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あれこれ考えるよりも作ってしまった方が早いんじゃね?と思う、ギークなサラリーマンのアジャイルな日々。

「好きな子をAV女優に」30万人が使った生成AIサービスから、エロと技術と、最後は愛の話まで

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好きな子をAV女優に」----顔写真を1枚アップロードすると、AV動画の出演者の顔がその人に入れ替わる。「FaceSwitch(フェイススイッチ)」という生成AIサービスの広告が8月中旬からSNSで拡散し、いま炎上しています。無料プランがあり、公式サイトには「累計30万人以上が利用」と書かれています。

当然「これ違法じゃないの?」となるわけですが、この件を報じたENCOUNTの記事(2026年8月25日)で樋口一磨弁護士が答えているのは、「私的利用の範囲に限れば、今の段階では法に触れない可能性が高い」でした。

で、この話。私は最初「またずいぶん急に、とんでもないものが出てきたな」と思ったんです。

違いました。

気になって調べてみたら、FaceSwitchのドメイン(face-switch-ai.com)が登録されたのは2023年9月7日でした。whoisで引けます。3年近く前から、ずっとそこにあった。今回SNS広告を撒いて可視化されただけで、新しくもなんともない。

そして遡っていくと、この手のサービスには10年の歴史がありました。その間に、日本では逮捕者が出て、海外では年商50億円規模の産業になっていました。

この記事では、その10年を数字で辿り直します。ついでに「なぜ簡単に作れてしまうのか」の供給側の構造と、法律のどこに穴が空いているのかを条文レベルで見ます。

最初に断っておくと、作り方の話は一切しません。そこは書きません。

そして最後は、なぜか愛の話になります。お付き合いください。

まず、数字を見てください

2026年8月3日、警察庁が発表した数字がなかなか衝撃的でした。

生成AIなどで子どもの画像を性的に加工した「性的ディープフェイク」で警察が対応した件数は、2026年上半期(1〜6月)で123件。前年同期は60件だったので、倍増です。しかも2025年の通年が114件だったので、半年で去年1年を超えました。

項目件数
2026年上半期の対応件数123件(前年同期60件/2025年通年114件)
被害者:中学生79件(64%)
被害者:高校生38件
被害者:小学生3件
加害者:同級生・同じ学校の生徒83件
加害者:SNSで知り合った人7件
加害者:路上などで盗撮した見知らぬ人4件

被害者は中高生が9割超。そして加害者の内訳を見てください。

123件のうち83件が「同級生か、同じ学校の生徒」です。

組織的な犯罪者でも、遠い国のハッカーでもありません。隣の席のやつです。ここが今回の話の一番怖いところで、以降の話は全部ここに戻ってきます。

ところで、この123件はどうやって警察に届いたのか

統計を読むときに大事なのが、「123件」が何を数えた数字なのかです。

これは検挙件数ではありません。警察が通報・相談を受けるなどして対応した事案の数です。つまり誰かが警察に言いに行った件数。被害者本人、保護者、学校からの相談が入口になっています。加害者の7割近くが同級生である以上、まず学校で発覚して、そこから警察へ、という流れが自然でしょう。

で、ここからが問題です。数字が落ちていく速度がすごい。

段階件数
通報・相談を受けて警察が対応した事案123件
そのうち、生成AIや画像加工アプリの悪用が確認できた38件
6月末までに書類送検された人数2人

123件の相談があって、送致は2人。

これは警察が怠けているという話ではないと思っています。何の罪に当たるのかが、そもそもはっきりしない。作った本人が特定できても、公開していなければ適用できる条文が乏しい----という話を、このあと条文レベルで見ます。

ちなみに123件の中には、児童福祉担当の職員が、面識のない児童を盗撮して生成AIで裸の画像に加工し、所持していたケースも含まれています。子どもを守る側の人間です。

そして忘れてはいけないのが、この123件は「相談して、被害を訴えることができた人」の数だということです。

自分の偽画像が出回っていること自体に気づいていない子もいます。そして気づいたとしても----自分の裸の画像が出回っている、なんて話を、親や先生にできますか。

本人には何ひとつ落ち度がないのに、恥ずかしくて相談できず、胸の内にとどめてしまう子のほうが、むしろ多いはずです。とくに中学生なら。

123件は、氷山の一角どころか、水面から出ているかどうかも怪しい。

大人の側の事件も、次々と

大人が被害者のケースも並べておきます。報道で確認できたものだけです。

  • 2026年1月:生成AIで女性芸能人のわいせつ画像を作成し、会員制サイトで有料閲覧させていた31歳を逮捕。無料の生成AIツールを使い、SNSにサンプルを載せて集客していた
  • 2026年2月:実在女性の体操着姿のわいせつ画像を約300枚作成し、うち約100枚をSNSに投稿したとして、兵庫県の32歳会社員を逮捕
  • 2026年8月3日:実在の女子陸上選手の写真を加工した性的ディープフェイクをSNSに投稿したとして、会社員の男を逮捕

