NHK出版さまより、新刊の『Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学』を頂戴しました。ありがとうございます。というわけで、いつものように簡単にご紹介と感想を。
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副題に「アップルを生み出す熱狂的哲学」とあるように、本書はアップルをお手本にビジネスのヒントを学ぼうという一冊です。と書くと最近雨後の竹の子のように出版された「ジョブズ本」「アップル本」のn番煎じのように聞こえるかもしれませんが、著者のケン・シーガル氏は広告会社で長年にわたって故スティーブ・ジョブズ氏と共に働き、あの「Think Different」キャンペーンの企画にも携わった人物。またインテルやデルとも仕事をした経験があり、アップルのユニークさについて他の大企業との比較を交えながら説明してくれます。様々な商品やキャンペーンがどのように生まれてきたのか、当事者の視点からの解説を読めるというだけでも貴重な一冊でしょう。
シーガル氏の主張を一言で言い表しているのが、タイトルにもなっている「Think Simple」(シンプルに考えよ)という言葉。シンプルに考えよう、あるいは常識的に考えようというアドバイスが、様々な形で繰り返し登場します。そして「シンプル」がいかにアップルの、あるいはジョブズ氏の行動を規定する教義となっていて、そこからどれだけの価値が生み出されたのかが解説されるのですが、それだけであれば本書は「よくあるアップル本」の一冊で終わっていたことでしょう。
「シンプルに考える」という行動指針は文字通りシンプルで、その効果を疑う余地はありません。実際に本書でも、多くの企業がアップルの行動を真似て、同じような成功を収めたいと考えていることが述べられています。しかしそれを組織の内部に持ち込もうとしたとき、様々な拒否反応が起こり、「シンプルに考えさせない」無数の要因が浮上してくることについても本書は指摘してくれます。その罠にスティーブ・ジョブズ氏すらも囚われる場合があったことも。
そんな罠をアップルやジョブズ氏はどうやって乗り越えてきたのか。彼らの活動をごく近くで目にし、また別の企業も見てきたシーガル氏だからこそ書ける話が、本書には数多く盛り込まれています。もちろん彼らの行動がベストアンサーとは限らないですし、本書がカバーしきれていない状況も存在することでしょう。しかし「シンプルに考える」という哲学を、仮に一時期だけでも実現し成功できた組織の話が聞けるというのは、私たち自身が同じ哲学を実現する上で多くのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。その意味で、本書はまったく新しい経営理論や戦略を明らかにする本というよりも、簡単に思えるアドバイスから、実際に結果を出すことまでをサポートしてくれる実践書であると感じました。
余談ですが、本書は所々で「Think Different」キャンペーンを行った際のシーガル氏の思い出(?)が言及されていて興味深いです。スティーブ・ジョブズ氏のナレーションがどうやって収録されたのか、彼のナレーションがなぜ採用されなかったのか、そのあたりの話についてはぜひ本書をお読み下さい。
【○年前の今日の記事】
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■ たまには、ゆっくり歩こう (2007年5月20日)
近著『グーグル ネット覇者の真実』も話題を集めたスティーブン・レヴィ氏が、WIREDに非常に面白い記事を寄稿しています。邦訳もいずれどこかに掲載されるはず、というよりして欲しい内容:
■ Can an Algorithm Write a Better News Story Than a Human Reporter? (Wired)
「アルゴリズムは人間の記者より優れた記事を書けるか?」というタイトルなのですが、もちろん現時点でロボット記者のような存在が実現しているわけではありません。しかし現実は、私たちが想像しているよりもはるかに先へ進んでいることが語られています。
実際にどれほどの記事を自動生成できるまでに達しているのか。文中の例を引用してみましょう:
Friona fell 10-8 to Boys Ranch in five innings on Monday at Friona despite racking up seven hits and eight runs. Friona was led by a flawless day at the dish by Hunter Sundre, who went 2-2 against Boys Ranch pitching. Sundre singled in the third inning and tripled in the fourth inning … Friona piled up the steals, swiping eight bags in all …
今週月曜日にフライオナで開かれた5回制の試合で、フライオナは7つのヒットと8点を奪ったが、ボーイズ・ランチに10対8で敗れた。フライオナはハンター・サンダーが辛抱強いピッチングを行い、ボーイズ・ランチ相手に2対2と粘っていたが、3回に一塁打、4回に三塁打を浴びた……フライオナは盗塁を重ね、合計で8点を奪った……
一読すれば明らかですが、これは野球、それもリトルリーグの試合について報じたもの。野球に関する特有の表現も使われていて、非常に「それらしい」記事にまとまっています。ネイティブの人が読んだらまた違った印象を受けるのかもしれませんが、試合の様子を把握することは十分に可能であり、ここまで出来るならすぐにでも「ロボット記者」を雇いたいというローカルメディアもあるのではないでしょうか。
ではいったい、どのような技術でこれを実現したのか。記事ではNarrative Scienceという企業が紹介されているのですが、同社のキャッチフレーズは「データを物語と発見に変える(We Transform Data into Stories and Insight)」。つまり試合に関する様々なデータを収集、それを独自のアルゴリズムに投入することで記事を生成するわけですね。
マイケル・ルイスの『マネー・ボール』を引き合いに出すまでもなく、野球は様々なデータから計測・分析することが可能なスポーツです。どのようなデータを集めれば良いか、どう集めれば良いかについては既に確立された方式があり、それに従えばある程度まで試合全体をデータに置き換えることができます。実際に先ほどの記事は、試合を観戦していた親たちがiPhoneアプリ経由で入力したデータを基に生成されたものであるとのこと。しかも試合終了とほぼ同時に記事が出来上がっていたそうです。
