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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

コミュニティ活動の話「JAWS DAYS」に参加して

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Amazon Web Servicesの場合: 「JAWS DAYS」に参加して

先日の3月22日(日)、Amazon Web Servicesユーザー会(JAWS-UG)のイベント「JAWS DAYS」に行ってきた。1日なのになぜ複数形なのかは分からない。私は昨年に続き、2回目の参加である。

当日の参加者は、実数で1,000人を超えたそうで、ユーザーグループ主催のイベントしては大規模な部類だろう。Amazon Web Services(アマゾンデータサービスジャパン)が、会社として後援しているということもあるが、何よりもユーザーの熱意の結果だと言える。各地に多くの支部ができているのも面白い。これだけ多くのユーザーを巻き込んでいるのは、世界でも日本だけらしい。

一般的なテクニカルカンファレンスと同様、JAWS DAYS当日は複数のセッションが並行して行われた。大きな会場を仕切っただけなので、隣の声が聞こえて来るのだが、意外に気にならない。セッション間の移動も気楽なので、なかなかいいスタイルだった。

当日の内容は、SlideShareなどで公開されているので、興味のある方は探してみて欲しい。JAWSDAYSをキーワードで探すといいようである。

昨年は、Cookpadのデプロイ(システム展開)スタイルに感銘を受けたのだが、今回一番面白かったのは、「JAWS DAYS 2015-ド・エンタープライズな情シスとクラウドと私」だった。大企業のIT部門にいながら、新しい技術を導入することの難しさや、コミュニティ活動との関わりについての体験談だった。

特に、「はじめてJAWS-UGに参加したときは、怖くて逃げて帰った」くらいだったのに(スライド19枚目)、最後は「ここ(JAWS DAYS)に来た人で、(セッション以外で)誰ともしゃべらないで帰るのはもったいない」と力説していたのは面白かった。コミュニティはこうして成長していくものである。

私が去年参加したときは、ランチのテーブルに同席した人に話しかけてみた。同じ技術に興味を持つ者同士なので、口火さえ切れば話は続くものである。楽しい時間を過ごすことができた。今年は、あいにくテーブルがいっぱいで、セッション会場の椅子に座って食べていたため、話しかけるきっかけをつかめなかった。

初対面の人に何を聞いていいか分からないという人も多いかもしれない。JAWS DAYSの場合は参加地域ごとに参加者バッジが区別されているため、遠方から参加の人に対しては「どちらからご参加ですか?」で会話をはじめられる。次に、「お仕事は開発系ですか」「○○技術は、もう実際に使っていらっしゃるんですか」と尋ねてみる。反応が悪いようなら、「あ、失礼しました、私は研修専門会社に勤めています」などと改めて自己紹介をする。社名は聞かないのが無難だ。たとえば(あくまでも「たとえば」である)、マイクロソフトの人がAWSのイベントに来ていれば、それだけで何かの意図を感じる(または勘ぐられる)だろうし、実際に何かの意図があればそれは営業上の機密事項の可能性が高い。

マナー的には、人のことを聞く前に自己紹介をすべきなのだろうが、自己紹介から入ると逆に怪しまれるような気がするので、いったんは「あなたに興味があります」という姿勢を見せるようにしてる。

ただ、これはどうかと思ったのは、セッション終了後の懇親会時間中に行われた「ライトニングトーク」である。ライトニングトークは、5分程度の短時間で、多くの人が次々とプレゼンテーションをしていく形態を指す。5分ではあまり複雑な話はできないので、1トピックに絞るのが普通である。

ライトニングトークは、時間が短く、1トピックで済むため、コミュニティのデビューに使われることが多いらしい。しかし、5分で話をまとめるのは実は難しい。私なら絶対やらない。たとえば、第28代米国大統領ウィルソンは、こんな言葉を残している。

10分間のスピーチをするなら、準備に1週間かかる。
15分間なら3日必要だ。
20分なら2日でいい。
1時間のスピーチなら、いますぐにでもできる。

この調子だと、5分のスピーチには1ヶ月くらいかかってしまう。

幸い、ライトニングトークでは、構成がしっかりしていなくても大目に見るという暗黙の了解がある。プレゼンテーションとしては難しいのだが、品質のハードルを下げることでバランスをとっている感じだ。