共通しているのは、専門的なツールも、高額な機材も、特別な技術も使っていないということです。無料のツールと、公開されている写真だけで足りてしまっている。

そういえば「似ているAV女優を探す」サービスって随分前からあったよな

ここで、少し別のお話。

写真をアップロードすると、顔が似ているAV女優を探してくれる----そういうサービス、5年くらい前からあったよなと思って調べ直したら、もっと古かった。10年前からありました。

日付が取れたものだけ並べます。

時期事件意味
2016年4〜5月ロシアの顔検索サービス「FindFace」を使い、匿名掲示板の利用者がポルノ女優の顔写真からSNS(VK)の本人アカウントを特定。本人と、その友人に直接メッセージを送りつける嫌がらせが発生。アカウントを消して逃げた女性も出た逆方向の顔検索。「作品から本人を暴く」
2016年5月5日Qiitaに「ディープラーニングで顔が似ているAV女優を教えてくれるbotを構築」という記事。はてなブックマーク161日本での「似てる検索」個人開発の、確認できる最初期
2019年5月27日ドイツ在住の中国人開発者が「顔認識でポルノ出演者を特定するシステムを作った、10万人以上を特定済み」とWeiboで公表。Pornhubや中国の大手サイト、Facebook・TikTok・Weiboから100TB超を収集したと主張。目的は「男性が妻や恋人の出演歴を確認できるように」。批判が殺到し謝罪・閉鎖ただし動作する証拠は一切提示されなかった。実在したかは今も不明
2020年5月5日Qiitaに「AIで画像から似ている○○女優を解析するシステムを作ってみた」。Microsoft Azure の顔認識APIと、DMMの女優検索APIを組み合わせた構成既製のAPIを2つ繋ぐだけで作れる時代に
2021年8月21日Qiitaに「DMM.comの女優APIを使って約5万人の女優を検索できるサービスを作った」データベース側が公式に提供されている
2023年1月顔画像から似ている女優を出す商用サイトのドメイン登録個人の実験から商売
2023年9月7日FaceSwitchのドメイン(face-switch-ai.com)が登録。AI顔入れ替えを売りにするサービス「探す」から「作る」へ。炎上の3年前
2026年1月29日同種の顔検索サイトが新規ドメイン登録。7か月前いまも新規参入が続いている

ドメインの登録日はwhoisで引けるので、これは推測ではなく記録です。

なんでこんなサービスができたのか?

男性はほとんどが知っていると思う、DMM(現FANZA)様のイノベーションです。

DMMは、女優検索APIを公式に提供しています。

アフィリエイト向けのWeb APIとして、商品検索やジャンル検索と並んで女優を検索するエンドポイントがあり、約5万人分の女優データを引けます。アフィリエイト登録さえすれば、誰でも使えます。

これ自体はまっとうなアフィリエイト向けの機能です。作品を紹介したいブロガーのための仕組みで、DMMが何か悪いことをしているわけではまったくない。

ただ、結果としてこうなっています。

  • 顔を数値にする機能:クラウド各社の顔認識APIが、従量課金で誰でも使える
  • 照合先の名簿:DMMの公式APIで約5万人分が手に入る
  • 組み立て:この2つを繋ぐだけ

「似ているAV女優を探すサービス」は、悪意ある天才が作る必要のあるものではありません。公式に用意された正規の部品を、規約の範囲で2つ繋ぐだけで動く。だからこの10年、コンスタントに作られ続けてきた。

使われ方は、だいたい2パターンでした。ひとつは芸能人の写真を入れて、似ている女優を探す。もうひとつが自分の好きなあの子の写真を入れて、似ている人を探す

正直、後者はかなりギリギリだと思っていました。ただ、あの時点ではまだ「似ている別人を探しているだけ」ではあったんです。本人の顔そのものを使っているわけではない。グレーではあるけれど、一線は超えていなかった。

その一線を、生成AIが簡単に飛び越えさせました。「似ている人を探す」から「本人の顔で作る」へ。2023年に顔入れ替えサイトのドメインが登録されているのが、その分岐点です。