というわけで、汎用的にどんな記事でも書いてしまうロボットができたわけではなく、あくまでも野球といった特定の状況で、あらかじめ与えられたデータを基に記事を生成するシステムができたという話。文章表現についても、本物のジャーナリストにお願いしてテンプレートを作ってもらったのだとか。しかし特化型のプログラムにせよ、十分なデータさえ得られる領域ならば、同じように記事を書かせることができる可能性があります。実際にこの技術は、他のスポーツやファイナンスといった分野への応用が進められているとのこと。
また仮に狭い範囲にしか応用できない技術であったとしても、それがもたらす可能性は大きいと言えるでしょう。例えばこのアプリを無料配布して、全米のリトルリーグやマイナーリーグで行われる無数の試合が記録できれば、「リトルリーグ・ニュースサイト」のようなものが低コストでできるかもしれません。データがベースになっているのなら、例えば「30年ぶりの珍プレー・好プレーが起きた」といったニュース性の高いネタを拾うのも簡単なはずです(過去の試合データが蓄積されていることが前提になりますが)。さらにある程度自動化できる分野はロボットに任せ、人間の記者はより社会性・重要性が大きなテーマを追うという役割分担もできるでしょう。
今年2月に米サンタクララで行われたビッグデータ系イベント"Strata 2012"の中で、「スポーツとAR」をテーマにしたセッションがありました。よくテレビのスポーツ番組で見られるような、実際のプレー映像と様々な統計データ・補足CGを合成するという技術を提供する企業・Sportvision社の関係者が登壇されたのですが、彼らが面白いことを言っていました。米メジャーリーグでよりAR的な手法を可能にするために、試合中のあらゆるデータを自動的に記録する(カメラやセンサ類などで)仕組みを開発、導入を進める計画なのだそうです。いろいろと政治的・感情的な理由もあって(映画版の『マネーボール』をご覧になった方なら想像がつくでしょう)、一筋縄ではいかないそうなのですが、実現すればスポーツジャーナリズムにとっても画期的な一歩となるでしょう。そこで収集されたデータを前述のようなアルゴリズムにインプットすれば、ゲームセットと同時にたちまち記事の一丁上がり、になるわけですから。
そしてビッグデータの取り組みが今後様々な分野で進められてゆけば、ロボット記者が活躍する領域も広がってゆくはずです。過去の統計データが参照できるような領域であれば、人間の記者が気付かなかった状況変化や、将来の状況変化の予兆を読み取って記事にするといったケースも生まれてくるかもしれません(何しろネット上の情報からインフルエンザの流行や将来の株価が把握できるぐらいですから)。もちろんそれがジャーナリズムの全てになり、人間の記者が一切いらなくなるという事態が起きる可能性は低いでしょう。しかし例えば、先ほどのような試合終了と同時の速報はロボットに任せ、人間は時間をかけて選手一人ひとりの心理描写を駆使した記事を書く――などというという補完関係を実現するマスメディアがいずれ登場してくるのではないでしょうか。
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【○年前の今日の記事】
■ エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山噴火で、マドリッドに1週間足止めされていた件 (2010年4月27日)
■ ITでローカル体験 (2006年4月27日)
2011年8月にイギリス各地で発生した暴動。暴徒たちは携帯電話とネットを駆使することで、烏合の衆であるにも関わらず迅速に行動することを可能にし、警察組織を圧倒しました。首都ロンドンで8月6日に投入された警官の数は3500人。しかし暴徒を抑え込むことがはできず、対処療法的にずるずると追加の警官が投入され、5日目の8月10日までにその数は1万6000人(当初の4倍以上!)に達しています。
仮に警察側も迅速に行動して、初日からある程度大量の警官を対応に当たらせていたらどうなっていたか。ロンドン大学の先端空間分析センターが、そんな仮定の下に分析を行ったそうです:
■ Model suggests earlier response could have shortened London riots (Wired.co.uk)
結論から言えば、やはり迅速な行動があればより早期に収束できただろうとのこと。初日から5~6000人を投入し、暴動が発生しそうな場所に配置することができれば、2日間程度で終わらせることができたのではないかというのが研究者たちの出した答えです。
突発的に発生し、刻々と状況が変わるような事態に対して、「よく考えてから結論を出そう」や「上層部にお伺いを立ててから行動しよう」などといった態度で臨むのではなく、こちらもリアルタイムな意思決定と行動を実現してゆくこと。それは何もロンドンの警察だけではなく、あらゆる企業や組織が肝に銘じなければならない基本原則であることが、本書『リアルタイム・マーケティング』最大のメッセージであると言えるでしょう。
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以前『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』という本をご紹介したことがありましたが、本書はその共著者であったデイヴィッド・ミーアマン・スコット氏の新刊となります。しかし今回は至って真面目に(いや、『グレイトフル・デッドに~』が不真面目だという意味ではないのですが)、マーケティングがリアルタイム化を強いられる時代の企業のあり方について検討している一冊。実は原著'Real-Time Marketing and PR'(2010年11月出版)を読んでいたのですが、そこからかなり加筆されていて、原著を読んだよという方でも新たに楽しめる内容となっています。
本書の冒頭にはユナイテッド航空の失敗事例が掲載されているのですが、彼らの姿は、まさに先ほどの暴徒鎮圧に出遅れたロンドン警察の姿とダブって見えることでしょう。ユナイテッド航空が最近犯したマーケティング上の失敗といえば……そう、かの有名な"United Breaks Guitars"の話です:
カナダのフォークバンド、Sons of MaxwellのシンガーソングライターであるDave Carrollさんが2009年7月6日に投稿した1本の映像。一通り見てもらえれば一目瞭然だと思いますが、ユナイテッド航空に大切なギターを壊されたにも関わらず、酷い対応しか受けられなかったことを歌にして訴えたわけですね。これが大ヒットして、掲載から3日で再生回数は20万回に到達。ユナイテッド航空のイメージが地に落ちることになったわけですが、ユナイテッドの幹部がDaveさんに謝罪したのは、ビデオの投稿から2か月以上経った9月14日のこと。これはもう、初期対応を誤ったというレベルの話ではありません。