ここ数年、ライトニングトークには、時間を知らせる銅鑼(ドラ)を叩く「ドラ娘」がつきものである。たいていは何らかのコスプレをしている盛り上げ役である。「なぜ女性なのか」という指摘はもっともだが、そこをとやかく言うのはやめておく。写真家の青山裕企氏は「人が、人の写真を撮るとき、大半は異性を対象にしたいと思う。女性を撮りたい女性も少なくないが、男性を撮りたいと思う男性は滅多にいない」と指摘していた。「正しい」かどうかは別として、盛り上げ役に女性が出てくる理由としては十分だろう。

ドラ娘がドラを叩くと、話の途中でも強制終了である。JAWS DAYSでは、さらに5秒経って話が終わらない場合は「パイ」が顔に投げられる。本物のパイではなく、紙皿にパーティ用に販売されているフォーム(泡)を乗せたもののようだ。隣に立っていた人に「最近はこんなことするんですか」と尋ねたら「関西から始まったみたいですね」と教えていただいた(本当はどうかは調べていない)。

アルコールも入り、リラックスした雰囲気でのイベントなので、こうしたノリを全面的に否定するわけではない。それどころか、楽しいから続けた方がいいと思う。ただ、登壇者全員が、それも時間通りに終わった人までパイ投げを希望するのは悪のりしすぎだと思う。これを見て、初心者が「自分もやりたい」と思うだろうか。これでは「新規参入のハードルを下げる」という役割をまったく果たしていない。実際、Twitterでは「LT(ライトニングトーク)が内輪ネタばかりなので帰ります」という発言もあった。

繰り返すが、パイ投げ自体は結構盛り上がったので、全面的に禁止すべきとは思わないが、あらかじめ決めた「時間内なら何もなし」というルールは守るべきだし、「パイ投げ」という初心者を萎縮するようなペナルティを全員に強制するのも感心しない。「ペナルティなしの5分強制終了」と「最大6分まで延長できるが、5分10秒を過ぎたらパイ投げ」の2トラックに分けるとか、「参加3回目まではペナルティ免除」のようにした方がいいのではないだろうか。

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このように、少々内輪で盛り上がりすぎだった面もあるが、Amazon Web Servicesのユーザー会は、JAWS-UGを中心にまとまっており、活発な活動が続いている。Amazon Web Servicesの日本法人では、「AWSサムライ」という表彰制度を作ったという。さらに、米国もそれにならって「AWS Community Heros」という制度をスタートさせたらしい(現代英語ではHeroは男女両方を指す)。コミュニティの場としてのJAWS-UGと、コミュニティの中心人物としてのAWSサムライが、AWSコミュニティを担っていくわけだ。

AWSの方も「新しい技術はまずJAWS-UGに流せば、うまく広めてくれる」とおっしゃっていた。クラウドサービスはベータ版の段階で公開されることが多く、企業として責任ある発言が難しい場合もある。コミュニティがそこを補う役割を果たすことで、ベンダーもユーザーも双方にメリットがある。

 

マイクロソフトの場合

Microsoft Azureには「Japan Windows Azure User Group(JAZUG)」が存在するが、意外なことにWindows Serverのコミュニティは案外少ない。勉強会は活発に行われているが、「ここに行けば大丈夫」というコミュニティがない。

かつてあったJWNTUG(Japan Windows NT User Group)は、マイクロソフトの支援を受けず、対等な立場でマイクロソフトへの発言を目指していたが、運営上の問題から解散している。JWNTUGの前身となったNT ommitteeはJWNTUG発足とともに、NT COmmittee 2として再スタートした。活動の中心は勉強会で、私も(講師を含めて)何度か参加した。勉強会への参加はオープンだが、JAWS-UGのような広がりは見られない(そういう方針のようである)。

SQL Serverユーザー会(PASS-J)も、米国のユーザー会PASSと連携して、活発な活動を行っていたが、2009年に事実上の解散をしている。

マイクロソフトは、コミュニティ活動に貢献した人を「マイクロソフトMVP」として年間アワードを出している。マイクロソフトMVPになると、多くの特典があり、さらにコミュニティ活動を続けやすくなっている。この制度は、Linuxなどのオープンソースコミュニティで、優れたエンジニアに自然に与えられる「名誉」を制度化したものと考えられる。「AWSサムライ」も、マイクロソフトMVPを参考にしたのではないだろうか。