で、いま何個あるのか

「ちょっと調べるだけでどれくらい出てくるのか」を数字で見ておきます。

まず、日本語圏を数えてみた

検索して出てくるものを、実装記事も含めて数えました。少なくとも10件あります。

公開時期何が出てきたか
2016年5月Qiita「ディープラーニングで顔が似ているAV女優を教えてくれるbotを構築」
2017年10月13日個人ブログ「顔画像から似ているAV女優を検索するツールを作った」。このツール、いまも動いています
2017年10月28日Qiita「Facenetを使った類似AV女優検索」
2018年8月13日Qiita「顔認識AI+LINEの新機能でAVソムリエを作ってみた」
2020年5月5日Qiita「AIで画像から似ている○○女優を解析するシステムを作ってみた」
2021年8月21日Qiita「DMMの女優APIを使って約5万人の女優を検索できるサービスを作った」
2023年1月商用サイト(稼働中)
2023年8月13日note「AIを使って有名女優に似てるセクシー女優を探してみた」
2023年9月FaceSwitch(顔入れ替え)
2026年1月29日商用サイト(稼働中)。7か月前

しかもこれは「日本語で、検索して、表に出ているものだけ」です。個人が公開せずに手元で動かしているもの、SNSのDMで回っているもの、アプリストアのグレーゾーンにあるものは含んでいません。実数はもっと多い。

このブログの広告枠に出てた↓というようなサービスも見つけたんですが、これなんて今週になってリリースされもののようです。※18禁注意

スポンサー
aiavmatch.com https://aiavmatch.com
似てる、名前がわからない、〇〇な、AV女優を顔から探す
AIが顔の特徴を解析して候補を表示します。完全無料・登録不要。

なんでこんなに増えたのか

答えは単純で、生成AIを使えば、すぐ作れてしまうからです。

2016年の頃は、機械学習が分かる人が休日を潰して作るものでした。Qiitaに書かれているのも、そういう「やってみた」の記録です。

それがバイブコーディング----AIに「こういうサービスを作って」と投げればコードが出てくる時代になって、状況が変わりました。画像アップロード、顔検出、類似検索、課金。以前なら開発者を数人集めて数か月かかった規模が、ひとりの週末で立ち上がる。

しかも材料は前の章で見たとおり、顔認識APIとDMMの公式APIが最初から用意されている。ゼロから作る必要がない。

「作るコスト」が下がると、モラルのハードルも一緒に下がります。数か月かけて作るなら「これ、大丈夫か?」と我に返る時間があるけれど、週末で作れるものについては、考える時間そのものが存在しない。できたから出す。出したから誰かが使う。使う人がいるなら課金する。

海外の規模は、桁が違う

日本語圏で10件、と書きましたが、これは世界的に見ればかわいい数字です。

海外の研究機関が継続的に数えている「ヌード化サービス」の数字を見てみます。服を着た人物の写真をアップロードすると、その人が裸になった画像を生成する----という、身も蓋もないサービスのことです。英語圏では「nudify(ヌーディファイ)」と呼ばれています。

顔を入れ替えるFaceSwitchとは手口が違いますが、本人の同意なしに、本人の体に見える性的な画像を作るという点では同じ穴のむじなです。

調査数字
Graphika(2023年12月報告)2023年9月の1か月だけで2,400万人がヌード化サービスを訪問。宣伝リンクは2023年初頭から2,400%増。関連する52のTelegramグループに100万人以上
Institute for Strategic Dialogue
(2025年12月〜2026年3月)
SNSからこの種のサイトへ570万件超の流入。うちYouTubeが182万件(30%超)、Xが130万件超
同上稼働サイトは100以上。うち85サイトの年間売上は推定3,600万ドル(約53億円)
オックスフォード大学インターネット研究所
(ACM FAccT 2025 採択論文)
ダウンロード可能なディープフェイク用モデルが約35,000種類、累計約1,500万ダウンロード96%が女性を対象

「ちょっと調べれば出てくる」どころではありません。年商53億円の産業になっていて、しかもその客はYouTubeとXから流れ込んでいます。裏路地の話ではなく、表通りから導線が引かれている。

技術的に何が変わったのか:LoRAという分水嶺

ここだけ、少しだけ踏み込みます。作り方ではなく、なぜ簡単になったのかという構造の話として読んでください。

テキスト側のAIには、倫理が「学習させて」ある

ChatGPTやClaudeのようなフロンティアモデルに、「好きなあの子のエッチな画像を作って」「この写真の子のエッチな動画にして」と頼んでも、断られます。写真を添えても同じです。実在の人物の性的な文章を書かせようとしても、やはり断られる。