実は"United Breaks Guitars"の事例には、リアルタイム対応を行うことで成功を収めた企業も存在していたことが本書で明らかにされています。例えば楽器用の丈夫なケースを製造・販売しているCalton Casesはこの騒動を聞きつけ、動画投稿のわずか12時間後にDaveさんに接触。「Dave Carroll仕様旅行用ギターケース」なるものを即座に開発して、知名度の向上と大きな売り上げを手にしました。さらにユナイテッド航空が壊したギターのメーカー、Taylor Guitarsも動画公開から24時間以内にその存在を察知、新品ギターの無償提供を申し出ています。
こういったリアルタイム対応が求められる事態は、ごく例外的で、めったに起きないものなのでしょうか?いや、ソーシャルメディアとモバイル機器が普及し、そして何よりそうした状況をフル活用できる個人が当たり前の存在になった現代では、リアルタイム対応の有無がその後の流れを大きく変えるという場面がいつ生まれてもおかしくないのです。僕自身、ちょうど2年前になりますが、こんな体験をしていました:
■ エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山噴火で、マドリッドに1週間足止めされていた件 (2010年4月27日)
覚えていらっしゃるでしょうか、2年前にアイスランドで起きた氷河(の下にあった火山)の噴火。その際に欧州上空に飛び散った火山灰により、旅客機の飛行が長期にわたって制限されるという事態が発生しました。何を隠そう、当時休暇で旅行中だった僕は家族と一緒に足止めをくらい、異国の地で日々刻々と変わる状況を把握しなければならなくなった次第。そんな中で頼りになったのは、同じように足止めをくらった旅行者が、ソーシャルメディア上でリアルタイムに共有していた情報です。彼らは火山噴火というまったく予想できなかった事態に直面しても、あっという間にアドホックなコミュニティをネット上に築き上げていたのでした。ちょうど『リアルタイム・マーケティング』の第9章で「大勢(クラウド)の力を借りて迅速に動く」というテーマが語られているのですが、僕がまさにスペインで経験したのは、大勢の一般旅行客が団結し、リアルタイムに動くという状況です。
その際に契約していた旅行保険会社から、「今回は特例で契約期間を自動延長する」と告げられた時の安堵といったらありません。もちろんそれだけで問題が解決するわけではないのですが、せめてもの救いというか、思いもよらない企業の迅速な行動に感動したものです。こんな時に官僚主義を排し、顧客目線でスピーディに動けるかどうかは、日ごろからの企業の体質に関係するものでしょう。
まさに本書の中心となるメッセージの1つがこの点であり、「大切なのはツールではなくその背後にある発想」という主張が何度か繰り返されています。もちろん本書は、様々なツール類や仕組みに関するアドバイスも掲載されており、「リアルタイム時代に向けて準備が整った」企業になるための参考書として使うことができます。しかしそうした戦術面に移る前に、まず変えなければならないのは、これから顧客にどう向き合ってゆくのかという根本的な姿勢でしょう。その点で本書は、発想を大きく切り替えるためのファーストステップとして重要な一冊になってくれると思います。
ところで本書の原著が出版されたのと時を同じくして、実は僕もこんな本を書いていたりします……
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よろしければ『リアルタイム・マーケティング』のお供に『なうの時代』もいかがでしょうか(笑)。何気にFacebookページ上でプロローグ~第1章を立ち読みできたりしますので。いや、1年半の時を経て、いまこそ「リアルタイム」をバズワードに!と意気込んでいる次第ですよ!
【○年前の今日の記事】
■ もう「数学なんてよく分かりません」では済まされないこと教えてくれる『数学で犯罪を解決する』 (2008年4月26日)
■ 「知識発掘人」の必要性 (2007年4月26日)
■ ITで島おこし (2006年4月26日)
ウェブサービスで起業する、というのは日本でも活発な動きになりつつありますが、エストニアでは国家がバックアップするベンチャー支援活動が行われていることを欧州版TechCrunchが報じています:
■ Estonian Accelerator Startup Wise Guys Announces First Startups (TechCrunch)
以前'The Internet of Elsewhere – The Emergent Effects of a Wired World'という本をご紹介したことがありましたが、何を隠そうエストニアといえばSkypeの生まれ故郷。小さいながらもICT技術の導入・発展に力が入れられており、オンライン閣議まで実現しているのだとか。上記記事で取り上げられているのは、エストニア政府やSkypeの元技術者の人々などが支援するStartup Wise Guysというベンチャー育成プログラムで、今回7つのチームを援助することが決定したそうです。
で、個人的に興味を引かれたのがこのサービス:
ウェザーという単語が含められている通り、WeatherMeは基本的には天気予報サービスとなります。では何がユニークなのか。実はあらかじめ設定しておいた地域で、設定しておいた条件の気象になることが予測されると、それをメールでアラートしてくれるという機能が設けられています。雨を事前にアラートしてくれるといったサービスは既に存在していますが、WeatherMeでは非常に細かい設定が可能になっています:
ご覧のように、風向きや風の強さ、角度、雨の強さといった条件設定が可能。またサービス解説を読むと、1キロメートル四方の精度で予報を管理しているとのこと。ということで非常に残念なのですが、明言はされていないものの、どうやら日本はサービス対象地域外のようです(まぁ当然ですよね)。実際にサービス対象の地域であれば、ご覧のように、過去の天候データも確認することができます:
なぜこんな細かい天候を確認できるサービスをつくったのか。実はTechCrunchの記事で、このように紹介されています:
Farmers today are not benefitting from farming science because it’s complicated. For example only 4% of farmers use some kind of an information system to determine what pesticide to use. They use guesstimates and research has shown that these decisions are not always optimal.
