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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

新入社員に贈る武勇伝

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私の勤務先は研修サービスを提供している。毎年、4月から6月頃は各社の新入社員に対する研修を実施しているため、この時期はにぎやかである。賑やかすぎて他のお客様からクレームをいただくことあった。「あった」というのは、ここ数年、若い人のマナーが良く、クレームらしいクレームが全くないからである。

先日は、昼休みに騒がしかったので、午後の講義が始まってもうるさければ注意しようと思ったのに、時間が来たら(講師が来る前に)静かになった。

講師や同僚に対しても挨拶もきちんとできているし、自然である。かつて見られた、ここは体育会か宝塚少女歌劇か、と思うような不自然に声を張り上げたものではない。そんなわけで、この歳になって若い人に説教する権利があるのに、行使する機会がない。本当に残念なことである。

仕方ないので、自分の失敗談を書いてみる。2013年03月31日付けで、「Computer World」というWeb媒体に「エイプリルフールに贈る武勇伝」として公開したものに加筆した。エイプリルフールはずいぶん過ぎてしまったし、エイプリルフールの記事もいい加減つまらなくなってきたので、そこは割愛する。

この時は、TwitterだったかFacebookだったかで「4月1日はみんなで失敗談を書こう」と呼びかけた。結構とんでもない失敗が集まっておかしかった。同時に、おおらかな時代だったと感慨に浸った。今は失敗に対して昔よりもはるかに厳しいので十分注意して欲しい。

 

■前置き

新入社員から見ると、1年先輩の社員ですら立派な人に見えるだろう。まして、部長クラスともなれば雲の上の存在であり、普段話すこともないかもしれないし、年輩者の話を聞いても仕方がないと思うかもしれない。しかし、昔と違ってベテランのIT技術者も増え、40歳代、50歳代のプログラマやシステム管理者も珍しくない。元技術者の管理者も多いので、年齢が離れていても話を聞く価値はある。

年を取ると、若者に説教したくなる。説教は年長者の権利、それを聞くのは若年者の義務である。もちろん、説教は伝統に従い「近頃の若い者は」で始まり「それに比べてワタシの若い頃は」に続く。「昔々ある所に」と同じくらいの定番の導入部である。そして、最後は自慢で終わる(めでたしめでたし)。

どんな話からも得られる教訓はあるが、単なる自慢話は正直言ってあまり面白くはないだろう。そこで、今回は面白い話として失敗談をしよう。この種の失敗は誰もが多かれ少なかれ持っており、「武勇伝」として宴席で聞けるかもしれない。面白いと思ったらさりげなく聞き出してみよう。意外な一面が見えるはずだ。

お客様に直接迷惑をかけたという意味で、私の職業人生最大の失敗は月刊Windows Server Worldの連載「IT嫌いはまだ早い」で書いたので今回は省略する。読みたい方は「失敗は成功のもと」をどうぞ。あんまり読んで欲しいものでもないが。

今回はそれ以外の話を紹介する。最初の2つは本記事(Computer World)が初出である。

 

■始業前にシステムを破壊したこと

入社3年目くらいの頃、部内のシステムを管理していたことがある。10人くらいの部署の専用サーバーだったので、失敗しても影響範囲は狭かった。全員が顔見知りだったこともあって、厳密な運用手順を決めず柔軟な(行き当たりばったりの)管理をしていた。

システムは、フェールオーバークラスターを組んでいたのだが、何を思ったか「クォーラムディスクにあるこのファイルを消したらどうなるかな」と、削除してしまった。技術的な詳細は省略するが、結果としてシステムが停止した。

業務システムで、そんな思いつきを試してはいけないし、試すとしても(そこで試すのはあり得ない選択肢なのだが)復元計画を考えておくべきだ。たとえば削除ではなくファイル名を変更するだけに留めれば最短時間で復旧できる(クォーラムを使わずに起動する方法もある)。結局、バックアップテープからシステムを復元した。ユーザーデータは損傷していなかったこと、当時のシステム容量は数百MBであり、十数分で復旧できたため大事には至らなかった。今思い出しても恐ろしい。

教訓: 業務システムを実験に使わないこと

最近は、システムが複雑で大きくなり、簡単に復元できなかったり、できても時間がかかったりする。クォーラムを使わずに起動する方法もあったのだが、分からなければお手上げである。

 

