いじめは根絶できないが、黙っていていいわけではない
「いじめ」がなくせない原因はいくつも挙げられている。
言葉による暴力の場合は、いじめている本人が「いじめ」だと認識していないことが多いらしい。抽象的な表現で「いじめはいけません」と言っても改善されるはずがない。問題を認識していないのだから当然だ。
「人間は、閉鎖的な集団を作ると、必ず『いじめ』が発生する」という説もある。有名私立学校でいじめが比較的少ないのは(ゼロではない)、対外的な活動が多く、閉鎖集団になりにくいからだという。もっとも、甲子園出場の常連校野球部でも「いじめ」はあるらしいから、あくまでも程度問題である。
「いじめられる側にも原因があるのではないか」と言う人もいる。「原因」が「きっかけ」という意味なら、全くの間違いではない。何かをきっかけに発生する「いじめ」は確かにある。ただし、きっかけのない「いじめ」もたくさんある。
「日本人は排他的だから」という説もある。日本人は、人を容易に信用しないという実験結果があるらしい。また、異端者を排除する傾向にあることもよく知られている。しかし、どこの国でも「いじめ」はあり、日本だけにあるのではない。
「いじめ反対運動」として活動している「ピンクシャツデー」のWebサイトにはこういうエピソードが紹介されている。
2007年カナダの二人の学生から瞬く間に世界に広がった世界的いじめ反対運動。 ピンクのシャツを着て登校した少年が「ゲイ」だといじめられた。 それを見た二人の学生がピンクのシャツを友人・知人に配り翌日登校した。 学校では、呼び掛けに賛同した多数の生徒がピンクのTシャツを着て登校。 学校中がピンク色に染まり、いじめが自然となくなった。 そのエピソードがSNS等世界中に広まり現在では70ヵ国以上の国で活動が行われている。
カナダにだって「いじめ」はある。いじめていたグループの中には、もしかしたら本物のゲイが混じっていたかもしれない。そうなると、いじめる方も実は自分で自分をいじめるというややこしいことになる。
いじめられている本人は、精神的に自分から抵抗できないことが多い。親はもちろん、友人にすら相談できない。まして「毅然とした態度を取れ」と言うのは、新しい「いじめ」ですらある。本人ではなく周囲が立ち上がったこと、いじめている人を攻撃するのではなく、間接的なアピールをしていることが効果的だったのだろう。
「いじめが自然となくなった」という記述には疑問もあるが、「ピンクシャツデー」関係者の話では「いじめをなくす」よりも「いじめに反対する」ことに重点を置いているらしいので、その趣旨には賛同したい。
実は、ピンクシャツといえば私にも経験があるので、他人事ではない。
小学校の時、ピンクのシャツを着ていったらクラスの何人かに「女の子みたい」とからかわれた。幸い、それから継続していじめられることはなかったが、かなりショックだった。確かに、あの当時の男の子は、赤い服ですら着ることも珍しかったからピンクはかなり珍しかっただろう。だからといって笑うことはない。再びピンクを着るのは高校になってからだ。ピンクのジャケットも持っているのだが、さすがに派手なのであまり着ていない。
ちなみに、男の子の色として赤が一般化したのは、おそらく東映の特撮ヒーロードラマ「秘密戦隊ゴレンジャー」のリーダー「アカレンジャー」以降ではないかと思う。今でもピンクは「女の子の色」だ。
大学時代、友人と服装談義になったことがある。
「赤もピンクも、男が着て(デザイン次第で)おかしくない時代になったが、男が着ておかしいものはなんだろう」
「そりゃ、花柄だ」
確かに、花柄は私も着たことがないし、オフィスで見たこともない。アロハシャツなら花柄もありだが、いずれにしてもビジネス向きではない。
「ピンクシャツデー」は、毎年2月最終水曜日だそうなので、私もピンクのシャツを着てみた。こういうアピールは、事前にしっかりやっておかないと意味がないので、来年は事前告知を考えてみる(覚えていたら)。
インターネット哲学者を自称する諸野脇氏が、「いじめ」について長いブログを書いている。
- 【いじめ論1】 はじめに ――いじめ観のパラダイム転換が必要
- 【いじめ論2】 いじめは「道徳意識」の問題か
- 【いじめ論 番外編】 いじめの責任を論ずるための論理 ――「いじめられた子・家庭に責任がある」のか
- 【いじめ論3】 「いじめは絶対に許されない」と言って効果があるのか
- 【いじめ論4】 熱血教師が「いじめは絶対に許されない」と言っても効果は無かった
- 【いじめ論5】 「『いじめは許されない』という意識」が「徹底」されたと何を根拠に判断するのか
- 【いじめ論6】 ウィトゲンシュタインは〈行動の原因となる心〉を探すことを「思考法の病気」と捉えた
まだ続くらしい。こちらもあわせてご覧いただきたい。