農家は農業科学の恩恵を受けられずにいる。それが非常に複雑なためだ。例えば使用する農薬の種類を決める際に、何らかの情報システムを利用している農家は全体の4%に過ぎない。多くの農家はカンに頼っているのだが、それが常に正解をもたらすものではないことが調査で明らかになっている。
そんな農家を支援するために、誰でも使えるウェブサービスを、という意図でつくられたのがWeatherMeとのこと。であればこれだけ細かい条件が指定できるのも納得です。また彼らは農家が簡単に使用できる作物管理システムも開発する予定とのこと。ビジネスモデルは確認できませんでしたが、仮に多くの農家が使用するサービスにできれば、農家からインプットされてくるデータを利用してより精度の高い天候/収穫高予測システムを構築することができるでしょう。それを有料サービスにつなげたり、あるいは農作物を買いたいという企業と農家をつなぐサービスなども考えられるかもしれません。
いま東京では、若いスタートアップ企業や起業家を志望する人々が集まり、韓国や台湾の起業家と交流しようといった動きが始まっています。WeatherMeの事例からも分かるように、たとえ遠く離れた国の事例であっても、自分たちの事業に参考になる知見が得られる状況が到来していると言えるでしょう。その意味で、シリコンバレーだけでなく、様々な地域のニュースにアンテナを張っておくことが思いがけない情報に出会うきっかけとなるのではないでしょうか。
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【○年前の今日の記事】
■ 日本語版から Twitter を始めた方に教えたい、3つのアドバイス (2008年4月24日)
■ イヌとキリンが棲む場所は (2007年4月24日)
■ CGM -- コンシューマー・ジェネレーテッド・マニュアル (2006年4月24日)
東日本大震災後の日本に代表されるように、世界各地で災害時におけるソーシャルメディア活用に注目が集まっている。災害の発生をいち早く伝える、被災者の安否を確認する、復旧・復興に関する情報を共有するなどその可能性は幅広く、米連邦緊急事態管理庁(FEMA)や米赤十字社などソーシャルメディア活用に乗り出している公的機関も多い。しかしデマや勘違いの拡散、風評被害の悪化など、信頼性の面では弱みを抱えているのが現状だ。
こうした弱点を克服するための様々なアイデアが登場しているが、オランダで開発されたTwitcidentは、機械的な分析によってTwitterの信頼性を高めようという試みだ。災害の発生を確認すると、TwitcidentはTwitterの検索を開始し、その災害に関連するツイートを収集する。そして独自のアルゴリズムで各ツイートの信頼性と情報的価値を評価、ランク付けを行うことで、有益な情報だけをユーザーに提供する。人間が直接Twitterを検索してツイートを拾い集めるよりも、遙かに多くの情報をリアルタイムで得ることができるわけだ。
現在はベータ版の開発が行われている最中だが、YouTube上でデモ映像が公開されている。これを見ると、まずはTwitcidentで追跡中の災害が一覧表示され、そこから詳細を確認したいものを選ぶという形式になるようだ。災害を選択すると、Twitcidentが収集した関連ツイートが表示される。そこで数種類のフィルターが用意されており、ツイートの種類、発信者の種類、語られているトピック(被災状況や被害者の有無など)といった条件で絞り込みが可能だ。また統計データやグラフの表示も可能で、ツイートを総合的に分析したり、時間の推移による状況変化を俯瞰したりといったこともできるようになっている。
Twitcidentを開発したのはオランダ・デルフト工科大学の研究者らで、過去10ヶ月間、オランダの警察や消防局などと協力して実証実験を行ってきた。そこで十分な経験が得られたとのことで、ベータ版を一般公開することが計画されており、公式サイト上でメールアドレスを登録しておけば公開時に通知を受けることができる。
ソーシャルメディア上の情報を機械的に分析して、書かれている内容や全体的な傾向を把握するという発想は珍しいものではない。実際に、Twitterから病気の流行状況や将来の株価を割り出すといった試みが既に行われている。しかし災害という深刻な状況においては、まだ人間の目で情報の取捨選択を行うという方が一般的だ。Twitcidentがどこまで正確に信頼性を判断し、人間の役割を代替できるのかは、今後の災害時におけるソーシャルメディア活用のあり方を左右することになるだろう。十分な成果を出すことができれば、ソーシャルメディア自体の価値も大きく向上するに違いない。
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【○年前の今日の記事】
■ 不祥事の時こそ、ネット活用を (2009年4月19日)
■ 本が次世代メディアだった時代 (2008年4月19日)
■ ちょっと待って、新人教育 (2007年4月19日)
■ 「エンゼルメイク」という発想 (2006年4月19日)
不況下でも衰えを知らない業界にはいくつかあるが、オンラインデート業界もその1つだろう。リサーチ会社のMarketdata Enterpriseは、米国における同業界が年平均7.2%で成長を続け、2015年までに17.6億ドルに達するだろうと予測している。またスタンフォード大学の研究によれば、米国でネットを通じて知り合ったカップルの割合は2009年時点で2割を超えており、同性のカップルに限定すれば6割を超えているそうだ。オンラインの出会いは既に、1つの市場を築いているのである。