■アップグレード中にファイルを削除したこと

休日に、OSのバージョンアップをしていたときもひどい目に遭った(悪いのは自分である)。寝不足のまま1人で休日出勤をして作業しているとき、dirコマンドとdelコマンドを間違えて打った。もちろんファイルは消えた。この時は、アップグレード作業の直前に行なったバックアップから特定のファイルだけを復元した。

GUIで[OK]と[キャンセル]を間違えることはよくあるし、コマンド履歴の呼び出しミスもしばしばあるが、コマンドを間違えることは珍しい。寝不足というのは恐いものである。

教訓: システム作業前日はよく寝ること

でなない。

教訓:システム管理作業は1人でやらず、2人で確認すること、

人間はミスを犯すものなので、努力に頼る運用は間違っている。ミスをしない運用、ミスを発見しやすい運用が重要である。

 

■寝過ごした

職種にかかわらず、ありがちなのが寝坊である。私は25年間で3回くらいある。危なかったことは数え切れない。

よくやる失敗は、余裕のある時刻に目覚まし時計をセットすることである。アラームが鳴っても「まだ時間がある」と、つい二度寝してしまう。寝過ごし防止には目覚まし時計を複数設定するのが効果的である。最近は携帯電話に内蔵されたアラームを使う人が多い。携帯電話のアラームには2つの利点がある。

  • 複数の時刻を設定可能…余裕のある時刻と余裕のない時刻をセットしておける
  • 時刻ごとにアラーム音を変更可能…余裕のある時刻には余裕のあるサウンドを、ぎりぎりの時刻には緊迫感のあるサウンドを使えるので、何度目のアラームかがすぐ分かる

教訓: 余裕のありすぎるアラームは油断を誘う

 

■忘れ物

これも職種によらず多いミスだ。持って帰るのを忘れるのではなく、持っていくのを忘れる。出張先にネクタイを忘れていった、靴下がない、ひげそりを忘れた。その他いろいろ。ただし、今はコンビニでたいていのものを売っているので、日用品を忘れても、よほどの僻地に行かない限り問題にはならない。

忘れ物の経験は誰もがあるようで、アイドルユニット「トーキョーチアチアパーティー(Tokyo Cheer2 Party)」にも「進め! フレッシュマン」という曲がある。1番は新入社員が「持って来たはずの資料がない」という内容である(2番は学校の話)。歌詞では先輩社員らしき人が「次は大丈夫」となぐさめるが、次はないかもしれない。

ノートPCのACアダプタを忘れた時は、会社から届けてもらった。これは3回くらいある(届けてくれた方、互換性のあるアダプタを貸していただいたお客様に感謝)。ディスプレイドライバが入っていないと、外部モニターに映像が出力されないことに前日気付いたこともある(前日で良かった)。これはホテルのインターネット接続を使ってドライバをダウンロードした。

研修で使用するテキストを忘れて行ったことも何度かある。昔のことなので、どうしたか忘れたが、確かPDFを参照しながら進行したのだと思う(実は、そもそも紙のテキストは不要なのかもしれない)。

あまり問題ではなさそうで、意外に精神的なダメージがあったのは時計を忘れたときである。私は緊張すると時計を見るのを忘れるので、大型のデジタル時計を教卓に置く。この時計を忘れたのだ。緊張の緩和には、頭を使わなくてもよいルーチンワークが最適だ。教室案内は良いウォーミングアップだが、お客様先だとそれがなく緊張する。せめて時計くらいは見慣れたものを置いておきたい。

忘れ物の防止にはチェックリストが有効だ。必要なものを列挙してきたい。

教訓: チェクリストを作る

と書いたが、チェックリストは作っていない。その代わり、よく使う小物類は1つの袋にまとめてある。

教訓: 忘れやすいものは1つの袋にまとめておく

 

■武勇伝の恩返しと恩送り

どの失敗もあまりほめられたものではない、というか技術者として、あるいは社会人としてどうなの、というものばかりだが、先輩社員は暖かく見守ってくれた(今の私が失敗すると、みんなかなり冷たい)。

こんな武勇伝はない方が望ましいが、やってしまったものが仕方ない。フォローしてくれた先輩社員に恩返しができるように頑張ろう。そして、自分が先輩になったとき、後輩をフォローしてあげよう。特に後者「自分がしてもらったことを他の人にしてあげる」こと、いわゆる「恩送り(英語ではpay forward)」を心がけて欲しい。ついでに『コミュニティの「恩返し」と「恩送り」』 も読んで欲しい。

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▲まれにネコが触って間違ったコマンドを実行することも

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