で、「AI主導でデータセンター需要が急増したので、そちらに生産能力を回す」。要するに、儲かる大口顧客のために、儲からない個人向け市場から手を引くという判断です。業界最大手クラスが民生市場から抜けた穴は、めぐりめぐって100円ショップの棚にまで届いていた、というわけです。
本棚まで消えた理由(2):本棚の工場が、作業机の工場に改装されていた
2つ目が、今回調べていていちばん「なるほど」となった構造的な話です。メモリメーカー各社が、NAND向けだった生産ラインをDRAM向けに転用し始めているんです。
例えばサムスン電子は、華城工場Line12での2D NAND生産を停止して、そのラインを最新世代DRAMの工程に転換する計画だと報じられています。SK hynixも、注目のHBM4への投資ペースをあえて落として、供給不足で利益率が跳ね上がっている汎用DDR5 DRAMに生産能力を振り向ける戦略に転換しました。本棚を作っていた工場が、次々と作業机の工場に改装されている。当然、本棚の供給は細ります。
この結果、面白い(当事者としては全然面白くない)逆転現象が起きています。調査会社TrendForceの予測によると、2026年第2四半期の価格上昇率は、従来型DRAMが前四半期比58〜63%なのに対して、NANDは70〜75%。争奪戦の主戦場であるはずのDRAMより、「とばっちり」側のNANDの方が値上がり率が高いんです。
整理すると、マイクロSDカードがダイソーから消えたのは、①AIが本棚(NAND)そのものも爆買いしている、②そのうえ本棚工場が作業机(DRAM)工場に改装されて供給が細っている、という二段構えの結果でした。「AIブームはDRAMの話でしょ、うちのSDカードには関係ないでしょ」という私の直感は、見事に外れていたことになります。
Aliexpressという抜け道と、その落とし穴
国内で品薄・高騰となると、次に頭をよぎるのが「Aliexpressなら安いのでは?」です。実際、覗いてみると相変わらず「1TBで数百円」みたいなカードがゴロゴロしています。が、ここは昔から地雷原として有名なエリアでして、国内外の検証記事を見ていくと、トラブルのパターンは大体決まっています。
- 容量偽装:表示は1TBでも実容量は数十GB、という改造品。恐ろしいのは、偽装容量を超えて書き込むと新しいデータが古いデータを黙って上書きしていくことです。つまり「入った気がするのに、あとで開いたら壊れている」。防犯カメラやドラレコの録画用に使っていたら、いざという時に映像がない、という最悪のパターンがあり得ます。対策としては「H2testw」などの検証ソフトで、届いたら即、全領域テストが定番です。
- 速度不足:容量は本物でも読み書き速度が規格に達しておらず、動画録画でコマ落ちするもの。
- 単位トリック:「32」と大きく書いてあるのでよく見たらGBじゃなくてMB、というものが今でも売られています。32MBて。デジカメ黎明期ですか。
- そもそもカードじゃない:写真はカードに見えるのに、届くのはSD変換アダプタだけ、カードリーダーだけ、というケース。商品名の端っこに小さく「Adapter only」と書いてあったりします。
- 容量帯でリスクが激変:複数の検証記事で一致しているのが、32GBまでは偽物が少なく、64GBは注意すれば回避可能、128GB以上で偽装率が一気に跳ね上がるという傾向です。レビュー欄も「64GBまでは高評価、128GB以上は低評価だらけ」という分かれ方をしていることが多い。
もちろん全部が偽物というわけではなく、正規品の型落ちが本当に安く出ていることもあります。ただ、いまのような品薄・高騰局面は、焦った買い手が「安さ」に飛びつきやすいタイミングでもある。詐欺師にとってはボーナスステージなわけです。レビュー件数、セラー評価、届いたら即検証。この3点セットは面倒でも省かない方がいいと思います。
時価総額60兆円からのストップ安──キオクシアという象徴
このメモリ狂騒曲を象徴しているのが、キオクシアの株価です。AIデータセンター需要を追い風に業績が急拡大し、2026年6月22日には株価が上場来高値をつけ、時価総額は一時60兆円近くに到達。あのトヨタ自動車を抜いて、東証プライムの時価総額トップに立ちました。フラッシュメモリの会社が、日本で一番値段のつく会社になったんです。これ自体、相当な事件だと思います。
ところが7月17日、キオクシア株は前日比16%安のストップ安。6月の高値からわずか1カ月弱で半値以下となり、時価総額にして約30兆円が消えました。直接のきっかけは、米衛星通信大手Viasatとの特許訴訟で約370億円の賠償評決が出たことですが、370億円の賠償で30兆円が飛ぶ計算は明らかに合いません。実際には、前日の米半導体株安と、急騰しすぎた株価への高値警戒感がたまっていたところに、売る口実が降ってきた、という構図でしょう。1カ月で60兆円まで駆け上がり、1カ月で半分になる。この値動きの荒さこそが、いまのメモリ市場の過熱ぶりをよく表しています。
で、これは結局「一時的なバブル」なのか?
