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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

FREEexの不思議「お金払うから仕事をください?」

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前回(岡田斗司夫FREEexとは何か?)に続きFREEex(フリックス)の話である。簡単に復習しておこう。FREEexは、クリエイターを直接支援することで、創作活動を支える仕組みである。基本的には、参加者が定額を支払いつつ、労働を提供するのだが、「外郭団体」制度が導入されることで、収入を得る手段が確保された。

一見、通常のビジネス形態と同じように見えるが、大きな違いがある。それは「クリエイターの生活を支えるのは、作品を売ったお金ではなく、FREEexメンバーが払った会費」だということだ。そのためクリエイターは「生活のための仕事」が不要になるし「売るための努力」も必要ない。創作活動に専念できる。

問題は、作品がいくら売れても収入が増えないことである。外郭団体は、クリエイターのコンテンツを出版し、販売することで利益を得るが、その利益はクリエイターには還元されない。もし、そういうことがあれば外郭団体からクリエイターにボーナスが支給されることになるだろうが、事前に決めておかないとトラブルになるかもしれない。

一方、生活を支えるだけのファンが集まらない場合は、「FREEexメンバーを増やすための努力」が必要になる。これは、クリエイターにとっては作品を売る努力よりももっと不毛な行為である。本来なら、そういうことはFREEexメンバーが考えてくれるものだ。ファンというのは自分の好きな人を宣伝したくてたまらないもので、俗に「布教活動」と呼ばれるくらいである(やり過ぎて嫌われるのも布教活動と似ている)。インターネットによる広範囲なコミュニケーションが安価にできるようになった現在では、「布教活動」は昔よりもずっとハードルは低いはずだ。とは言え、生活を支えるための絶対数は必要なので、あまりにもメンバーが少ない場合、FREEex化は時期尚早だろう。まずは一定数のファンを獲得することが先決であり、それにはよい作品を作るか、自分自身に魅力的なキャラクターを備える必要がある。

クリエイター本人がやりたいと思っていても、お金になりそうになく、外郭団体が手を上げない仕事もある。この場合は「僕(クリエイター)がこんなにやりたいと思っているのに、誰も手伝ってくれないの」と泣きが入るかもしれない。そこまで言われて黙っているファンはいないだろう。結局、クリエイターの想いはかなう(ことが多い)。

ファンは、好きな人のためなら何でもする」というのは、FREEexを支える根本原理である。お金も出すし、労働も提供する。そういうものである。

現実の社会を見ると、「布教活動」が最も盛んなのはアイドルであろう。現在はライブハウスにのみ出演するアイドルが大量にいる。通称「地下アイドル」だ。AKB48なんかも、自前の劇場を持っていたという大きな優位性があったものの、結成後しばらくは地下アイドル扱いだった。現在でも匿名掲示板「2ちゃんねる」では地下アイドルに分類されているはずだ。もっとも「地下アイドル」が蔑称として使われる場合も多いので「ライブアイドル」の呼び方もある。

ライブアイドルの収益は大してないので、利益率を上げるため「アイドルFREEex」を導入してはどうかというアイデアは初期の頃からあった。芸能事務所がFREEexでいう外郭団体となり、仕事をする人を募集する。もちろん、仕事をするためにはお金を払う。ファンがする仕事にアイドル自身が参加する必要はない。感謝されるだけでファンは満足するだろうし、それでいいというファンだけが参加すればいい。

現在でも、推しアイドルが出るときは、ライブハウスにいる全員にサイリウムを自腹で買って配っているファンは多い(ゴミにならないようにか、他のアイドルを応援しないようにか、推しの出番が終わったら回収に回ってくるのが偉い)。フリーのアイドルの場合は、アイドルに頼まれて宣材写真を撮り、チラシを作っている人もいる。もちろん無償である。ちょっと困るのは、手伝う人の数が増えると、ファン同士のトラブルが起きる可能性だ。たとえば、自称地下アイドルの姫乃たま氏のコラム「姫乃たまの耳の痛い話」には「「ずっと、時間もお金も、全部お前に使ったのに」――"唯一のファン"だった男が新規ファンを遠ざけた日のお話」という、かなり怖いファンの話が紹介されていた。

こうしたトラブルを避けるにはどうすればよいか。岡田斗司夫氏は「参加費を取ると、参加費に見合った質の参加者が来る」と主張している。無償でお願いすると、中に変な人が混じるから、逆に参加費を取ればいいという主張である。FREEexの参加費は年間12万円、OJTが付いた私塾と思えば高くもないが、決して安くはない。また、クラウドシティの参加費は年間1万円、単なるSNSと考えると相当高額である。