これ、どこかにNGワードのリストがあって弾いているのではありません。

RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)やDPOといった手法で、モデルの重みそのものに「そういうことはしない」という振る舞いを焼き込んであるわけです。学習の段階で、人間が「この回答は良い」「これはダメ」と評価を与え続け、それを報酬にして方向づけていく。倫理を、性格として学習させてある。

だから逃げ道を探しても、だいたい塞がっています。「小説の設定で」「本人の許可は取ってあるので」「研究目的です」----この手の言い換えは、まさにそれを断るように学習させられているので、素直には通りません。

この分野にはHHHという有名な指標があります。Askellら(2021年)が提唱したもので、AIアシスタントは Helpful(役に立つ)/Honest(正直である)/Harmless(無害である) であるべきだ、という3原則です。同じ論文では4つ目のHとして Handleable(人間の指示や修正を素直に受け付ける) も候補に挙げられていて、これを含めて4Hと呼ぶこともあります。

原則中身今回の話でいうと
Helpful役に立つ。求められたことに答える「役に立つ」を優先しすぎると危ないことも手伝ってしまう
Honest正直である。知らないことは知らないと言うフェイクを作る行為そのものと真っ向から衝突する
Harmless無害である。危害に加担しない今回のような依頼を断るのはここ
Handleable人間の指示・修正を素直に受け付ける制御可能であること。4つ目のH候補

面白いのは、HelpfulとHarmlessが構造的に喧嘩するところです。役に立とうとするほど危ないことにも手を貸しやすくなるし、無害であろうとするほど「それはお答えできません」が増える。この綱引きの落としどころが、各社の「モデルの性格」になっています。

画像生成AIも、中身はプロンプトだが

画像生成AIも、入力はテキストのプロンプトです。だから理屈の上では、テキスト側と同じように「そういう指示は受け付けない」というガードを入れられます。実際、商用のサービスはどこも入れています。

問題は、画像生成の世界にはオープンウェイトのモデルが大量にあることです。

手元にモデルの重みがあって、GPUを回せる環境があれば、ガードレールは意味を持ちません。サービス提供者の判断が介在しないので。ここがテキスト側の主要モデルとの決定的な違いです。

LoRAが、コストを二桁下げた

そしてLoRA(Low-Rank Adaptation)です。

これはモデル全体を学習し直すのではなく、小さな差分だけを追加で学習させる手法です。元のモデルには触らず、薄い「追加レイヤー」だけを作る。もともとは、巨大なモデルを現実的なコストで特定用途に適応させるための、まっとうな技術です。

この技術のおかげで、特定の絵柄やキャラクターを覚えさせるのに必要な計算量とデータ量が、桁違いに小さくなりました。イラストレーターが自分の画風を再現するのにも、企業が自社製品を覚えさせるのにも使われている、便利な技術です。

ただ、「特定の顔」を覚えさせるのにも、同じくらい効いてしまう。

ここが分水嶺でした。かつてディープフェイクは、大量の素材と長時間の学習と、それなりの知識が必要な「手間のかかる犯罪」でした。

どこまで下がったのか。オックスフォード大学インターネット研究所が2025年にACM FAccTで発表した論文に、具体的な数字があります。

この種のモデルの作成に必要なのは、画像20枚、VRAM 24GB、そして15分。消費者向けのPCで広く実行可能である

写真20枚と、ゲーミングPCと、コーヒー1杯分の時間。それが現在のコストです。

同じ論文は、公開・ダウンロード可能なこの種のモデルを約35,000種類確認し、それらが累計約1,500万回ダウンロードされていること、そして96%が女性を対象にしていることも報告しています。

先ほどの警察庁の統計で加害者の3分の2が同級生だったのは、これが理由です。高校生が思いつきでやれてしまう程度まで、コストが落ちた。

そして静止画から、音声、動画へ

もう静止画だけの話ではありません。

音声は数十秒のサンプルがあれば喋らせられるし、動画も、フレーム間の破綻がどんどん減っています。素人が見て「これは合成だ」と気づけるレベルは、ほぼ終わりました。手の指が6本ある、みたいな分かりやすい破綻を探す時代は過ぎています。

怖いのは、これが「疑わしいものを疑えなくなる」だけでなく、「本物を本物だと言えなくなる」方向にも効くことです。都合の悪い本物の映像を「AIでしょ」の一言で片付けられる世界は、たぶん誰にとっても不幸です。

で、どの法律に引っかかるのか(条文を読みました)

