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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

【本の特盛り】インサイドWindows

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2011年に公開された記事を加筆修正したものです。


OSの内部構造を知ることが、直接何かの役に立つことは少ない。しかし、ドキュメントされていない振る舞いを予測したり、予期していなかったエラーの原因を類推したりするには内部構造の知識が不可欠だ。「インサイドMicrosoft Windows」は、Windowsオペレーティングシステムの内部構造を記した数少ない書籍である。

1993年、マイクロソフトは全く新しいOSとしてWindows NTを発表した。そして、OS発表とほぼ同時に発売されたのが「Inside Windows NT」だった。「Inside Windows NT」は、テクニカルライターのヘレン・カスターがWindows NT開発チームから情報を入手して執筆された。そのため、ライターの書いた書籍らしく、非常に分かりやすい文章だったが、深いところまで踏み込んではいなかったのが残念である。

1997年、「Inside Windows NT」をWindows NT 4.0に対応させるため、Windowsのコンサルティングと技術セミナーの講師をしているデビッド・ソロモンが著者に加わって完成したのが「Inside Windows NT第2版」だ。執筆にあたって、デビッド・ソロモンはWindowsのソースコードを参照する権利が与えられた。もちろん技術レベルも相当上がってしまったので、読みにくくなってしまったのは仕方ない。

しかし、これを「仕方がない」と考えなかったのがWindowsのトラブルシューティングツール「Sysinternals」を開発・販売していたマーク・ルシノビッチだ。「もっとよい本にするアイデアがある」と、自ら共同執筆者として参加したいと申し出たらしい。彼の原稿を見て、デビッド・ソロモンはWindowsのソースコードを不正に入手したのではないかと疑ったが、実際は独自調査した結果だったという。なお、Sysinternalsは後に会社ごとマイクロソフトに買収され、製品の多くはマイクロソフトから無償公開されている。ルシノビッチ氏は、現在もマイクロソフト社員として以前と変わらずツールの開発を継続しているようだ。

私は一度、マイクロソフトのイベントで彼を見かけた。プレゼンテーション中にチャットのコールを受けてしまうという、ありがちなハプニングに対して「えー、今プレゼン中なのであとで」とタイプしていた。ふつうは返事をせずに切ってしまうのに、返事をするのが大物である。場内は大爆笑だった。

マーク・ルシノビッチはWindows 2000対応の第3版「Inside Windows 2000」(日本語訳タイトルは「アーキテクチャ徹底解説Windows 2000」)からヘレン・カスターと入れ替わる形で執筆に加わり、自作のSysinternalsツールを駆使して「Experiment(実験)」というコラムを大量に追加した。読者は「実験」を自分で行なうことで、Windowsの内部構造を体験することができる。「ツールを使った体験」は面白いアイデアだったので、筆者らが執筆した「Windows Server 2003完全技術解説」でも取り入れた。

その後、「Windows Internals」と名前を変え、Windows Server XP/2003に対応した第4版(2004年)が登場し、Windows Vista/2008に対応した第5版(2009年)ではサポートにAlex Ionescu氏が加わった(著者欄に「with Alex Ionescu」とある。2012年のWindows 7/2008R2対応「Windows Internals第6版」(日本語訳は「インサイドWindows」)ではAlex Ionescu氏が共著者に昇格したようだ。2014年には新たにBrian Catlin氏を加えた4名でWindows 10に対応した第7版の「Windows Internals, Part 1」が発売された。日本語訳タイトルは「インサイドWindows第7版上」であるが、2021年10月発売予定の英語版は「Internal Windows, Part 2」となっている。何度も延期されているが、そろそろ登場してほしいものである。ちなみにPart 2にBrian Catlin氏の代わりにAndrea Allievi氏が参加している。

日経BPのIT書籍公式Twitterからは、何度も途中経過が報告されており、焦る様子が伝わってくる。何しろ、Part 1(上巻)から6年以上経っている。ライトノベル「涼宮ハルヒの分裂」から「涼宮ハルヒの驚愕」まで、ストーリーが連続しているにもかかわらず4年が経過してファンが動揺していたが、それ以上の中断である。これだけ待たせたのだから、良いものが出てくると信じている。

(画像を含む引用を公式に行う方法が見当たらないのでTweetの公式共有で)

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