タレントマネジメントを推進する上での経営者の役割
タレントマネジメントを組織内に浸透させるためには、経営者層の参画は欠かせない要件になる。特に、今までに想定していないタレントを開発していくためには、2つのポイントを押さえる必要がある。それは、積極的に様々なアウトプットする場を設けることと、失敗を恐れずに挑戦し続ける文化や風土を社内に醸成することである。
【タレントの開発を行う上でのポイント】
1)積極的に様々なアウトプットする場を設けること
2)失敗を許容する風土や文化を社内に醸成すること
いま見えていないタレントを発見したり、発掘したりすること。つまり、タレントの開発は、タレントマネジメントの本質のひとつと言える。経営環境は絶えず変化し、その度に求められるタレントも変化していくわけである。そのため、現在見えているタレントに関しては、常にブラッシュアップし続けるとともに、加えて新しいタレントに関しては開発する必要がある。これまでに必要とされてきたタレントのブラッシュアップを行うと共に、新しいタレントも開発していくことができれば、その企業は、常に時代の先端を走ることができ、厳しい競合環境を勝ち抜いていけるといえるであろう。
タレントの育成・開発に欠かせない考え方のひとつに、「機会提供」がある。部署間の異動をはじめとして、部署内での配置換え・担当替え、役割の交代、プロジェクトへの参画など。ありとあらゆる新しい機会を従業員に対して提供する必要がある。私はコンサルティングの現場で、部署内での配置換え・担当替え、役割の交代などを数多く見てきたが、ほとんどの企業において、これらの取り組みは企業側のニーズ。もうひとついうと、企業側の都合だけで行われていることが殆どである。しかも、その都合とは、意志ある能動的なものは少なく、「欠員が出たから」などという、極めて受動的で、対処療法的な企業側のニーズに沿ったものが多いというのが実感値である。
確かに企業経営をしていく中で、やむを得ないことは多々発生する。しかし、このようなやむ得ない事態も、機会提供のきっかけとして、従業員側のニーズを加味し、意志ある能動的な取り組みとして、その機会を活用することの重要性を知ることが、タレントマネジメントに向けた取組みの一歩と言えるかもしれない。
これはタレントマネジメントだけに限らず、人材マネジメント施策全体においても言えることであろう。つまり、人材マネジメント施策の成功の要諦は、日常の因果関係や業務の流れなどから発生する事態を、目的に沿った意味づけを行って対処すること。また日常の因果関係からみると不合理で、ややもするとムダとも思えることを、将来の目的に沿って推進すること。このあたりが、人材マネジメント施策の成功の要諦であり、妙と言えるのではないだろうか。
前段で、タレントマネジメントを成功させる上で、経営者層の参画が欠かせないといった2つのポイント、1)積極的にアウトプットする場を設けること。2)失敗を許容する風土や文化を社内に醸成すること。この2つのポイントにおいても同様に、日常の因果関係や業務の流れからみると不合理で、ややもするとムダとも思えるところがある。
部署の管理職者にとって、自部門の業績をあげることは優先的な課題であろう。しかし、この自部門の業績に拘る取り組みは、タレントマネジメントにおける中長期的な目線からみると部分最適であり、阻害要因になる場合があるのである。
例えば、積極的に様々なアウトプットの場を設けるために、社内でのビジネスコンテストを企画したり、会社のリソースを使った自己研究を推奨することで、目の前の業績に直結する取り組みに費やす時間は少なからず減る。またあるいは、失敗を許容する風土や文化を醸成するために、大きな仕事やプロジェクトを部下に一任することで、その大きな仕事やプロジェクトは非効率に運営されることもあり、場合によっては失敗に終わる可能性も高くなる。更に管理職者は、自部門の業績を上げることに重点を置き、日々の業務を進めているため、自部門にいる優秀な人材は、他の部署に異動(機会提供)することで更なる成長を遂げる可能性があっても、自部門で囲んでしまいかねないのである。
経営者層は、このような状況を加味し、各部門の管理職者が、自部門の業績を上げるために行う短期的な追う取り組みを推奨しつつ、一見すると不合理でムダとも思えるような取り組みも、中長期的な目線を持って推奨する必要がある。またこの中長期的な取り組みは、これまで話をしてきた通り、日常の因果関係や業務の流れからみると不合理で、ややもするとムダとも思えるところがあるため、現場に任せていても、継続的且つ恒常的に推進されることは難しい。よって、経営者層はこれらの中長期的な取り組みを、将来に対して強い意志を持って推進していくことが求められる。これがタレントマネジメントを推進していく上での経営者の役割の本質と言えるであろう。
代表取締役社長 兼 CEO 大野 順也
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