「取り締まる法律がない」と言われると雑に聞こえますが、条文を読むともっと精密に「ない」ことが分かります。e-Govで原文を確認したので、そこを書きます。

本命だと思われがちな法律が、実は届かない

2023年7月13日に施行された性的姿態撮影等処罰法(正式名称は長いので略します)。盗撮を取り締まる法律で、撮るだけでなく、配ることも、配る目的で持つことも罰するという、まさに今回向きに見える構成になっています。

  • 第2条(性的姿態等撮影):3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
  • 第3条(性的影像記録提供等):提供は3年以下/300万円以下。不特定多数への提供・公然陳列は5年以下/500万円以下
  • 第4条(性的影像記録保管)提供する目的で保管した者は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金

第4条が、いわゆる「配布目的で持っていた」で立件できる条文です。ここまではいい。

問題は、第3条にある「性的影像記録」の定義です。原文はこうなっています(読みにくいので要点だけ)。

性的影像記録(前条第一項各号に掲げる行為若しくは第六条第一項の行為により生成された電磁的記録......又は当該記録の全部若しくは一部......を複写したものをいう)

「前条第一項各号に掲げる行為」=第2条の撮影罪。「第六条第一項の行為」=送信されたものを記録する罪。

つまりこの法律でいう「性的影像記録」とは、盗撮などの違法な撮影によって生まれた記録と、その複製だけを指しています。

ということは----本人がSNSに上げた普通の顔写真をAIで加工したものは、この定義に入りません。元の写真は違法に撮られたものではないので。カメラを一度も回していない生成物には、この法律は届かない。

盗撮の法律なので、盗撮していないと使えない。当たり前といえば当たり前ですが、実際に条文を追うとここまではっきりしています。

じゃあ何が残るのか

法律成立するのは評価
刑法175条
わいせつ電磁的記録等頒布
わいせつなデータを頒布・公然陳列したとき。有償頒布目的の所持・保管も2項で処罰公開すれば主戦場。実在しない人物の画像でも、内容がわいせつなら成立し得る
名誉毀損罪(230条)
侮辱罪
公然と社会的評価を下げたとき本人と分かる形で公開されれば、まず問題になる
児童ポルノ禁止法実在する児童の画像を使ったときここだけ次元が違う。後述
著作権法元のAV作品や写真を無断で使ったとき素材側の権利。見落とされがち
性的姿態撮影等処罰法元が盗撮由来の記録だったときのみ純粋なAI生成には届かない
そして「作って、自分だけで見る」----ここに当てはまる条文が、児童ポルノを除いて存在しない

唯一、明確に効く壁がある

ひとつだけ、迷う余地がないものがあります。児童ポルノ禁止法です。

2024年6月、名古屋地裁が、児童の写真を加工した性的ディープフェイクの所持を児童ポルノ禁止法違反と認定しました。この種のものに対する初の司法判断とされています。

この法律は頒布どころか「所持」だけで犯罪です。誰にも見せていなくても、売っていなくても、持っているだけで成立する。そして「AIで作ったから実在しない」という言い訳は、元にした写真が実在の子どものものであれば通りません。

先ほどの警察庁統計を思い出してください。被害者の9割超が中高生でした。つまりあの123件の大半は、児童ポルノ禁止法の射程にまっすぐ入ります。「私的利用だからセーフ」は、相手が未成年なら一瞬で崩れる。ここは冗談抜きで、人生が終わります。

結局どういう構造か

整理すると、日本の現状はこうです。

  • 配ったら:刑法175条と名誉毀損で捕まる。実際に逮捕者が出ている
  • 相手が子どもなら:作って持っているだけで捕まる
  • 大人を、自分だけのために作るなら今のところ、直接の条文がない

そしてこの3つ目に、FaceSwitchが正面から入り込んでいる。「私的利用なら大丈夫」という一点で成立しているサービスが、30万人を集めた。それが今回の炎上の正体です。

ちなみに、新しい技術に古い条文を当てにいくと無理と隙間が同時に出る、という話は以前不可視テキスト入りのPDFがウィルス作成罪に問われるという記事でも書きました。今回は「隙間」のほうが露骨に出たケースです。

「私的利用ならセーフ」の、その先で起きること

「自分ひとりで楽しむ分には自由」というのは、まっとうな設計です。頭の中で何を想像しようが自由であるべきなのと同じで、そこに国家が踏み込むべきではない。私もそう思います。

