定年延長・定年再雇用制度
最近、コンサルティングの現場では、定年延長や定年再雇用制度の再整備のご用命をいただくことが増えてきています。
労働力人口の減少や若手社員の減少(少子高齢化)が新卒採用、あるいは企業間の即戦力の採用競争の激化を生じさせており、企業にとって、必要人員を確保することは非常に労力のかかる事項になってきています。
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ここにきて、にわかにブームに近い盛り上がりがありますが、定年延長や定年再雇用制度(嘱託制度など様々な呼び名がある)の必要性が高くなっている背景には以下の点が挙げられます。
①年金制度の改革・改定
制度開始時は55歳であった年金受給が累次の制度改革により段階的に65歳に引き上げるといった年金受給の繰り上げにより、労働者の定年後の生活保障の観点として国の政策として定年延長を後押ししているため
②人材の活用(経験ある人材の積極活用)
労働力人口の減少により労働力の確保を図るために、会社に貢献してきた人材を継続雇用することで、人材不足の解消と組織活性化を図るため
③働き方改革の推進
社員ひとり一人の多様化するシニアライフ(セカンドライフ/セカンドキャリア)に報いるため、単純な定年延長だけでなく、これまで単なる受け皿としてしか機能していなかった定年再雇用を多様な人生観に対応でききるものに再構築し、結果として会社への貢献を促すため
これらの定年延長や定年再雇用制度は企業側としても、労働力の確保といった視点だけでなく、雇用期間の延長に呼応して漫然と雇用管理するのではなく、これまでの役割や処遇を見直す貴重な機会としてとらえている面もあり、見直しが進んでいます。
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これまでの定年再雇用制度などは、雇用の調整弁としての一時的な制度としての側面が強かったが、より積極的に役割・処遇を見直すことを目論んでいる面もあります。
また、これらの2つの仕組みは、選択制として導入する企業も多く、より柔軟で多様なキャリア観・人生観を持った人材を有効に活用する受け皿となってきています。
Ⅰ:定年延長
・定年を60歳から65歳に延長し正社員としての雇用を図る
・制度設計の際の主な検討事項
・単純な延長とはせず、60歳を契機に役割の見直し(継続・逓減)を図る機会と捉え60歳に役割の見直し(役職定年など)を行う場合もある
・企業側にとっては延長部分の報酬原資が増加する面があるため総額人件費の見直し(報酬テーブルの改定)を図ることも必要になる
・延長時の退職金増加額を許容する場合は問題にならないが、報酬原資の問題がある場合には、退職金の抑制(算定基礎額・支給率の見直し、あるいはポイント制の場合には付与ポイントの見直し)などが必要になる
・60歳以後の退職は、不利益を被らないように定年扱いの退職金の支給などを行う場合が多い
Ⅱ:定年再雇用制度(再雇用制度)
・現在の定年年齢が60歳の場合には60歳以降とする場合が多いが、定年扱いで正社員を定年退職して、定年再雇用制度で継続雇用を行う
・制度設計の際の主な検討事項
・大きく役割や責任の見直しを図り、見直しに呼応して報酬を一定額減額するケースが多い(役職に任用することなどは一般的には少ない)
・本人の意向や多様性を受容し、勤務日や勤務時間を柔軟に設定することで双方にとってWin-Winの構図を作る
▶ 会社としても有益なノウハウをもった社員を一定期間活用できる
▶ 対様な働き方の受け皿として、定年延長とはことなり柔軟な処遇体系の設計、あるいは個別対応が可能
・単純な労働力としてではなく、ノウハウ・技術の伝承、後進の育成を図るなど退職再雇用ならではのミッションの設定が必要となる
・2018年4月より本格化する、契約社員の無期雇用化の対象にもなるため対象から外す場合には、特例扱いの申請が必要になる
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仕組みを効果的に活用するためには、健康、意欲減退などによるパフォーマンスの低下なども見込まれるため適切な評価の運用がポイントになります。
特に定年再雇用制度は、雇止めなどの問題も発生するため、単年度の契約であっても評価を行い契約更新をする/しないを判定できる工夫が必要になります。
また、シニアに特化した定年延長、定年再雇用制度の整備は、シニア層のモチベーションには非常に有益ですが、逆に若年層や、働き盛りのミドル層には、ポスト不足、重要な役割を担う機会の創出、報酬の抑制など何かとネガティブに響くリスクがあります。したがって制度全体を見直して、若年層、ミドルにも明るい未来を想起できるバランスある制度設計が求められます。
常務取締役 八代 智