社内コミュニケーションツールの使い方
前回「社内コミュニケーションツールのキラーコンテンツ」を書いてていろいろ思い出したので、実際に使ったツールを紹介しよう。
なお、どのツールもそれほど使い込んでいない上、基本的には無料枠での利用なので、完全な製品評価ではないことをあらかじめお断りしておく。
電子メール
結局、今でも一番広く使われているのは電子メールだが、これは以下のように多くの問題がある。
- 興味のない人にも一方的に送られる
- 検索性が悪い
- トピックごとの分類が困難
通知はメールが便利だが、コンテンツは別の場所にストックして欲しいところである。
VAX Notes
前職で使っていたプロトコルは主にDECnetだったが、(TCP/IPと同じく)基本的には誰でもサーバーを立ち上げることができた。そこで利用されていたのがVAX Notesという電子掲示板で、これはLotus Notesの原型となったPlato Group Notesから派生した製品である(Lotus Notes/Dominoの歴史)。つまり、Lotus Notes/DominoとVAX Notesは兄弟姉妹の関係にある。
VAX Notesには、会社の公式サイトもあったが、エンジニア個人や部門で立ち上げたものも多かった。だいたいは製品開発やサポート担当者が立ち上げたもので、簡易サポートの場としても使われていた。こちらは、さすがに炎上は少なかったがゼロということもなかったし、「行きすぎた表現」程度はふつうにあった(後述)。これは、公式な場であってもある程度の「息抜き」が認められていたからである。
VAX Notesは、トピックと、それに対するリプライという単純な2次元構造をキャラクターベースのウィンドウで実現しており使いやすかった。最新の投稿が最上位に来るような仕組みはなかったが、その代わりトピックとリプライには固有の番号が割り当てられ「23番のトピックを見よ」とか「23.5のリプライ(23番目のトピックについた5番目のリプライ)で説明した」という使い方ができた。
VAX Notesはその後、他のOSにも移植されたらしいが社内ツールに留まっていたらしく、広く一般に普及することはなかった。
パブリックフォルダー(Microsoft Exchange)
今の会社になってから、最初に利用された社内掲示板システムは、Microsoft Exchangeの「パブリックフォルダー」である。ただし、これは使い勝手が悪く、積極的に使われるには至らなかった。
何がどう使いにくいのかはうまく説明できないのだが、結果として、本来アップデートすべき業務ドキュメントの更新さえ滞ってしまった。そもそもExchange Serverのパブリックフォルダーは廃止の方向に向かっているようなので、これから積極的に使いたいものではない。現在は、問い合わせ窓口など、共用メールアドレスの宛先として使っているくらいである。
SharePointにも似たような機能があるが、こちらもコミュニケーションシステムとしての使い勝手は悪い。そのため、双方向コミュニケーションツールとしてはほとんど使われておらず、本来の意味での「掲示板」、つまり一方的な情報開示の場に留まっている。ただし、SharePointは編集履歴管理や役割ベースのアクセス制御など、ドキュメント管理はしっかりしているため「公式情報」の提示には使っている。
エンタープライズSNS
当時の社長の一声で、社内向けSNSを導入したこともある。「カジュアルなコミュニケーションで社内を活性化する」という触れ込みだが、結局の所「仲のいい社員が、さらに仲良くなる」というだけだった。失敗の原因はいくつかあるが、最も大きいのは「場所だけ提供して放置した」ことである。まめにコンテンツを更新し、見ざるをえない、あるいは見たくなるような場にしていれば事情は変わっていたかもしれない。
ただ、SNSの形態を取ることで、社外のビジネスパートナーとの連絡は取りやすくなった。昔のように、すべてをフルタイムの社員だけでまかなう時代ではない。社外の人と簡単にコミュニケーションを取る方法は必要である。以前使ったのは有償の製品であるが、OpenPNEなどオープンソースの製品もあり、検討する価値はあるだろう。
サイボウズLive
サイボウズLiveを無料枠で使っていたこともある。もともとは、書籍執筆のため、共著者と編集者のコミュニケーションに使っていたが、後に用途を拡大して一部の部署で使っていた。ただし、無料枠の提供がなくなるため、現在は使っていない。
サイボウズLiveは機能が豊富で使い勝手も良かったが、ユーザー管理を独自に行う必要があり、ユーザー数が拡大すると管理者の負担が増えることが予想される。もし、継続使用するならSAMLを使ったシングルサインオンなどを構成する必要がある(たぶんできるのだろう)。
Slack
最近入社した一部の社員が草の根的に導入したのがSlackである。シンプルだが、外部サービスとの連携機能が強力で、使い勝手も良い。
ただし、無償枠で使うと読み出し可能なメッセージ数に制限があり(データとしては保存されてる)、フル機能を使うにはライセンス料の支払いが必要である。これから何らかのコミュニケーションツールを導入するのであれば最初の選択肢になるだろう。ライセンス料も妥当だし、お試しで使うのは無料である。
Microsoft Teams
Slackの利用が軌道に乗ってくると、無償版での制限が問題になってきた。有償版への切り替えを検討中に気付いたのが、既に会社にはMicrosoft Teamsのライセンスがあるということだ(契約中プランのOffice 365に含まれていた)。メッセージ交換だけではなく、ファイル共有や外部Webサイトとの連携など、機能的には十分なので、すぐにTeamsに乗り換えた。社内にMicrosoft Officeのエキスパートがたくさんいることも幸いした。
移行に当たっては、以下の点を考慮したが、議論らしい議論もなかった。
- 社員が使うツールは少ない方がいいし
- Slackを使い出して間もないので、移行すべきコンテンツは少ない
- どうしても必要なコンテンツは手動で移行する
結果的に、Slackは「コミュニケーションツールの試用」ということになった。もし、皆さんがこれから何らかのツールを社内に導入するのであれば、綿密な調査をするより、「まずやってみて、だめならすぐ別のサービスに切り換える」というスタイルが有効だろう。新しいツールは、頭で考えても実際にどうなるかは分からないものである。無償版があればそれで試すのが良い。
現在、Teamsは社内外のユーザーとのコミュニケーションに使われている。「小規模な組織の通話やチャットはSkype for BusinessからTeamsへ移行せよ」というマイクロソフトの方針も発表されたので、しばらくはTeamsで落ち着きそうである。
【告知】トレノケ雲の会
12月17日(月)19:20から、勤務先主催の勉強会「トレノケ雲の会」が開催される。今回のテーマは「雲の上だヨ!全員集合」と題して、クラウドコミュニケーションツールについて取り上げる。Slack Japan株式会社の方にも来ていただけるので、ベンダーの思いについても触れることができるだろう。
【おまけ】不適切な表現の例
不適切な表現ながら笑ったのは「OpenVMS(自社の独自OS)は女子供には負けません」というものだった。「女」はUNIX、「子供」はWindows NTなんだそうだ。
UNIXは、研究室で発達し、TCP/IPを含めOSやネットワークの研究で広く使われていたものの、活躍の場は「家庭内」に限られていたので「女」、Windowsはできたばっかりなので「子供」らしい。なお、当時Linuxは存在したもののビジネスで使われるケースは少なかった。
ちなみに、Windows NTのプロジェクトリーダーは、OpenVMSの中心人物だったデビッド・カトラーだった。そして、ご存じのようにプロプライエタリなハードウェアでしか動作しないOpenVMSは廃れ、ベンダーごとの独自性が強かった商用UNIXは衰退し、ハードウェアに依存しないWindows NTとLinuxが市場を制覇した。