「金を払ったんだから、これくらいの見返りをよこせ」と言われるのではないかと心配する人もいるだろう。しかし、たいていの場合、そういう人が出てくるのは安価に設定しすぎたためである。誰でも払えるくらいの値段だと、質の悪い参加者を排除する機能が働かず、かえって態度が悪くなってしまう。ある程度高い金額に設定した方が参加者の質は上がる。高級スポーツクラブの入会金が高いのと同じ理屈である。

もちろん、世の中には貧乏でもいい人はいるし、能力を持った人もいる。そういう人を切り捨ててしまうリスクを減らしたければ、もう一工夫する必要がある。たとえば見習い期間は無給(つまり参加費なし)で、あまり重要ではない仕事をしてもらうのもいいかもしれない。岡田斗司夫FREEexで仮想通貨や外郭団体が導入された背景には、「現金を持たないが優秀な人材」を確保するためという意味もあるのかもしれない。

芸能事務所の場合、FREEexのような定額制の会員組織にするのは運営も大変だし、参加する側も勇気が必要だが、作業単位で「お金を払って手伝う権利を買う」なら難しくないと思うのだがどうだろう。

DSC06980M
MOBACO. さん
本業は(アイドル)ステージ衣装の制作
純粋なアイドルは撮影や掲載に制約があって面倒なので、紹介するのもついおっくうになる。

 

【前回の補足】仮想通貨について

前回で岡田斗司夫FREEexの活動はほぼ網羅したが、複雑すぎて紹介しなかった仕組み「フリラック」について紹介しておこう。「フリラック」は一種の仮想通貨で、外郭団体とともに導入された。フリラックの導入目的は、利益をもたらさない活動をサポートするとともに、会員間の金銭のやりとりを簡単にすることで会員間の「評価」を具現化することである。

外郭団体は、岡田斗司夫コンテンツを無償で使っている代わりに、その利益に対して「印税」がかかる。これを、音楽著作権会社JASRAC(ジャスラック)をもじって「フリラック」と呼ぶ。フリラック室は、フリラックを管理するとともに外郭団体が発行する仮想通貨を管理する。仮想通貨に関しては法的な制約があるため、フリラック室が法令遵守のための指示を出す。

フリラック室の発行する仮想通貨が「フリラ」で、1フリラ1円の固定レートである。フリラックは、外郭団体ごとに発行可能だが、現時点ではどの通貨も換算レートは変わらない。

フリラック室に収められた「印税」は、直属室に配分され、余った分はFREEexメンバーに「配当」として分配される(今のところそれほど多くはない)。また、外郭団体の仕事をした人には、外郭団体から「給与」が出る。外郭団体の仕事だけで生活する人も出てきた。これも通常は仮想通貨で支払われる。

FREEex内部で使われているSNSには仮想通貨の送金機能が追加されており、いつでも手数料なしに即座に支払いができる。感謝の気持ちや評価の表現として仮想通貨を送金することもある。FREEex参加費に充当することもできるので、働き次第で「現金を払わずに参加する」ことも可能になった。

岡田斗司夫FREEexでは、以下のような直接利益を得られない活動は「直属室」と呼ばれるチームが分担して行う。直属室の活動は、外郭団体から収められたフリラックを予算に従って配分することでまかなわれる。

  • 秘書室...FREEex名簿管理など、運営全般
  • 宣伝室...岡田斗司夫氏自身のブログ運営や広報活動など
  • フリラック室...外郭団体が獲得した利益を再配分する
  • クラウド室...会員制有料SNS「クラウドシティ」の管理(クラウドシティの運営そのものは自治が主体で、運営費は会費でまかなわれる)

ここまでをまとめたものが以下の図である。

FREEex-3

外郭団体と仮想通貨の導入により、初期のFREEexの形態「お金を払って仕事をする」は変わりつつある。たとえば、現金で参加費が支払えない人は労働で参加するという選択肢が生まれた。初年度は現金が必要であるが、分割払いが認められていること、現金とフリラックの併用が認められているので、働きに応じて現金支払いは実質的に免除される。

ただし、金銭の流れができた以上、何らかの意識の変化が出る可能性もある。そうなればまた制度に変更が加えられるだろう。FREEexというのは、そういう実験的な組織なのである。

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