問題は、頭の中と違って、生成物はファイルとして残ることです。

ファイルは流出します。PCが壊れて修理に出す、クラウドの共有設定を間違える、スマホを落とす、アカウントが乗っ取られる。あるいは別れた相手が持ち出す。

そして流出したファイルは、脅迫の材料になります。「これをばら撒かれたくなければ」という話は、本物の画像でずっと起きてきたことです。それが本物でなくても成立するようになったというのが、今回の変化です。被害者は「それは私じゃない」と証明できません。悪魔の証明なので。

さらに言うと、今回のようなクラウド型のサービスに写真をアップロードした時点で、そのファイルは自分の手を離れています。「私的利用」のつもりでも、素材は他人のサーバに渡っている。そのサーバがどこの国にあって、いつ漏れるかは、利用者には分かりません。

私的利用の範囲でどんどん作れる世界というのは、脅迫の弾薬が世の中に積み上がっていく世界でもある。ここは、正直まだ誰も答えを持っていないと思います。

技術で防げるのか:透かし、指紋、認証局

じゃあ技術側で何かできないのか。いま本命とされているのが、来歴(provenance)を証明する方向です。

  • 電子透かし(ウォーターマーク):生成物に、人間には見えない信号を埋め込む。AI製であることのフラグ
  • フィンガープリント:コンテンツから特徴量を取り、同一・類似のものを追跡する。既存の著作権侵害対策の応用
  • C2PA(コンテンツクレデンシャル):撮影や生成の瞬間に「いつ・どの端末やモデルで作られ、その後どう編集されたか」を暗号署名つきで埋め込む業界標準

C2PAはすでに実機に載り始めています。2026年8月時点だと、

  • Google Pixel 10シリーズ以降:純正カメラの写真にハードウェア支援の署名がデフォルトで付く
  • Samsung Galaxy S26シリーズ:撮影時の署名に対応
  • iPhone:現時点では非対応。iOS 20(2026年秋)で対応予定

検証は contentcredentials.org/verify に画像を放り込むだけで誰でもできます。

面白いのは、この技術が「AIが作った」を示す方向だけでなく、「これは私が撮った本物だ」と主張する方向にも効くことです。つまりデジタルの認証局のような役割。誰がいつ作ったかを署名で証明できれば、権利主張の基盤にもなります。

ただ、正直に書いておくと、これで解決はしません。署名は剥がせるし、非対応の端末やモデルで作れば最初から付かない。オープンウェイトのモデルをローカルで回している人間に、透かしを強制する手段は事実上ありません。

効くのは流通の水際----プラットフォーム側が「署名のないものは扱わない」と決めたときだけです。そしてそれは、技術の問題ではなく政治とビジネスの問題になります。

この先、AIはドローンみたいになるのか

ここからは私の予想です。

ドローンを覚えていますか。2015年に首相官邸の屋上に落ちて、そこから一気に規制が入りました。今や、あれだけ自由だったものが登録・許可・飛行禁止空域だらけです。技術が悪かったわけではなく、事件が起きたから規制された。

AIも、同じ道をたどりつつあると思っています。

今回のような事件が積み上がっていくと、必ず「生成AIそのものを規制しろ」という声が大きくなります。そして規制は、往々にして真面目にやっている側から順番に効いていく。商用サービスはガードを厚くし、法人利用は稟議が増え、研究は倫理審査で止まる。

一方で、オープンウェイトのモデルをローカルで回している人間には、ほとんど効きません。この非対称性は、先日書いたダークパターン規制の記事とまったく同じ構図です。ルールを増やしても、守る人しか守らない。

だからといって「規制するな」とは言いません。中学生が同級生の性的画像を作って回している状況で、何もしないという選択肢はない。ただ、規制の設計が雑だと、被害は減らないままコストだけが積み上がる。そこは繰り返し言っておきたいところです。

ところで、エロは技術を進化させてきた

ここから話が変わります。

身も蓋もないことを言いますが、エロは軍事と並んで、技術を前に進めてきた原動力です。これは業界にいた人間なら、たいてい肌感覚で知っています。

ビデオの規格争い

有名なのがVHS対ベータマックスです。ソニーのベータマックスと、日本ビクター+松下電器(現パナソニック)のVHS。松下幸之助がビクターの工場でVHSの試作機を見て「ベータマックスは100点満点の製品だ。しかしこのVHSは150点だ」と言った、という逸話が残っています。

この勝敗を「アダルトビデオが決めた」と語られることが多いのですが、これは半分正しくて半分は俗説です。実際には、

  • VHSは部品点数と調整箇所が少なく、各社が参入しやすく量産・低価格化しやすかった
  • 標準の録画時間が長かった(映画1本、番組1本が入るかどうかは大きい)
  • ソフトメーカーが優勢な陣営に一本化した

