ブロッキングは国際的に進めるのが良いのでは
ニュースで伝え聞いたところによると、児童ポルノ蔓延を防ぐ手立てとしてブロッキングは有効なものの、引き続き検討が必要という報告が児童ポルノ流通防止対策推進協議会から出されたそうです。
私も同じ意見です。同じというのは有効性はあるだろうと思うものの、まだ検討すべき課題は多いと考えます。以下は今回の発表そのものから一歩離れ、ブロッキング技術そのものに関して思うことを述べたものです。
(1)リストの運用
万一にでもリストが濫用されるようなことがあった場合、例えば政府に批判的な情報をかたっぱしからブロッキングされてしまうような場合、そのことをインターネットで訴えようとしてもそれ自身がブロッキングされてしまう恐れがあります。かといって「このURLがブロックされています」という情報の開示の仕方は非常に難しいものがあります。
今の平和な日本では考えづらいことですが、人権保護の観点からあれもブロッキング、これもブロッキング、となれば危うい方向に転がってしまうようにも思います。今はほとんど監視体制がなく、警察等に寄せられた情報から削除要請を送るにとどまっているはずです。通報からブロッキングまでがつながり、関係各所が緊密になる体制ができてしまえば、その規制対象を広げることはこの仕組をゼロから作り上げることよりも簡単になることと思います。もちろん適切に運用がされれば、児童ポルノだけでなく銃や爆弾の製造から違法薬物の売買といった我々自身の日常の安全を脅かすような情報まで遮断できるメリットもあるでしょう。
(2)リストの濫用
地球上のすべての国との協調行動を取らない限り、地球上のどこかにブロッキング対象のサイトを運営したり閲覧したりできる人がいることになります。それを踏まえ日本国内の検索エンジンについて考えてみます。
ブロッキングが検索エンジンの結果に反映されない場合、クリックしてみると「理由○○によりブロックされました」と表示されるため、ブロッキング対象のサイトの存在がわかります。
ブロッキングが検索エンジンの結果に反映される場合、海外の検索エンジンと比較することでブロッキング対象のサイトの存在がわかります。
これを悪用するとどうなるでしょうか。インターネット上を自動的に巡回して無制限に情報を集めて回るプログラムを作成したとしても、その情報はあまりに乱雑で非常に使い勝手が悪いものになります。しかし上のようにブロッキング情報があれば「ブロックされた」ことを持って悪性な情報である=一部の人にとっては有用な情報であるということがわかります。
同じ原理を使って中国国内でブロッキングされている情報(天安門や法輪功など)は中国当局が気にしている情報であるということが知られています。
これはすなわち、他の国家でブロッキングが標準的に利用されるようになった場合は日本も追随しないと海外から悪性情報の判定のために利用されていまうという危険性を秘めています。googleやYahooといった検索エンジン運営企業が企業レベルで対応してくれれば問題ないですが、日の丸検索エンジンを作ってそれが海外から悪性情報の判定に利用されてしまうとしたら洒落になりません。
(3)ブロッキングの形骸化
ブロッキングのやり方は主に2通りであると考えられます。URLまたはURLとIPアドレスの組み合わせをブロックするものと、パケット自身をスキャンするものです。後者は暗号化などによって簡単にすり抜けられてしまう上、負荷がとんでもないですし、利用者の反発も非常に大きいと思われます。
前者についてはどうでしょうか。これは木は森に隠せということで、昔からあるオーソドックスなやり方で簡単にすり抜けられてしまうでしょう。やり方はいくつでもあげられますが、まずはメールボックスに隠してIDとパスワードをメンバー同士で共有するものです。これは誰か一人が捕まるまでは利用者全員のメールボックスをスキャンしてブロッキング対象のURLが含まれていないか調べねばならず、非常に大きな反発を招くでしょう。
ブログに貼り付ける画像に埋め込んだり偽装することも考えられます。偽装への対抗手段は、例えば「100メガバイト以上のファイルで、かつダウンロード負荷が高いもの」を管理者が集中的に調べていくということが考えられます。しかし小さな画像に偽装分割され、しかもブログなどに貼りつけられてしまった場合はその検知が難しくなります。
会員制サイトを作成し、既に会員になっている人に対して違法コンテンツを提供しなくては中身を見られないようにするというのも考えられるでしょう。本当にブロックすべきはサイト内の各コンテンツですが、それを見るためには会員にならなくてはなりません。そのためには違法コンテンツを提供しなくてはなりません。麻薬取締法では捜査員が捜査のために麻薬を「譲り受ける」ことが想定されているそうですが、麻薬を「やる」ことまでは想定されていません。
何とか理由をつけて摘発した違法コンテンツを投稿してメンバーになることができたとしても、全員を摘発する前に違法コンテンツを拡散されてしまったら被害を拡大する失態です。またメンバー制度が「オリジナルコンテンツを提供した者」だけを加入させるような制度になっていた場合もやはり中で共有されているコンテンツを調べることが非常に難しくなると思われます。その場合、いくら入り口だけをブロッキングしてもいくらでも入り口を引越されてしまうでしょう。
そんな凝ったことをしなくとも、タックスヘイブンのようにデータヘイブンな国が一箇所でもできれば、その国のプラットフォームを使ってPKIとVPNを使った広大な違法コンテンツ共有ネットワークができたとしたら、これまでのインターネットの経緯からして、そのコンテンツの性質がなんであれその自由度に惹かれて人が集まり、大いに盛り上がるのではないかと思います。
以上長々と書きましたが、「外国がやっているからやらなきゃ」というレベルでなく国際的な組織を作った上で「せーの」でやるべきかと思います。ブロック導入国と非導入国とで足並みがズレた場合、上で述べたような対象コンテンツの抽出を招いたり、データの疎開が起きるからです。リストも多国間で相互に審査し合うようにすればぐっと透明度が高まると思われます。
また、国と国とで話しあう場合、同じ国民同士でコミュニケーションするよりも論理性の高い議論とデータが必要になります。そのため国家間で話がまとまった場合、その結果を国民に理解させることはあまり難しくないでしょう。まとまっていく過程でもクジラやマグロや温暖化の時のように人間性に関する深い議論が生まれるかもしれません。
もちろん(3)に書いたような草の根的な活動は続くと思われます。が、こういったところからもデータの分割保存技術や暗号解読技術、トラフィックのモニタリング技術など様々な成果が生まれている部分もあり、それがまたインターネットの醍醐味でもあるのかなと思います。