オルタナティブ・ブログ > 仕事と生活と私――ITエンジニアの人生 >

IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

独りよがりも突き詰めれば支持される

»

ひいきの画家が出展するというので、11月2日(土)、東京国際展示場(通称ビッグサイト)で開催された「デザインフェスタ」に行ってきた。デザインフェスタは、オリジナル作品を広く発表する場で、絵画、写真、衣装などの展示即売会である。形態は「コミックマーケット」、通称コミケ(コミケット)と似ているが、コミケが二次創作を含めて広く「表現」を考えているのに対して、デザインフェスタはオリジナル作品にこだわるイベントである点で大きく違う。

●わたなべななさんのこと

「ひいきの画家」とは、わたなべななさん(Webサイト「ふわふわどろり」)。もともと、町田・デザイン専門学校の卒業制作展で発見した。そもそもは、歌手の宮崎奈穂子さんが無料ライブをするというので友人と一緒に行き、ついでだからと展示を見て回ったのがきっかけである。まるで小学生の女の子の落書きのような色彩に圧倒されながら、しばらく目が離せなかった。

ライブペイント中のわたなべなな

もっとも、見ての通り、万人受けするタイプではないようで、同行した友人は早々に退散していた。わたなべななさん自身が披露したエピソードによると「あなたの絵は1億人に1人にしか分からない」と言われ「失礼な、1万人に1人くらいいるわ」と言い返したくらいである。実際の数字は25人に1人くらいだろうか。

評論家の岡田斗司夫氏によると、芸術は「生きることの不安を観客に伝え、衝撃を与えること」、芸能は「感動や満足を観客に与えること」とらしい。そういう意味ではわたなべななさんの作品は間違いなく芸術である。

本人は「描きたいから描く」「自己満足と言われるが、満足なんてしていないから、自己満足ですらない」と言うが、強烈な自己主張には違いない。

ギターを弾くわたなべなな

●まぐにゃむフォトのこと

せっかく来たので一通り見て回ることにした。実は、ここ数年「まぐにゃむフォト」のサークル名で猫写真集を作り、コミケで販売している。「まぐにゃむフォト」は「独立写真家集団(Independent Photographer Group)」を標榜しており、私と、私の友人夫婦の写真ユニット「ねこやま猫道」の3人で構成されている。「まぐにゃむフォト」は、もちろん「マグナムフォト」をもじったものだが、若い人はマグナムフォトを知らないのでパロディにもならない。せっかく似たロゴまで作ったのに残念である。

Magnyam-LOGO

ねこやま猫道さんは、友人に「(二次創作が多い)コミケではなく、(オリジナルが多い)デザインフェスタに出したら?」と勧められたそうである。コミケよりも出展料は高いが、出展作品が猫写真でも違和感がなく、売れそうなら出してみようと考えた。

デザインフェスタに写真の出展はそれほど多くなく、あっても大した作品ではなかった(ように最初は見えた)。ニーズが少ないから出展がないのか、でも同じジャンルの作品が少ないということは大きな市場「ブルーオーシャン」が広がっているということではないか、などと考えながら回っているうちに写真作品が多くあるコーナーにさしかかって衝撃を受けた。どのブースもテーマ性があり、高い技術に裏付けられた強い自己主張があった。どの作品も、ある種の「自己満足」であったが、ここまで強く主張されるとそれは「アート」になる。独りよがりも突き詰めれば作品になるのである。そういうわけで、まぐにゃむフォトはデザインフェスタの出展をあきらめた。

●スティーブ・ジョブズのこと

「独りよがり」で思い出したのがアップル創業者の1人、スティーブ・ジョブズだ。MacintoshとWindowsの共通の祖先であるXEROX社のワークステーションは3ボタンマウスを採用していた。研究の結果「1ボタンマウスは作業効率が上がらない」ということが分かっていたからだ。

3つのボタンとは、選択ボタン(Windowsの場合は左ボタン)と、コンテキスト依存ボタン(Windowsの場合は右ボタン)、そしてウィンドウ操作用のボタンである。Windowsは、タイトルバーやウィンドウ枠にサイズ変更機能を持たせたため、選択ボタンとコンテキスト依存ボタンの2ボタンマウスが採用された。しかしMacintoshは1ボタンマウスを強力に推した。スティーブ・ジョブズの説明では「どのボタンを押すか迷わないように」ということだったが、左右のマウスボタンで迷う人など見たことがない。そして、1ボタンマウスでも生産性を上げるため、Macintoshではキーボードとマウスのコンビネーションが多用された。これが批判されなかったのは不思議である。

その他、初代Macintoshはハードウェアのカスタマイズを徹底的に嫌い、拡張カードはもちろん、本体を開くことすら制限していた。これもスティーブ・ジョブズの主張だとされている。Macintosh以前、もう1人のアップル創業者スティーブ・ウォズニアックが設計したApple IIが8つもの拡張カードスロットを持っていたのとは対照的である。Apple IIは、拡張カードにCPUを内蔵させ、本体のCPUを止めて違うPCにすることだってできた。

Macintoshには、設計上の特徴が数多くある。マルチタスクは長い間サポートされなかったし、メモリ管理も極めて貧弱だった。そもそもシステムが不安定だった。しかし、その反面、GUIの一貫性は素晴らしく、多くの人が魅了された。独りよがりのデザインも、突き詰めれば多くの人を引きつける例である。

●UNIXのこと

IT業界にはもっと有名な例がある。UNIXである。UNIXのコンセプトは極めて特徴的で、「エラーメッセージがなければ正しく動作している」というコマンドシェルや、「すべてがファイルである」というシステム設計が有名だが、「新しいプロセスは自身の複製を作ってから実行イメージを差し替える」というのもかなり変である。仮想記憶の利用により、複製のオーバーヘッドは無視できるようになったが、単純に実行ファイルを指定して新規プロセスを作る機能がないというのが不思議である。

こうしたUNIXの特異性は、ケン・トンプソンやデニス・リッチーなど、ごく少人数のチームで基本設計を行なったためとされている。商用化されてからも、UNIXは多くのメインフレームベンダーから無視されたり批判されたりしたが、熱狂的な支持者により研究が進められ、今では世界で最も重要なOSの1つとなった。

●コミックマーケットへ

私は、「まぐにゃむフォト」ブランドで過去に「COPYCAT」と「COPYCAT 2」の2冊を出している。それなりに評判は良かったのだが、撮るのが大変なこと(COPYCAT用の写真を撮っているときは、常にカメラを手元に置いていた)、本人が少し飽きてきたことから、次回作を思案中だった。

Copycat-1

思いついたのは、モデルさんを使った作品である。ただし、これは猫ファンにもポートレートファンにも受け入れられない中途半端なものになるかもしれず、あまり売れないかもしれないと迷っていた。しかし、デザインフェスタを見て決心した。自分が表現したいものを表現する。作品の力は、表現したいという思い込みの強さに比例する。商業作品ではないのだから、思ったように作るべきだ。

制作が間に合えば、年末のコミケで発売するので、都合が合えば、見に来るだけでもどうぞ。午前中はかなり混み合うが、午後からは楽に入場できるはずである。

【告知】
第85回コミックマーケット (入場無料)
日時: 12月30日(月) 10:00-16:00
会場: 東京国際展示場(ビッグサイト)
場所: 東Dブロック12a
名称: まぐにゃむフォト

しのさん
▲マイクロソフトのWindows Azure公式キャラクター「クラウディア窓辺」さんのコスプレ (モデル: しのさん)

Comment(0)