といった要因が積み重なっています。ただし、アダルトソフトの供給量に差があったのは事実で、VHS陣営が積極的だった一方、ベータ陣営は採算面から少数にとどまりました。「決定打」ではないが、「効いた一因」ではあった----これが正確なところだと思います。

インターネットも、同じでした

個人的な話をします。

私は新卒で通信企業に入って、ISPの仕事をしていました。当時、ユーザーが公開しているコンテンツのアクセス数ランキングを見る機会があったんですが、上位はほとんどエロか、LGBT関連の発展場掲示板でした。

これ、笑い話として言っているのではなくて。当時のインターネットは今より遥かに細くて高かった。それでもお金と時間を払ってでもアクセスしたいものが何だったかという話です。

常時接続も、大容量化も、ストリーミングも、決済も、成人認証も----最初に本気で必要としたのはエロでした。需要が技術を引っ張り、引っ張られた技術がその後まっとうな用途に流れていく。これは繰り返されてきたパターンです。

生成AI界は、エロに厳しかった。そして今

その歴史から見ると、生成AIは異例なほどエロに厳しい領域でした。

主要なモデルはどこも性的表現を強く制限し、実在人物となればなおさら。理由は分かります。学習データの正当性、未成年の保護、非同意の被害、そして企業としてのレピュテーション。全部まっとうな理由です。

ただ、緩和の動きもありました。OpenAIが2025年10月に「大人を大人として扱う」という方針を掲げ、年齢確認済みの成人向けにエロティカを解禁すると発表。2026年初頭の提供開始が予定されていました。

で、どうなったか。

2回延期されたのち、2026年3月26日に「無期限で保留」となりました。未成年のアクセス、そしてユーザーがAIに不健全な情愛を抱いてしまうことへの懸念が理由とされています。成人モード用のコンテンツフィルタは、結局デプロイされないまま止まりました。

この「緩和すると言ったが、止めた」という結末は、なかなか示唆的だと思っています。技術的にできないから止めたのではなく、人間の側の反応が読めなかったから止めた。

エロが無限に供給される世界で、人はエロに飽きるのでは

ここから、私の仮説です。......と言いたいところですが、調べてみたらだいたい先行研究がありました。ので、名前を借りて整理します。

まず前提。手に入れるのが大変だからこそ、価値を感じる。昭和の中学生にとって、エロ本一冊がどれだけの冒険だったか。あれは中身の問題というより、入手のコストが価値の相当部分を占めていたと思うんですよ。

この直感、行動経済学と社会心理学の言葉に置き換えると、こうなります。

なぜ「大変だと価値が上がる」のか

概念中身エロで言うと
希少性の原理
Scarcity principle(チャルディーニ)
手に入りにくいものほど、価値が高いと判断される入手困難だった時代のエロ本の異常な価値
心理的リアクタンス
Psychological reactance(Brehm, 1966)
禁止されると、かえって欲しくなる。奪われた自由を取り戻そうとする動機が働く「18歳未満お断り」が最強の広告として機能してきた理由
努力の正当化
Effort justification(Aronson & Mills, 1959)
つらい通過儀礼を経た集団ほど、その集団を好きになる。認知的不協和の解消苦労して手に入れたものほど、良かったことにしたくなる
IKEA効果
(Norton, Mochon & Ariely, 2012)
自分で手をかけたものを、客観的価値より高く評価する探して、選んで、隠して----という手間そのものが価値を作っていた
保有効果
Endowment effect(Kahneman, Knetsch & Thaler, 1990)
マグカップを配っただけで、売値と買値が2倍以上開いた。持った瞬間に価値が上がる「自分のコレクション」になった時点で手放せなくなる

つまり「入手コスト」は、価値のオマケではなく本体側だった可能性がある。ここが今回の話の肝です。

そのコストが、いまゼロになった

入手コストがゼロに近づいています。しかも「あなたの好みに完全に最適化されたもの」が、無限に、即座に。

ここで効いてくるのが、逆側の理論です。

概念中身予想される結末
限界効用逓減の法則同じものを消費するほど、1単位あたりの満足は減っていく無限供給の行き着く先は、限りなくゼロの満足
快楽適応/ヘドニック・トレッドミル
(Brickman, Coates & Janoff-Bulman, 1978)
宝くじの高額当選者は、しばらくすると一般人と幸福度が変わらない。むしろ日常の些細な喜びを感じにくくなっていた手に入りすぎると、基準値が上がって、元の刺激では足りなくなる
報酬予測誤差
Reward prediction error
脳のドーパミン系が反応するのは「予想外に良かったとき」。確実に手に入るものには、反応が落ちる確実・即時・無限は、報酬として最も効かない条件