しかしこの市場は参入障壁が低く、参加企業は過酷な競争を強いられており、それだけに新たなアイデアが生まれる場所となっている。大手企業の1つMatch.comを例に挙げると、同社はサービスを通じて蓄積された膨大な行動データを基に、「シナプス」という独自のアルゴリズムを開発。ユーザー自身ですら意識していない恋人選びの条件を把握して、隠れた理想の相手を紹介するという取り組みを行っている。
このようなデータ解析系のアプローチに加え、最近登場しているのが他のソーシャルメディア、中でもFacebookを活用するというアプローチだ。例えばFacebookアプリとして提供されているCircl.esは、アカウントを流用することで、新たな登録手続きの手間を省いている。またFacebook上に登録済みのプロフィール(年齢や所在地など)をベースにすることで、相性の良い候補が選ばれると共に、出会うユーザーが偽の情報を登録しているリスクが軽減される。さらに面白いのは、Facebook上の知り合いが恋人候補として表示されることを防ぐという機能だろう。つまり「デートサイトを利用している」という、非常にデリケートな情報が知り合いに伝わってしまうことを心配する必要がないのだ(こうしたソーシャルグラフの逆利用を行ってくれるサービスとして、同じくFacebookアカウントと連動させて使用するデートアプリMeexoがある)。
Facebookアプリで提供されているデートサービスとして、もうひとつYokeが挙げられる。YokeもFacebook上の情報(いいね!を押したコンテンツや聞いている音楽などが含まれる)を分析して恋人候補を挙げてくれるのだが、ユニークなのは、友達登録しているユーザーの友達から選択されるという点だ。まったくの赤の他人が選ばれるのではない、という点にはもちろん理由がある。友達の友達であれば、プロフィールに偽情報を登録しているユーザーが候補に挙がるリスクはさらに下がるだろう。さらに候補紹介の画面には「共通の友達に聞く」というボタンが設けられており、相手に声をかける前に、友達から評判を聞くこともできる。誰にも知られたくない秘密の関係を探すのでもない限り、Yokeのアプローチは利にかなっている。
実際に人間関係のネットワークを研究した各種調査によれば、恋人を探す際には「友人の友人」などといった「弱い絆」が威力を発揮するという結果が出ている(いわゆる合コンなどもこの範疇に入る場合が多いだろう)。Yokeにはソフトバンクキャピタルを始めとしたベンチャーキャピタルも出資しており、FacebookなどのSNS(正確に言えばその上に築かれた人間関係)を利用するというアプローチは、今後さらに注目が集まると予想される。
では今後、Facebookアプリがデートサービスの主流になるのだろうか?話はそう簡単ではないだろう。最大の理由は、いくらFacebookが実名と顔写真を要求しているとはいえ(さらにその運用がどこまで正確に行われているのかという問題を脇に置くとして)、オンラインとオフラインの間には依然としてギャップがあるという点だ。Facebookにおいても、オンライン上だけの知り合いでも友達として登録するという、Twitter的な利用を行っているユーザーが少なくない。その場合、当然ながらあまりよく知らない友達の友達が紹介されることになる。仮に自分がリアルな知り合いとだけつながっていたとしても、その友達が無差別に友達リクエストを送っているような場合には、やはり関係性の薄い人物が候補に並ぶことになる。
また「いいね!」などの行動は、そもそも恋人選びのインプットとして行っているわけではない。Match.comなどの独立したサービスを利用するのであれば、自分の心に正直に趣味嗜好を入力できるだろう。しかしソーシャルメディア上で、果たしてどれだけの人々が自分の本心を打ち明けているだろうか?本当は好きなアイドルの記事をリンクしたくても、他人の目を気にして、社会問題の記事ばかりに「いいね!」していたとしても不思議ではない。従ってソーシャルメディア上の情報を活用するという方法では、理想とは程遠い候補が提案されてしまうリスクがある。
Facebookのソーシャルグラフを活用するというのは優れたアイデアであったとしても、それだけに頼ることは現時点では限界があるだろう。もちろんこれから先、オンラインとオフラインの行動を一致させるような文化が定着する可能性もある。しかし当面の間は、前述のようなギャップをどこまで埋められるか、各社のさらなる工夫が求められてゆくのではないだろうか。そしてこうした工夫は、オンラインデートの世界だけではなく、「信頼できるベビーシッターを探す」「何らかの専門的スキルを持った人を探す」など、様々なマッチング系サービスにも流用できるノウハウを提供することになるだろう。
ソーシャルゲームで大きな成功を収め、急成長を続けるスタートアップ企業のZynga。そのZyngaのCEOであるMark Pincusが、Businessweekの取材に対してこんな言葉を述べています:
■ How to Fail: Mark Pincus (Businessweek)
I think failing is the best way to keep you grounded, curious, and humble. Success is dangerous because often you don’t understand why you succeeded. You almost always know why you’ve failed. You have a lot of time to think about it.
