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組織を活性化させていく上で外せないポイントを、企業や組織が抱える問題や課題と照らし合わせて分かりやすく解説します。日々現場でコンサルティングワークに奔走するコンサルタントが、それぞれの得意領域に沿って交代でご紹介します。

目的を捉えた人事施策

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最近、お問合せや営業の現場でお客様から色々とご相談を受ける中で、よく思うことがあります。それはお客様の中で目的と手段の混同、もしくは手段の目的化が起こってしまっているのではないかということです。
例えば、若手社員の離職率が高いので離職率を下げたい、主体性がないので身に付けさせたいといった相談を受けるのですが、本当にそれが本質的な目的を捉えた上での相談なのか疑わしく思うことがあります。

離職率を下げたり、主体性を持たせたりすることは悪いことではありませんが、その企業の競争環境や組織風土、戦略や人材マネジメントの状況によっては、低い離職率や高度な主体性が必要ないケースが存在します。つまり、低い離職率や強い主体性の実現などによってどのような目的を達成したいかという根本的な目的を捉えていないのに、目の前の状況だけを改善することが目的になってしまっている相談が多いという事です。離職率を低くすることでどうしたいのか、主体性を身に付けさせて何がさせたいのかという大事な部分が抜けているのです。

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皆さんは、"有意差"という言葉をご存知ですか?
有意差とは、『実験・調査などによって得られた結果が、偶然の産物や誤差などではなく、再現性のある差であること』を言います。

学生時代に薬剤師を目指し勉強をしていたときの、こんな例があります。
血圧を下げる薬があったとします。
その薬を仮にA薬とし、ある患者群にはA薬を一か月飲ませ、もう一方の患者群には何も服薬させず、一か月後両群の血圧を測ります。A薬を飲ませた患者群は平均10mmHg血圧の低減効果が見られ、もう一方の群には実験開始前と特に変化が見られなかったとします。
この結果を受けてA薬には、何も服薬しなかった時と比べ、"血圧低減効果をもたらす有意差"が見いだせたと言えるでしょうか。
専門的な詳細は省略しますが、この結論を導くために、実験結果に影響を与える様々な要因をさらに取り除き、「この結果は偶然起きたものではなく、A薬によって必然的に生じた差である」と証明できれば「有意差がある」と言えます。そして、この有意差を証明することに躍起になっていることがあります。

確かにこの"有意差"を検出することはその施策が効果的であったか検証する上で非常に重要なことです。しかしこの有意差を検出することに躍起になっているとついつい忘れてしまうことがあります。 それは、有意差が検出できたことと、この有意差自身が本当の意味で"意味のある差"かどうかは別物であるということです。

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先程の例だと、「確かにA薬は血圧を10mmHg下げたことに有意差があった」と証明されたとしましょう。しかし、本来の目的が"平均余命の延長"もしくは"生活の質の改善"だとすると、この有意差の証明は時として何の意味もないものになってしまいます。つまり、本来の目的は血圧を下げることではなく、血圧を下げることによって"何か"が起きることであったということなのです。それを忘れてしまうと、血圧を下げること自身が目的になってしまい、そこに注力するような薬を開発したとしても、「血圧を下げることは平均余命の延長にはつながらない」となってしまい、その薬を作るまでの道のりは何ら意味のないものになってしまいます。
A薬により血圧が下がったかどうかの有意差の検出に注力する以前に、血圧が下がることが何に影響を及ぼし、"平均余命の延長"もしくは"生活の質の改善"にどうつながるのかということを確認する必要があります。

話を元に戻すと、離職率の低減や主体性の醸成は単なる有意差に過ぎません。その改善を持って、本当に解決したい目的・実現したい目的があるはずです。それにも関わらず、"経営陣がこの状況を非常に問題視している""他社はこんな取り組みをしている"と目的を掴まないまま、もしくは目的と手段がつながっているか確認しないまま、施策をスタートさせるのは危険です。なぜならば、その施策は目的の実現に寄与しない可能性もあり、そのような場合、どんな小さな施策であってもお金や時間の無駄になってしまうからです。

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本当に実現したい目的は何なのか、この内容によっては皆さま自身が考えている「離職率の低減」「主体性の強化」とは違う課題が浮き彫りになり、もっと違った施策があるかもしれません。
そのような事態を避けるためにも、本来の目的が何なのか、今の施策は目的とどのように関連しているのか、今一度立ち戻って考えてみてはいかがでしょうか。

人材開発コンサルティング事業部
安藤 友美

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