HRテックの登場と今後の発展・展開
最近、組織・人事領域において、「HRテック」という言葉をよく耳にするのではないだろうか。この「HRテック」という言葉は、組織・人事領域において、ITを用いた業種・業態の高度化・効率化、また新しいサービスの創造・創出の総称として用いられている言葉である。今回のコラムでは、この「HRテック」登場の背景や今後の展開についてまとめた。
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これまで、組織・人事領域における従来のマネジメントでは、管理職や人事部門の責任者や担当者の経験と勘に頼ったマネジメントが行われてきた場合が少なくない。また仕事の進め方に関しても、人事部門においては機密性の高い情報を扱うことから、一部の限られた人員が異動することなく、固定化して仕事を進めている場合も多いのではないだろうか。更に、度重なる制度や法律の改定などによって、業務処理そのものが煩雑化・複雑化している場合もある。
このような状況に加え、人材マネジメントの状況は、少子高齢化・景況の回復・上昇に伴って、採用市場は売り手市場で活況を呈しており、人材確保は拍車をかけて難しくなっている。またマネジメントする単位も、組織や部署、チームなどの単位では、多様な人材のスキルや能力を十分に活かせないため、人そのものにフォーカスすることが求められてきている。
その一方で、ITの進歩や発展は進んでおり、個人が気軽に情報を発信・受信するソーシャルメディアやモバイルコンピューティングに始まり、従来の"情報システムやインフラを「所有」"する考え方から、クラウドコンピューティングなどによって、"情報システムやインフラを「使用」"する考え方に変化してきている。
これらの状況やITの進歩や発展が合い重なって、"組織・人事、また人材"×"IT"、つまり「HRテック」という考え方や、「HRテック」を標榜する新しいサービスが生まれた(生まれている)のである。
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この「HRテック」は、例えば、(1)人事データの一元管理・可視化・分析を可能にすることで、従来の経験や勘に頼ったマネジメントではなく、大量のデータやその分析に則った、科学的な根拠のあるマネジメントを実現する。(2)複雑な定型業務を自動化することで削減し、オペレーションの効率化を実現する。(3)必要なスキルやポテンシャルを持った人材を素早く見つけ出し、適材適所で配置を実現する。などを、容易に、また場合によっては労せず自動的に実現させつつあるのである。
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この「HRテック」だが、大きくは4つの領域に区分することが出来る。
一つめは、ATS(Applicant Tracking System以下ATS)である。ATSとは、企業の採用業務における、求人票の作成から応募フォーム、応募者管理などを一元管理するシステムを指す。
二つめは、LMS(Learning Management System以下、LMS)である。LMSとは、従業員のオンデマンド学習や、人材育成計画の立案、研修のプロセスを評価など、主に人材育成に活用されるシステムを指す。
三つめは、HRIS(Human Resources Information System以下、HRIS)である。HRISとは、従業員情報の管理や、給与管理や労務管理などの人事情報システム全般を指す。
最後は、HR Analytics(Human Resources Analytics以下、HR Analytics)である。HR Analyticsとは、組織および従業員の能力・成果を測定、収集し、さらにそのデータを分析することによって、課題抽出や改善を可能にする手法を指す。
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これらの「HRテック」領域のシステムやITサービスを活用することにより、以下のような代表的な効果を企業は得ることができる。
▼人材データの可視化・一元管理・分析
1)クラウドやAI、ビッグデータ解析等を用いることで、従業員情報といった人材管理や給与管理、労務管理などの人事業務を最適化・効率化する。
2)求人リストや応募フォームの作成、オンライン求人掲示板やソーシャルメディアサイト等WEBへの求人掲載、等、採用業務を一元化する。
▼定型業務の削減/価値向上
1)ATS等を用い、大幅に採用業務を効率化し、応募者の質や採用成果を向上させる。
2)LMS等を活用し、育成業務を効率化する。具体的には、eラーニングによる学習教材の配信をはじめ、成績情報や学習履歴などを簡単に管理できるプラットフォームを用い、最適かつ戦略的な人材育成を実現させる
▼円滑なコミュニケーションによる組織活性化
1)従業員のモチベーション等を把握・管理可能にすることにより、生産性の向上や、退職リスクの低減を実現させる。
2)対外的にも、個人とのコミュニケーションツールが多様化したことにより、より多くの優秀な採用候補者へのアプローチを実現させる。
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このように、「HRテック」は、組織・人事領域におけるマネジメントの効率化や高度化を実現させている(させつつある)のだが、まだ入り口にしか過ぎないと私は考えている。それは、これらの「HRテック」は、従来の人材マネジメントが前提にあり、従来の人材マネジメントからまだ脱却しきれていないところにある。
従来の人材マネジメント、つまり、採用から始まり、人事制度によって評価、昇降格がなされ、報酬が支払われる。また配置・配属によって人材に活躍の場が提供されて、足りないスキルや能力は育成され、ある一定の年齢を経て会社を去る。この従来の人材マネジメントのサイクルを「HRテック」は効率化・高度化、自動化しているにしか過ぎないのである。
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「HRテック」が、これから更に発展・進化することで、従来の人材マネジメントのあり方そのものを変えるまでに至った時、真の経営の効率化・高度化、また従業員の活躍に直結する、これまでにない全く新しいソリューションになると私は考えている。
コンサルティングソリューション事業部
松本 英人