地に足をつけ、好奇心と謙虚な姿勢を保ち続ける上で、失敗は最良の手段だと思います。その一方で、成功してもそれが何故か分かることは少ないですから、成功は危険な存在です。失敗の場合には、たいていその理由を掴むことができます。なぜ失敗したのか、時間をかけて考えることができるのです。
日本では肯定的に受け止められることの少ない「失敗」という体験ですが、Pincusの言葉が端的に示しているように、実は成功以上に私たちに多くの教訓をもたらしてくれるものです。あるいはエジソンが言ったとされる言葉、「失敗したのではなく、一万通りのうまくいかない方法を発見したのだ」のように、失敗こそが成功につながる道とも言えるでしょう。
実は昨年から、この「失敗する」、もっと正確に言えば「実験から得られたフィードバックを学びにつなげる」というテーマに関連した本が何冊か出版されています。いずれも優れたアドバイスを提供してくれるものなのですが、今回ご紹介する2冊はその中でも特に有益なものでしょう。ゴールデンウィークも控えていますし、ぜひ一緒に読んで欲しい2冊です。
![]() | リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす エリック・リース 伊藤 穣一(MITメディアラボ所長) 日経BP社 2012-04-16 売り上げランキング : 6 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
まずはこちらの『リーン・スタートアップ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』。リーン・スタートアップとは、簡単に言えば「スタートアップ企業向けの新たな経営体系」といったところ。前例のないアイデアや技術を軌道に乗せようとした場合、従来の経営理論では実態にそぐわない状況が数多く発生し、逆効果になってしまう可能性も否定できません。リーン・スタートアップは新たな視点からスタートアップ企業の経営を捉えなおしたもので、新規事業を手がける企業内組織・非営利団体などにも参考になる内容となっています。
先ほど「経営体系」と表現したように、リーン・スタートアップは1つのテクニックやアプローチではなく、組織論や社内文化といったテーマも含まれています。従って本書にも様々なアドバイスが登場するのですが、個人的には先ほど述べた通り、「実験によるフィードバックを繰り返すことで成長を実現する」という発想が中心となる価値の1つではないかと感じています。
その象徴とも言えるのが、「MVP」という概念でしょう。これは「実用最小限の製品(Minimum Viable Product)」の略で、実験(一連の仮説検証サイクル)を実施するのに必要な機能を持つ製品/サービスのことです。スタートアップはこのMVPを中心に開発を行うべきであると主張されるのですが、傍から見れば、これまでも「ベータ版」や「50%ルール」といった言葉で行われてきたアプローチと大差ないと感じられるかもしれません。しかしいわゆる「ベータ」が「(本当はもっと機能を充実させたいのだけれど)できるところまで作って反応を見るための製品」であるのに対し、MVPは「最初からここまでしか作らないと決めた上で開発される製品」であるという違いがあります。その意味でMVPはベータ版ではなく、与えられた仮設を検証するという点で十分に完成した製品なわけですね。
なぜMVPを開発しなければならないのか――その答えこそが、冒頭のPincusの言葉とも関係してくる部分です。成功するためには失敗しなければならないのだとすれば、失敗を前提に行動するしかありません。であれば、膨大な時間と労力をかけて完成品をつくり、「大失敗しませんように」と祈りながら市場に投入するよりも、最初から失敗してフィードバックを得ることを目的にした方が合理的なのは明白。そこで知りたい答えを明確にした上で、それを確認するのに必要最小限の機能を持つ製品(従って開発にかかるコストも最小化されます)をつくり、最終的な成功ではなくそこに至る過程の方を「正しい方向に進んでいるか否か」の判断材料にするというのが背景にある思想です。
このように『リーン・スタートアップ』では、ある行動が儲けを出しているのかどうかより、最終的な成功や成長につながるフィードバックを生み出しているかどうかの方に主眼が置かれ、後者を確実に把握・推進するための理論が展開されます。従来の経営手法に染まった頭で読むと、違和感を覚える部分も多々あるでしょう。しかしこの「失敗から学ぶ」という大前提さえ覚えておけば、リーン・スタートアップがいかに優れた手法であるかが理解できると思います。
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そして2冊目が、『小さく賭けろ!―世界を変えた人と組織の成功の秘密』。こちらは以前ご紹介した本"Little Bets"の邦訳となります。
『リーン・スタートアップ』が経営学の体裁に近い本だとすれば、『小さく賭けろ!』は読み物として整えられており、より多くの人々にとって取っつきやすい一冊と言えるでしょう。従って順番としては、『小さく賭けろ!』から読む方が馴染みやすいかもしれません。
以前の書評でも書いたとおり、本書はLittle Bets、つまり「小さな賭け」を積み重ねることで新たな発想を成功させることができるという発想がテーマ。とことん作り込んだ最終製品のように、いきなり「大きな賭け」をぶち上げる(そして玉砕する)のではなく、小さな賭けで「何が上手く行くか」「問題の本質は何なのか」を把握しつつ、最終的な目標に向けて一歩一歩実績を積み重ねて行くこと。それこそが過去の経験を活かすことができない環境において、新しい道を切り開くための、より着実なアプローチであることが解説されています。
『リーン・スタートアップ』は基本的に経営書なので、登場する事例も企業が中心ですが、『小さく賭けろ!』の事例は実に様々。なにしろ冒頭から、コメディアンのクリス・ロックが登場するぐらいですから。さらにイラクに駐留した米国軍人や、グラミン銀行など、幅広い分野から「小さな賭け」の有効性が語られます。『リーン・スタートアップ』を読んだ後であれば、この手法が企業以外の世界でも使えるものではないか、という可能性の広がりを感じられることでしょう。
変化の時代と言われて久しいですが、新しい何かへのチャレンジを求められた際に、その道しるべになってくれるものはまだまだ多くありません。今回ご紹介した2冊は多くの人々にとって、貴重なアドバイスを提供してくれるものになると思います。