このようにマイクロソフトは「人」に対する支援はあるのだが、ユーザー会のような「場」に対する支援はほとんどない。もともと古くからのユーザーが多数存在するため、今さらまとめる必要もないのかもしれない。Microsoft Azureのユーザー会に対する支援があるのは、クラウド分野で後発だからだろうか。要するに、Microsoft Azureの市場はまだまだ未成熟な証ということになる。

 

IBM SoftLayerの場合

IBMが提供するパブリッククラウドサービス「SoftLayer」は、IT基盤を提供するIaaSである。日本ではまだまだ知名度が低いものの、昨年には東京にデータセンターが開設され、注目度が高まっている。SoftLayerは、ベアメタルサーバーの時間単位提供や、データセンター間の無料プライベートネットワーク、チャットやメッセージによる無制限の無償サポートが特徴である。限定的ではあるがチャットには日本語も使える。

4月からは研修会社による講習会もスタートする(ちなみに講師は私である)。講習テキストとして提供される言語は、世界で英語と日本語だけであり、ここからも日本市場を重視する姿勢がうかがえる(日本人が、よほど英語が下手だと思われているのだろう)。

SoftLayerにもユーザー会が存在する(Japan SoftLayer User Group: JSLUG)。こちらは、先行ユーザー企業が中心となっているようだ。新しい技術をいち早く取り入れることで、競争優位に立てる反面、顧客は「本当に安定して動作するのか」という不安を持つことがある。「ユーザー会」という形で、非公式な情報交換を現場同士で行うことで、共有できる技術は共有し、その上で自社の独自性を発揮することができる。「今風」のユーザー会のあり方だ。

 

これからのコミュニティ活動

JWNTUG解散の理由は、いまだに分析されておらず、諸説ある。私の見立てでは、「マイクロソフトに対する圧力団体」を目指すため、規模を拡大しすぎたことが大きな要因ではないかと想像している(あくまで想像である)。その背景には、JWNTUG創立当時、マイクロソフト製品には非公開の独自技術や公開技術だが独自に解釈した製品が多かったことがある。現在でも独自技術は多いものの、多くの仕様が公開され、相互運用性はかなり良くなったため、JWNTUG的なスタイルは意味がなくなった。

一方JAWS-UGは、AWSが密接に関わっている。以前のユーザー会はこうしたスタイルが普通だった。たとえば、昔あったDECという会社のユーザー会(DECUS)の事務局はDEC社内に存在したくらいである。この種のユーザー会は、ベンダーとの結びつきが強すぎるというデメリットがあったが、現在は「オープンな仕様」に対する市場圧力が強いため、昔のような心配は無用になってきた。

ユーザー会が発展することで、顧客に安心感が生まれ、採用企業が増えることで、日本のITシステムにも貢献できる。どのユーザー会も、健全な発展をしてほしいものである。また、ベンダーも、直接言いにくいことはユーザー会経由で非公式に公開することがある。ユーザー企業にも参加するメリットがあるので、ぜひ参加してみて欲しい。

そして、できれば何らかの形でユーザー会に貢献して欲しい。先に紹介した、ライトニングトークもひとつの形である(私はライトニングトークをするくらいなら1時間のセッションを担当させてもらうが)。

 

【おまけ】

ユーザー会を底辺で支えているのは、その技術が好きでたまらない(萌え)エンジニアの情熱(推し)である(「日本人の心は「わび・さび」から「萌え・推し」へ ~世界の終わりのいずこねこ~」も読んで欲しい)。好きなことは仕事を離れても勉強し続ける反面、嫌いなことを押しつけるとそのまま会社を辞めてしまう人もいる。

誰でも、好きなことをして生きていけばいいと思う。「そんなに甘くない」という人もいるかもしれないが、世の中は思ったよりもちょっとだけ甘い(「ちょっとだけ」ではあるが)。

学生時代から、誰からも支持されなくても好きな絵を描き続け、やっと認められはじめた若い絵描きがいる。その彼女が個展を開催する。縁あって、卒業制作から全ての個展を見ているのだが、彼女の展示は、「絵」というよりも空間芸術に近い。今回の個展は、ライブハウスを借り切って装飾しているので、見応えがあるはずだ。

初日のオープン直後に覗いたら大変盛況だった。本当に喜ばしい限りである。

「夢という字がどんどんダサくなるとき」展

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