ここまで読んで、こう思った方も多いんじゃないでしょうか。「結局これ、転売ヤーの買い占めとか売り控えで市場在庫が歪んでいるだけで、熱が冷めたら一気に値崩れするやつでは?」と。白状すると、私自身がまさにそう思っていた側です。キオクシアの急落を見て「ほらきた」と思ったくらいで。
で、裏を取ってみたところ、この仮説、半分は当たっていて、半分は楽観的すぎるというのが正直な結論になりました。
まず「当たっている」方から。投機マネーが入り込んでいるのは事実のようです。中国では2026年に入ってメモリ相場が急落する場面があり、深センの華強北電子街ではDDR5メモリが1日で最大30%下落。高値で仕入れて在庫を抱えた転売業者が「メモリが暴落した、在庫を抱えてしまった、終わりだ」と嘆く動画がSNSで拡散されました。積み上がったメモリの山の前で頭を抱える映像は、なかなかの迫力です。きっかけの一つとされるのが、Googleが2026年3月に発表した「TurboQuant」。AI推論時のメモリ消費を最大6分の1に圧縮するという技術で、発表直後にはMicronやWestern Digitalの株価も下落しました。「AIが食うメモリの量自体が減るなら、この高騰は続かない」という理屈です。転売在庫が投げ売りされて相場が急落する局面は、今後も普通にあると思います。
ただし、「じゃあ550円のカードが戻ってくるか」となると、話は別です。理由は2つ。
1つ目は、TurboQuantのような効率化技術が本当に需要を減らすのか、専門家の間でも意見が割れていること。効率化でAI活用のコストが下がれば、これまで採算が合わなかった用途にまでAIが広がって、総需要はむしろ増える――経済学でいう「ジェヴォンズのパラドックス」です。蒸気機関の効率が上がったら石炭消費はむしろ増えた、という19世紀からあるあの話が、21世紀のメモリ市場で再演されるかもしれない。
2つ目がより本質的で、今回の高騰は過去のシリコンサイクル(2018年や2022年のような「作りすぎ→値崩れ」の繰り返し)とは供給側の構造が違うことです。過去の暴落は、メーカーが強気で増産しすぎた結果でした。ところが今回は、キオクシアが年初に生産枠完売を宣言し、Micronが民生市場から撤退するという、後戻りしにくい構造的な決断が積み重なっています。転売ヤーの投機が冷えれば相場は調整しますが、それは「異常な上乗せ分」が剥がれるだけの話。メーカーの生産能力そのものが民生用に戻ってこない限り、ベースの価格水準は下がりにくい。つまり、バブルの泡の部分は弾けても、水位そのものが上がってしまっている、というのが現状の見立てです。
いつまで続く?──各所の見立てを並べてみる
業界関係者や調査会社の見通しを集めると、温度感はこんな分布です。
- 楽観シナリオ:2026年末には落ち着き始める
- 多数派の現実シナリオ:2027〜2028年頃までは高水準が続く
- 悲観シナリオ:構造的な供給不足が「10年続く」という声まで
- 転換点の候補:中国メーカー(CXMTなど)の急速な増産。早ければ2027年後半に世界のDRAM生産能力が大きく積み上がり、そこで一気に供給過剰へ反転する可能性
面白いのは、悲観シナリオと転換点シナリオが紙一重なところです。中国勢の増産が本格化した瞬間、「10年続く不足」が「一瞬で供給過剰」にひっくり返る可能性がある。半導体メモリという市場は昔からそういう極端な振り子で動いてきたので、2027年後半あたりは要注目です。ただ、それを今から待つのは、防犯カメラの録画が2年後に始まるのを待つようなものなので、現実的ではありません。
結論:泡は弾ける、でも水位は戻らない(たぶん)
まとめます。「転売の熱が冷めたら一気に値崩れする」は、短期の相場調整としてはたぶん正しい。中国では実際に始まっています。でも、Micronの民生撤退やNANDラインのDRAM転用といった供給側の構造変化を見る限り、「ダイソーに550円の32GBが山積みされる日常」が戻ってくるかは、かなり怪しい。少なくとも2026年内、下手をすると2027〜2028年までは、「前より高いのが普通」という新しい相場に慣れる必要がありそうです。
というわけで私の結論は、「必要な分は、見かけたときに確保しておく」。買い溜めしすぎるのも投機に加担するみたいで気が引けますが、防犯カメラの録画用にあと1枚は確実に要るので、次にダイソーの棚にカードが並んでいるのを見かけたら、今度は迷わず買います。皆さんも、ドラレコや防犯カメラのSDカードがそろそろ寿命かな、という心当たりがあるなら、値札を見て見ぬふりをせず、早めに動くことをおすすめします。何せ、1月に年間生産分が完売する世界の話ですから。