【○年前の今日の記事】
■ 震災が「言論空間としてのソーシャルメディア」を成熟させる (2011年4月13日)
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ソーシャルメディアの登場により、ごく普通の人でも大きな影響力を持つという状況が珍しいものではなくなりました。企業にとっても彼らは無視できない存在ですが、「誰がどんな影響力を、どこまで持っているのか」という点は必ずしも明確ではありません。そこで各種ソーシャルメディア上の活動を分析し、影響力を数値で示そうという「ソーシャルスコアリング」の発想が生まれており、KloutやPeerIndexといった具体的なサービスが定着しつつあるのはご存知の通り。そしてこの分野でアジャイルメディア・ネットワーク(AMN)が新たにリリースしたサービスが「User Chart」(ユーザーチャート)です。
ちなみに同社からのプレスリリースがこちら:
■ AMN、5つのソーシャルメディアを横断し影響力を測定する「ユーザーチャート」をリリース~影響力のランキングとユーザー毎に関心ある「話題」や「企業ブランド」を可視化~
User Chartを使うには、まずTwitterもしくはFacebookのアカウントを登録する必要があります。登録して先へ進むと、そのアカウントが独自のアルゴリズムで分析され、影響力が数値化されて表示されます。さらにTwitter、Facebook、mixi、Google+、ブログの計5種類のサービスを連動させることができ、個々のサービスでの影響力を数値化すると同時に、5つのサービスから総合的に判断した「トータルレベル」を確認することも可能。さらに「よく言及しているキーワード」および「よく言及しているブランド」のそれぞれ上位5つまでを表示する機能が備えられています。
例えば僕のTwitterおよびFacebookアカウントのスコアは、それぞれ48と37。これにブログ(スコア62)を含めたトータルレベルは69という結果が出ました。またよく言及しているキーワードとして「データ」と「ビッグ」が(僕が最近ビッグデータ系のネタを追いかけていることの反映ですね)、よく言及しているブランドとして「日本経済新聞」が上位に表示されました(これは情報源としてよく日経を参照しているだけであり、言及しているブランドという表現からは若干ずれる結果です)。
これだけではただの数字ですが、User Chartではトータルレベル、および各サービスにおけるスコアの上位5名のランキングを見ることが可能で、ある程度他人との比較ができるようになっています(ちなみに現時点でトータルレベルの1位はAppBank氏、Twitterの1位はBill Gates氏、Facebookの1位は坂田誠氏といった結果)。またTwitterアカウントを条件にした検索しかできませんが、他ユーザーを指定してスコアを確認することも可能です。
米国ではKloutは一定の評価を得ていて、企業がマーケティングに活用している例も珍しくありません。例えばAudiは2011年、Audi A8のプロモーションイベントを開催し、Kloutの「テクノロジー」トピックと「ラグジュアリー」トピックで影響力を持つ人々(Kloutではユーザーがどのようなトピックで影響力を持つかを確認することも可能)を招待することでクチコミを誘発するという試みを行っています。日本ではまだそれほどの認知を得ていないKlout、あるいはソーシャルスコアリングという発想ですが、はたしてUser Chartは「和製Klout」としての地位を確立することができるのでしょうか?
仮に何らかのスコアリングが受け入れられるか否か、「スコアそのものの精度×スコアに対する信頼性」という式で考えられるとしましょう。まず信頼性という点では、AMNは日本のブログおよびソーシャルメディアの進展に際して一定の役割を果たしてきており、同社の実施するUser Chartにもある程度の信頼が寄せられる可能性があると考えられます。
一方で精度については、それほど楽観視できないのではないでしょうか。フォロワー数や「いいね!」の数を単純にカウントするだけであれば話は楽ですが、Kloutでいうところの「トピック」毎の影響力まで把握しようとすれば、日本語のテキスト分析にまで踏み込まざるを得ないでしょう。そして先ほどの「よく言及している」機能で見られたように、日本語の文章を正確に把握して分析結果に落とし込むのは簡単な作業ではありません。実は本家Kloutですらも、ロンドンにあるビッグベンを擬人化したアカウント「@big_ben_clock」が「ドラッグ」のトピックで影響力を持つ、と分析するミスを犯していたことが最近話題になりました。
また信頼される指標になればなるほど、それを不正に操作しようというインセンティブが高まることになります。ページランクという指標に対して、SEOというテクニックがどこまで進化してきたかを考えれば、ソーシャルスコアリングに対しても同じようなテクニックが追求されても不思議ではないでしょう。実際にKloutでは意図的にスコアを上げようとする人々や企業が現れており、不正なユーザーを追放するためにアルゴリズムが調整される、という「イタチごっこ」が始まっています。AMNにもアルゴリズムの進化を追求し続けるという覚悟が必要になるのではないでしょうか。
さらに問題なのは、こうしたアルゴリズム調整が、必ずしも「スパム業者の撲滅」と捉えられて歓迎されるとは限らないという点です。2011年後半、Kloutは精度向上のために大幅なアルゴリズム改訂を行ったのですが、その際にスコアが落ちたユーザーから一斉に反発の声が上がるという騒動が起きています。アルゴリズムを公開して釈明することができない以上、こうした誤解や感情論による批判・非難が発生するリスクをゼロにすることはできません。この点でも、AMNにはユーザーとの関係を地道に築いてゆくという覚悟が必要になるでしょう。
とはいえUser Chartの取り組みは始まったばかり。まずはこうしたスコアリングの必要性と重要性を啓蒙し、発想自体の認知を図るところからのスタートとなります。個人的には、AMNに「ソーシャルメディア時代に影響力をどう捉えるか」という大きな視点からもどんどん意見を発信していって欲しいと感じています。
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【○年前の今日の記事】
