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【書評】「誰も僕のことを理解してくれない!」な時に読む一冊"No One Understands You and What to Do About It"

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生きていればいろいろあるじゃない、人間だもの。ということで、「なんで僕が/私がこんな評価を受けなくちゃいけないんだ!誰も分かっちゃくれない!」と憤慨するのは万国共通の悩みのようで、"No One Understands You and What to Do About It"(誰にも理解されない時、それにどう対応するか)という本が出ています。

No One Understands You and What to Do About It No One Understands You and What to Do About It
Heidi Halvorson

Harvard Business Review Press 2015-03-24
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著者は社会心理学者のハイディ・グラント・ハルバーソン。コロンビア大学ビジネススクールのモチベーションサイエンスセンター副所長も務めています。ちなみに"Succeed"という前著もあり、こちらは『やってのける ~意志力を使わずに自分を動かす~』というタイトルで邦訳されています。

「会社での評価が納得できない」という比較的重いシチュエーションでなくても、なぜ怒らせてしまったんだろう、どうして真意を理解してくれなかったんだろうといった悩みは、割と頻繁に起きるものではないでしょうか。普通は「理解してくれない相手が悪い!」で流してしまいがちなこの悩みを、心理学の観点から傾向と対策を教えてくれる本、それが本書です。

心理学の「認知バイアス」や、ダニエル・カーネマンの「速い思考と遅い思考」といった概念が市民権を得るようになりましたが、これらが象徴するように、人間の思考は決して合理的なものではありません。生物としての人間を見た場合、脳は身体の中で最もエネルギーを消費する器官。そこで脳を効率的に使うことが優先され、いったん物の見方を決めたらそれが正しいという前提で行動したり、それに反するような情報は無視したりしてしまう(こうすれば最小のエネルギーで最速の判断ができる)わけですね。確かに人類の祖先がサバンナで生存競争していた時代であれば、それで十分だったのでしょうが、進化がゆっくりとしか進まないために(あるいは人間の文化が急速に発達してしまったために)、現代社会では様々な弊害が生まれることになりました。本書のテーマである対人理解の問題もそのひとつで、人を見かけやステレオタイプで判断する、第一印象をなかなか覆そうとしないといった形で現れているわけです。

また問題は評価される側、すなわち自分の方にもあると本書は指摘します。たとえば心理学には「透明性の錯覚」と呼ばれる概念があることが紹介されているのですが、これは自分の感情や思考を、相手が十分に理解してくれるだろうと思い込んでしまう傾向のこと。こんなに悩んだ顔をしているのに、なんで明るく接してくるの!とイライラした経験があったら、この錯覚に陥っていないかチェックする必要があるかもしれません。実は思った以上に、人間の発信するシグナルは相手に伝わらないことが証明されているのだとか。自分と相手が第3者を評価した結果を比べるのではなく、「自分による自分の評価」と「相手による自分の評価」を比べるわけですから、そこには差があって当然なのですが、なんでこんなに理解しないんだ……と感じてしまう(しかもその錯覚に気づかない)わけですね。

つまり自分が正しく評価されるためには、(1)評価に必要な情報をすべて表に出す、(2)その情報が評価に関連づけられるような形にする、という自分の側の作業と、(3)評価者がそれに注意を向け、情報を入手する、(4)得た情報を正しく使って評価する、という相手の側の作業が必要になります。これだけの作業が必要であれば、正しく理解される方が奇跡だと言えるかもしれません。

ただ逆に考えれば、これだけのステップがあるのだからこそ、より正しく理解してもらうための手段はいくらでもあると言えるのではないでしょうか。実際に本書では、各ステップに対応する様々なテクニックが紹介されています。

たとえばいわゆる「ねたみ」という問題。自分より若くて有能、しかも見た目も良いので、面接で落としてやった……などという最低の行為はあってはならないわけですが、似たような行為や感情がありふれたものであることは、残念ながら否定できないでしょう。ただ自分より優れていると感じた人物全員に対してねたみを抱くわけではなく、スイッチがオンになる/ならない条件が存在しています。それを本書では、「関連度(同じ業界で競争しているなど、相手の成功が自分にも関係してくるかどうか)」と「近接度(相手が目に入ってしまうほど近くにいるか、それとも無視できるほど遠くにいるか)」の2軸で整理し、関連度も近接度も高い(しかも自分より能力や性質が優れている)相手をねたんでしまいやすいと分析しています。

こう整理すると、なぜ相手が自分の能力や性質を気にして、正しい評価をしようとしないのかが分かり、対策が可能になります。たとえば自分と相手との関連度が高いことが理由であれば、自分と相手が目指しているものが違うと感じられるような情報を出したり、あえて別の業界に進んでみるといった具合ですね。と言われてもなかなか難しい話ですが、本書では有能な兄弟が別々の道を歩むことで、良好な関係を保っている例などを挙げ、適切な分析と行動を行うことのメリットを示しています。

いやいや正しく理解してもらうのにそんな苦労しなくちゃいけないの?なら誤解されたままでいいよ、あえてミステリアスな人物を演じるのもいいでしょと感じたあなた、個人的には共感してしまうのですが(めんどくさがりなので)、本書には気になる点が指摘されています。過去様々な研究において、「判断しやすい」人物の方が、仕事の面でも私生活の面でも幸福感や満足感を得る傾向が高いという結果が出ているのだとか。確かに常に誤解されているようだと心理的にも負担がかかりますし、嫌でも誤解を解く労力をかけなければならない場合も少なくないでしょう。その意味で本書は、ビジネスだけでなく生活においても身につけておくべきテクニックを教えてくれる一冊かもしれません。

ということで非常に有能かつ博識、フレンドリーで子供にも優しい僕は、その完璧さゆえにねたまれ、人から誤解を受けることも多いのですが、あきらめずに本書で学んだ知識を活かしていきたいと思います。ところで本書の最後で、こんなアドバイスがハイディさんから送られています。

 私は「なぜ人から誤解されやすいのか」を理解する手助けになれば、という思いで本書を書いた。なぜならそうした誤解は、とてもよく起きるからだ。ただすべての誤解が誤解かというと……実はそうではない。評価者の目に映っているのは本当のあなたで、誤解しているのはあなたの方という場合もあるのだ。

 本当の自分を知るというのは、思った以上に難しい。本書を通じて何度も解説したように、私たちは自分の心の中で起きている動きを、常に把握しているわけではない。さらに人間は複雑な生き物で、いくつもの自分を持つ(友人と接している時の自分は、会社にいる時や家族といる時の自分と同じ人物だろうか)。また私たちには、「自分をこう見たい」という欲求がある。評価するのが他人であろうが、自分であろうが、客観的に認知することはできない。

……自分ですら自分を正しく認識できないのに、他人がそれをできないからとへそを曲げるのはなかなか恥ずかしい行為だということを、肝に銘じておきたいと思います。

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