この宝くじの研究、私はかなり不気味だと思っていて。当選者は不幸になったわけではないんです。ただ、日常の小さな喜びを感じにくくなっていた。

並べてみると、話は単純です。希少性がなくなり、リアクタンスが働く禁止もなくなり、努力の正当化も、IKEA効果も、保有効果も、全部の足場が同時に外れる。そして残るのは、快楽適応と限界効用逓減だけ。

エロが溢れる世界の行き着く先は、エロに何も感じない世界じゃないか、と本気で思っています。しかも当人は不幸だと感じない。ただ、感じにくくなっているだけ。

そこにPhysical AIが乗ってきます。2026年は「ヒューマノイドの商用化元年」と言われていて、家庭用ロボットも数百万円のレンジで限定販売が始まっています。本格普及は2030年代という見立てですが、方向は決まっている。

画面の中で完結していたものが、物理的な実体を持つようになったとき、何が起きるか。もう想像がつくと思います。誰も口に出さないだけで、あの市場が最初に来るのはほぼ確実でしょう。VHSのときと同じです。

そして、その先に何が残るのか。

完全に自分好みで、絶対に拒否せず、機嫌も損ねず、老いもしない相手が用意される世界で、面倒で、思い通りにならなくて、拒否もされる生身の人間を、人はまだ好きになるのか。

OpenAIが成人モードを止めた理由に「ユーザーがAIに不健全な情愛を抱く懸念」が入っていたのは、たぶんこの話です。あれは倫理の話であると同時に、人間の壊れ方についての予測だったんだと思います。

一周回って、AIから愛へ

長々と書いてきましたが、ここが結論です。

この記事の出発点は、「好きな子をAV女優に」と広告を打つサービスに、30万人が集まったという話でした。

あれは技術の事件のように見えて、実は関係の事件だと思っています。加害者の3分の2が同級生だという統計が、それを言っています。目の前にいる、話しかけられる距離にいる相手を、データとして加工する側に回ったということなので。

相手が生身の人間で、感情があって、傷つくということが、どこかで抜け落ちている。生成AIが与えたのは技術であって、抜け落ちさせたのは技術ではありません。

私は日本ロマンチスト協会の宣教師をやっています。

ロマンチスト協会の理念は、「愛する人を大切にすること」です。それだけです。シンプルすぎて拍子抜けするくらい。

でも、この記事をここまで書いてきて、思うんですよ。

AIが作れないものは、これだなと。

AIは、あなたの好みの顔を作れます。声も作れます。動画も作れます。この先、触れる実体まで作るでしょう。でも、思い通りにならない相手を、それでも大切にし続けるという面倒くさい行為は、AIには一生できません。そこには相手がいないので。

愛って、たぶんコストが本体なんです。時間をかけて、譲って、我慢して、それでも一緒にいることを選び直す。希少だから価値があるのではなく、コストを払ったから価値になる。手に入らないから尊いのではなく、手放さなかったから尊い。

エロの入手コストがゼロになる世界は、たぶん来ます。止められません。

でも愛のコストは、絶対にゼロになりません。そこだけは自動化できない。生成もできない。LoRAで学習させることもできない。

だから私は、そっちの側に立っておこうと思っています。AIが生み出せないものを、生み出していく側に。

ディープフェイクの記事のつもりで書き始めて、こんな着地になりました。まあ、そういう日もあります。

最後にひとつだけ、真面目な話を。

あなたのお子さんの通う中学校でも、たぶん起きています。123件のうち79件が中学生で、加害者の多くが同級生です。「うちの子に限って」も「うちの学校に限って」も、この統計の前では通用しません。被害者になる可能性も、加害者になる可能性も、両方あります。

技術の話として教えるより先に、画面の向こうにいるのは、明日も教室で会う人間だという話をしてあげてください。それが一番効くと思います。


【参考】
「好きな子をAVに」写真1枚で性的動画をAI生成...無料サービスが拡散(ENCOUNT/2026年8月25日)
児童の画像加工「性的ディープフェイク」被害123件 生成AI悪用、上期倍に―警察庁(時事通信/2026年8月3日)
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(e-Gov法令検索)
Deepfakes on Demand: the rise of accessible non-consensual deepfake image generators(Oxford Internet Institute/ACM FAccT 2025)
A Revealing Picture(Graphika/2023年12月)
A General Language Assistant as a Laboratory for Alignment(Askell et al., 2021/HHHの初出)
ビデオ戦争(Wikipedia)

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