労働市場の変化とタレントマネジメント
タレントマネジメントは時代の流れから必然的に生まれてきた。まさに時代の要請あると言える。タレントマネジメントの源流となっている欧米の場合、タレントマネジメントを採り入れなければならなかった極めて現実的な事情があることを付け加えておかなければならない。欧米、特にアメリカでは、人材の流動が激しい。企業はある人材が必要だとなれば外部から調達し、不要だと思えば簡単にクビを切る。このような労働環境であるため、個人は自分にとってのキャリアを築いていくためには、転職しながらポジションを獲得し、キャリアを描いていかなければならない。むしろ、キャリアアップを考えている人材ほど転職を繰り返す傾向がある。企業にとっては優秀な人材ほど流出する可能性が高く、経営を担う後継者の育成が長年の課題であった。そして、その課題の解決方法のひとつとして注目されたのがタレントマネジメントである。つまり、アメリカでは人材の流出防止と優秀な人材の囲い込みや選抜・育成のために、タレントマネジメントが行われてきた一面を見逃すことはできない。
一方、日本国内においてはどうだろうか。アメリカのようなドラスティックな人材マネジメントができる、また行われている環境ではないにしても、労働市場は大きく変化してきており、人材の流出防止と優秀な人材の囲い込みなどの取り組みは、喫緊課題となっているのではないだろうか。この日本国内の労働市場の変化は5つの観点から整理できる。
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①人口構造の変化
②サービス産業の隆盛
③情報産業の隆盛
④グローバル競争
⑤労働価値・就業価値の変化
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①人口構造の変化
日本の少子高齢化については、これまで多くの専門家・メディアなどによって、数限りなく取り上げられてきた。少子高齢化や人口減は日本全国の問題であり、どのような産業であっても事情は同じで、避けられない現実である。他の既存の産業でも人口減に伴い「右肩上がり」を大前提とする成長モデルはもはや成り立たない。つまり、限りある人材でマーケットにどう挑むか。少ない労働人口を如何に活用するかが、今も、そして、これからも企業にとって切実な問題となる。個人の力を如何に引き出し、活用するか。そこに注目される時代が来ているのである。
②サービス産業の隆盛
戦後の日本を支えてきた重厚長大産業は成熟~衰退を迎え、1990年代に入るとサービス産業が日本の主要な産業として台頭してきた。現在、日本国内でのサービス産業に就く人口を占める割合は全体の約7割にも及んでいる。このサービス産業の大きな特徴は、売上の増加が投入する人材の量に比例している場合が多いことである。つまり以下の構図が成り立つ。
人材の投下量 × 時間 × 能力 = 売上
このことからも明らかなように、少子高齢化に伴う、労働人口の減少がもたらす労働市場における影響は、サービス産業にとって深刻な問題であると言える。
③情報産業の隆盛
前述の通り産業構造は変化し続けている。中でもサービス業は、日本の産業の中でも抜きん出た存在になった。そして、そのサービス産業の中でも更に躍進しているのが情報産業、いわゆるIT産業である。このIT産業がもたらした労働市場に対する変化には様々あるが、最も大きなものは2つあると考えられる。ひとつは場所を選ばない情報流通の速さから生み出された転職活動の容易性であろう。いつでもどこでも最新の求人情報を閲覧できる環境がある。つまり労働市場における人材の流動性を高める大きな引き金になっているのである。もうひとつは、人材に求められる優秀さの定義が変化してきていることである。ひと昔前までは、多くの知識を有していることがひとつの優秀さとして評価された。しかし今では、インターネットにアクセスすれば、必要な情報はいつでもどこでも手に入る。つまり多くの知識を有していることは、優秀さとして定義され辛くなってきており、今ではそれらの情報(知識)を用いて、どのように考えるか、どのような答えを導き出すかといった思考力が優秀さとされてきている。優秀さの定義も高度化してきているのである。
④グローバル競争
日本国内での成長が頭打ちとなり、企業は大小問わず、グローバル展開を視野に入れて事業を営んでいくことが求められてきている。この変化に伴って、労働市場における人材獲得の観点からみても、海外の企業と戦う必然性が増してきている。また前述の通り、少子高齢化の観点から言うと、海外の人材を受け入れることが求められているのも、今の日本の労働市場である。国籍、文化、習慣、宗教など、あらゆるバックボーンの異なる人材と仕事を共にし、成果を生み出すことが求められているわけである。
⑤労働価値・就業価値の変化
少子高齢化、IT産業の隆盛、グローバル競争、これらは誰の目から見ても明らかな変化であろう。しかしもう一つ日本国内で進んでいる大きな変化がある。それは労働価値・就業価値の変化である。特に若い人材の働くことに対する意識や認識は変化してきている。某人材情報サービスの調査によると、昇進・昇格や給与に対する欲求は数パーセントに留まっており、下方傾向にすらある。その反面、楽しく働きたいと考える若い人材は数十パーセントと増加傾向にあるのである。つまり、これまで人材マネジメントの常套手段として用いてきた昇進・昇格や、給与、インセンティブなどによるマネジメントが効かない状況になりつつあるのである。
日本国内においては、アメリカのようなドラスティックな人材マネジメントが行われている環境ではないにしても、このように労働市場は大きく変化してきている。このことから、人材の獲得、能力の伸長、流出防止を実現していくことが、これまで以上に難しくなってきているのが現状であり、タレントマネジメントに取り組む必然性になっていると言えるであろう。
代表取締役社長 兼 CEO 大野順也
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