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離陸するドローン・エコシステム

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米ラスベガスで今月9日まで開催された、世界最大の家電見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。今年も様々な新製品・コンセプトが発表されたが、中でも注目されたカテゴリーのひとつがドローン(小型の無人飛行機)だ。自律性能を高めたもの、手のひらサイズに小型化したものなどが登場し、いまやドローンは単なるラジコン飛行機の範疇を超え、「空飛ぶロボット」としての地位を確立しつつある。

ウォール・ストリート・ジャーナル誌も、CES2015で必見のドローンとして6つを掲げている:

CESで必見のドローン6種(WSJ)

米ラスベガスで開催中の家電市「2015コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」で注目のドローン(無人飛行機)6種を紹介する。ドローンの安全性向上を目指す最新テクノロジーはパラシュートや障害物回避技術などだ。米家電協会(CEA)の調査によると、商用ドローンの市場規模は2015年に前年比55%増の1億3000万ドル(約155億円)に達する見込み。

この記事で面白いのは、「必見のドローン6種」というタイトルが付けられている一方で、6つのうち4つはドローンの周辺技術に関する言及が含まれている点だ。念のためリンクしておくと、

  1. ドローンが何かに衝突し、墜落しそうになった時のためのパラシュート(着脱と再利用が可能)を備えた「Hubsan X4 Pro
  2. 大半のドローン製品に装着可能な障害物回避システム「SkySpecs
  3. Skysenseが開発した、ドローンが着陸するだけで充電が始まるマット型充電器
  4. プロ仕様の4Kカメラを搭載したドローン「Inspire 1」のカメラ部分が着脱可能に

の4つである。もちろんドローン本体でも小型化・高性能化が進んでいるわけだが、こうした周辺機器の進化はいわゆる「エコシステム」を形成し、ドローンの用途や可能性をさらに広げることになるだろう。

これまでもDJIのドローン「Phantom」にGoProのアクションカムが搭載されることで、ドローンを空撮に使う可能性が大きく広がるといった状況が起きていた。ためしにYouTube上で「Phantom GoPro」と検索してみれば、美しい空撮映像を山のように見つけることができる。中にはデモの様子を撮影したもの、自然界での生き物の姿を捉えたものなど、ジャーナリズムに資する映像も多く、最近では「ドローン・ジャーナリズム」という言葉まで出てきたことをご存知の方も多いはずだ。

またオープンソースOSのLinuxで有名なLinux Foundationは、昨年10月、既存のドローン関連プロジェクトを統合し、オープンソースのドローン・プラットフォーム構築を目指す「Dronecode Project」を立ち上げた。Make:Japanの記事によれば、たとえば次のような技術の確立が目指されている:

このプログラムの名前はDronecode。Linuxコミュニティの隅々までドローンソフトウェアを浸透させようという狙いだ。今日、ドイツのデュッセルドルフで開かれているEmbedded Linux Conferenceで、3D RoboticsのCEO、Chris Andersonが行った発表によれば、大規模なドローンの活用を目指しているという。それには、3DRがスポンサーとなっているAPM(コプター、飛行機、車両に内蔵されたコントローラーのための自動航行ソフトウェア)、MissionPlanner、DroidPlanner(ノートパソコン/Androidベースの飛行経路管理)、そしてMavLink(飛行情報の通信)が含まれる。また、3D RoboticsのPixhawkフライトコントローラーに採用される最先端の自動飛行技術、PX4 projectも視野に入れている。

こうしたオープンソース化や標準の整備が進むことで、本体や周辺機器・ソフトウェアの開発への参入が一層容易になると考えられる。そうなればさらに新しいアイデアや異業種の知識が流れ込み、イノベーションが起きやすくなるだろう。

今からおよそ1年前の2013年12月、アマゾンがドローンを使った配送サービス「Prime Air」を早ければ2015年内に開始すると発表した時、多くの反応は否定的なものだった。もちろん法制度上の問題のように、企業の力だけではどうしようもない要因を否定の理由として挙げる人も少なくなかったが、技術的な可能性を疑う声が大きかったのである。しかし急速なエコシステムの発展は、アマゾンの予測の実現を大きく後押ししている。たとえばWSJの記事で紹介されていたような、着陸するだけで充電可能な充電パッドなどは些細なように見えて、大規模なドローン運用を行う上で欠かせない技術になる可能性がある。パラシュートの装備も、万が一墜落した際に第3者への被害を最小限にするという点で、「ドローン配送」のリスクやコストを大きく削減するものになるかもしれない。

なにより新たな技術が定着する上で、エコシステムの形成が必要なことは言うまでもない。エジソンの白熱電球はもちろん素晴らしい発明だが、彼の偉大さはそれを支える周辺技術(電力の供給システムなど)までデザインしたことにあると言われる。その結果、電球とそれに付随するシステムの普及が急速に進んだわけだ。最近で言えば、iPhoneとアプリ、アップストアの関係などが思い出されるところだろう。もしかしたらドローンにも、機体やOSはオープンソースで、アプリをダウンロードして様々な機能を追加するといった未来が到来するかもしれない。それも予想よりずっと早いタイミングで。

ドローンに限った話ではないが、今後どこまで、どの程度の速さで普及が進むかを見極めるためには、離陸を始めたドローンのエコシステムにまで目を向けることが欠かせない。

参考までに、ドローン用の映像認識システムを開発しているSkyTrailsがまとめたドローン・エコシステムの全体像を引用しておこう。

SkyTrails Presents - The Civilian Drone Landscape - Summer 2014 by SkyTrails

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