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ソフトバンククリエイティブさまより、高広伯彦氏の『次世代コミュニケーションプランニング』をいただきました。ありがとうございます。というわけで、いつものようご紹介と感想を少し。
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ビジネス書(という括りで本書を語るのは適切ではないかもしれませんが)の書き方には、ある目標を達成するための「テクニック」を中心に展開する方法と、そのテクニックの背景にある「思想」を論考するという方法の2通りがあると思います。もちろんどちらが上か下かということはなく、テクニックを正しく使うためには思想を理解していなければなりませんし、思想を実現するためにはテクニックがなければなりません。従って両者をバランス良く摂取することが望ましいでしょう。
しかし最近のビジネス書、特にソーシャルメディアとマーケティングをテーマにした本については、テクニック論に重きを置くものが少なくありません。前述の通り、それも大切な要素ではあるのですが、例えば「なぜTwitterのフォロワーを増やすのか」という前提を理解していなければ、フォロワーを増やすテクニックはまったく無意味なものになってしまいます(時には害悪にすらなる場合も)。環境が急速に変化し、新たな方向性が模索されているような時代においては、思想という土台を無視してテクニックに終始するのはなおさら危険なことです。
本書『次世代コミュニケーションプランニング』は、その「思想」の面に重きを置いた本と言えると思います。本書のオビには「生き残りたい広告・PR人のための新しいプランニング思考法」とあり、思想本であることは明示されているものの、ありていのマーケティング本だと思って手に取ると良い意味で裏切られるでしょう。もちろん本書にもテクニック面での解説があり、例えばクチコミマーケティングの公式「(シカケ)×(シクミ)」や、第5章にあるコンテクストプランニングのフレームワークなどは、非常に実践的なノウハウです。また高広氏が自身の経験を事例として解説している部分も、実践という点で大いに参考になります。しかし本書の最大の価値は、文字通り次世代のアプローチを考える際の土台となる、様々な思想を与えてくれることではないでしょうか。
高広氏は「はじめに」で、本書が「わざと非常にペダンティック(衒学的)に書かれている」と前置きしていますが、その言葉の通り多種多様な「難しい話」が登場します。マクルーハン、セルトー、ルフェーブル、ヴァネバー・ブッシュ……そしてアンリ・デュシャンまで。しかしそれらは、当然ながら無意味に引き合いに出されるわけではなく、読者の思考をあえて引き延ばすように配置されています。僕自身、それらを一読で理解できたわけではなく、何度か読み返して言いたいことが理解出来るという部分がありました(多分まだ理解し切れていない部分も多いでしょう)。しかしそれは楽しい回り道であり、決して無駄な冗長性などではありません。
テクニック本は「使用方法」が決まっているので、読んだ直後から行動に移すことができます(たとえそのテクニックが生まれた思想を理解していなかったとしても)。翻って思想本は、現場でのアクションに移す前に、もう一段階の試行錯誤を繰り返さなければなりません。その作業は決して簡単ではありませんが、それだけに自由度が高く、あれこれワクワクしながら創造力をふくらませることができるはずです。その意味で本書は、読み終えた後に「さて、ここからどんな新しいことを始めてやろうか」というワクワクが止まらなくなる一冊であることを保証しておきたいと思います。
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■ 「情報弱者救済法案」国会に提出 (2009年4月1日)
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朝日新聞出版さまより、平和博さんの『朝日新聞記者のネット情報活用術』をいただきました。ありがとうございます。というわけで、いつものように簡単にご紹介と感想を。
本書のもととなったのは、雑誌『ジャーナリズム』に掲載された連載「新人記者のためのネット取材講座」。文字通り記者として仕事をするにあたり、ネットとどのように付き合い、活用してゆくかを解説する内容でした。本書はその内容に加筆し、新聞記者だけでなく一般の社会人にとっても参考になる形で、仕事でネットを活用する上でのアドバイスがまとめられています。
あくまでも一般の人々に向けた解説という視点で書かれていますので、Googleでの検索の仕方やクラウドの概念などなど、ITmedia読者の方々にとっては初歩的過ぎると感じる部分も多いかもしれません。しかし「新人記者のための」あるいは「社会人のための」という方向性が加わることで、本書は単なる入門書に留まらない内容となっています。
例えば初歩の初歩であるGoogle検索。普通なら複数キーワードを使う、「-(マイナス)」を使うなどといった程度の解説で終わりでしょう。しかし本書で「複数キーワードで絞り込む」の次に解説されるのは、「site:」を使ったサイト内検索。例えば「go.jp」を指定することで、あるテーマについて政府がどう動いているのかを調べるといったアイデアが紹介されています。このように、Googleの使い方にいきなり「site:」で情報源を絞り込むという発想が登場するという点が、本書の性質をよく表しているのではないでしょうか。
また本書は実用書であると同時に、ネット時代の情報とは何か、自ら情報を収集・発信する意味とは何かを考える内容となっています。最近のメディアをめぐる重要な出来事、例えば昨年の「アラブの春」におけるソーシャルメディア活用や、ビン・ラディン急襲がライブツイートされた事件、そして東日本大震災をめぐる状況などにも言及されており、改めて私たちとメディアとの関係が変わりつつあることを実感できるでしょう。その中で、平さんが記者という立場で何を考え、情報の収集・確認(裏取り)・発信といった一連の作業で何を重視しているのかを知ることができる本書は、無味乾燥な解説書よりもずっと参考になることでしょう。
平さんは朝日新聞のサイト「アスパラクラブ」で「ネットはいま++」というブログを書かれています。本書の内容とも深く関わる記事が掲載されていますので、本書に興味のある方、読み終えた方は是非こちらもどうぞ。個人的には『最近新聞紙学』を非常に読みたくなってしまったのですが、どこかで再版されないかなぁ……。
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