【自著紹介】『徹底攻略 Microsoft Azure Fundamentals教科書[AZ-900]対応』裏話
しつこく、今回も『徹底攻略 Microsoft Azure Fundamentals教科書[AZ-900]対応』の話をします。
今回、最後まで悩まされたのが用語の統一です。ドキュメントと管理ツールの表記が違うことはざらで、何が正式用語か確認するのに手間取りました。また、原語をそのままカタカナ表記にしたのかと思ったら、実は翻訳だったこともあります。たとえば「Azure Key Vault」は、日本語の管理ツールでは「Azureキーコンテナー」となっています。しかしドキュメントでは「Key Vault」と英語のまま使われています。「Key Vault」と「キーコンテナー」が同じものだと、皆さんはすぐに気付きますか?
Vaultは「金庫室」の意味です。英語では一般的な言葉のようで、映画にもなった小説『ハリー・ポッターと賢者の石』では、両親が残した遺産を保管した「グリンゴッツ魔法銀行(Gringotts Wizarding Bank)」の小部屋を「Vault」と呼んでいました。
どうやら、すべての「Vault」は「コンテナー」と翻訳されているようです。さっき確認したら「Recovery Services Vaults」は「Recovery Servicesコンテナー」になっていました。「Recovery Services」は英語のままです。それにしても「コンテナー」という表記にも違和感があります。マイクロソフトの人は「コンテナ船」とか「コンテナ輸送」という表記はしないのでしょうか。
マイクロソフト自身も用語統一のできていないところがあります。たとえば「role(役割)」は「ロール」と翻訳するのがマイクロソフトの一般的な原則ですが、Azureの管理画面を見ると「役割」と「ロール」が混在していることが分かります。
このように両方が使われているので迷いましたが、結局すべて「ロール」に統一しました。
また、試験対策書籍の執筆経験がないため、内容や構成について十分な配慮ができておらず、初校後の手戻りも多く発生しました。対応が特に難しかったのは「そこは試験に出ますか(出る可能性はありますか)?」という編集者からの質問です。MCP試験の出題範囲は多岐にわたり、項目だけで1回の出題数の倍ほどあります。つまり、出題範囲に含まれていても、実際には出題されない項目が数多くあるということです。
しかも、出題範囲を書いた文書には「This list is not definitive or exhaustive」つまり「このリストは決定的でも、網羅的でもありません」と明記してあります。要するに「ここに書いてないから出題されないと決まったわけではない」ということです。
出題内容を漏らすことは契約違反なので、それはしていません。しかし、それ以前に、そもそも出題されるかどうかを言い切ることはできないのです。
内容の取捨選択は、最終的に私が1人で判断しました。試験範囲には明記されていなくても、関連性が強く、知っていた方が実際に役立つと思われる内容は積極的に取り入れました。それでも試験問題を100%カバーすることはないでしょう。Azureの機能は毎月のように増えており、いつ問題に追加されるか分かりません。また、結局出題されない項目も数多くあるでしょう。しかし、本書を読んでいただければ、なんとか合格ラインに達するだけの知識は得られるのではないかと思っていますし、願っています。
まあしかし、編集者からの指摘や質問のおかげで、単純に試験範囲を網羅するだけでなく、(試験の意図を考慮して)範囲には入っていないけど出題される可能性がありそうなところ、実際に仕事で役立ちそうなこと、知っておくべきこと、そういったことを十分に考えながら本文に反映することができました。編集者という第三者がかかわることで、より良い書籍ができたのではないかと思います。
書籍の良いところは、ページ数を気にせず、著者の考えを自由に展開できることです。今回は「試験対策」という大きな目標があったので制限もありましたが、それでも伝えたいことは伝えることができました。
たとえば「(クラウド内で)日常的に起きているハードウェア障害」と書いたところ、「ネガティブだから表現を変えてはどうか」と提案されました。これについては「いや、実際に内部では障害が起きているし、利用者に影響が出る障害も世界中で見ると年に何度か起きている。そもそもITシステムは障害を前提に設計しなくてはいけない」と力説し、そのままの文章を残しました。初級者には厳しい表現だったかも知れませんが、「クラウドは落ちない」ではなく「部分的な障害を前提に、全体として停止しないシステムを設計する」ことを知っていただければと思います。
本書がMicrosoft Azureに限らず、パブリッククラウド全体への入口になることを願っています。