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身の周りのおもしろおかしい事を探す日々。ITを中心に。

2006年8月14日午前7時38分

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その朝、私は朝ごはんを食べ終えて身支度を整えているところでした。

朝はテレビをつけませんので、NHKラジオを聞いていました。
扇風機の風にあたりながら歯を磨いていると、
突然部屋の照明とラジオが止まりました。
そして扇風機も惰性を失ってストップ。

窓の外はシーンとしています。
そう。今日で昨年の首都圏大規模停電から1年が経ちました。
今朝はなんとなくその事を思い出しつつ、
東京メトロ東西線に乗っていました。

ら、『門前仲町で車両内に停電がありました。運行を見合わせます。』との
アナウンスを聞きました。お盆で空いていたおかげで
座席に座っていましたので、いつもよりのんびりできました。
しかし去年の混乱が頭をよぎり、「東京駅が電気ついてんだから
また広域で停電ってことはないよな」などと心配してしまいました。
今日の停電は車両の故障だったようで良かったです。

電気と言えばコンピュータの主食です。
車は石油を食い、人間は米やパンを食べるのと同じく、
電気がなければコンピュータは動きません。
サーバクラスのコンピュータとなると
もうそれはそれはすごい電気を食います。
そのへんの企業で使っているサーバでもすごいのですから、
つい最近まで世界最高のコンピュータだった地球シミュレータなんてのは
すごすぎます。おそろしく電気を食うので有名なのですが、
年間おいくらだとか聞いたことはありますでしょうか?
約6.5億円から7億円と言われます。はい。
しかし正確な気象予測により災害に備えることができた場合の
メリットを考えれば安いものだと思います。

気象災害の予測のために科学が発展するというのは
何千年か前のエジプトでナイル川の氾濫に備えるため、
天体観測やカレンダーが発達したのと構図が似ていると思います。
きっとエジプトのファラオに仕えるエンジニアの人たちも
「このカレンダー前任者から計算方法の引き継ぎ受けてないんですけど
どうやって来年の分作るんすかね?」と引きつった笑いを浮かべていたことでしょう。

そういうわけでIBMの「Project Big Green」といったような
環境対策が各メーカで取り組まれています。

HP、2010年までにエネルギー消費量を20%削減

IBM、節電プログラムに年間10億ドルを投入

【Eco-Responsibility】きょうの講演のおさらい(Sun Microsystems)

それはさておき、PCは主食である電気を絶たれると
一瞬でも大変な事になってしまいます。
バッテリ内蔵のノートPCであれば停電も問題ないことが多いですが、
普通のPCはほんの一瞬の停電や電圧変動でも
ブチッと電源が切れることがありますし、運が悪いと破壊されてしまいます。

また、日本海側では雷が多い季節というのがあるそうで、
そういった地域では雷により誘導される想定外の電流による
電子機器の破壊に備えて、雷サージ防止機能つきの延長コードが
一般的に用いられると聞きました。
雷によるサージ以外にも、掃除機の動き始めなど
家庭内で大きな電力を用いると部屋の蛍光灯が一瞬暗くなるようなことがあります。
人間にとっては「あれ、今少し暗くなったかな?」くらいの一瞬でも
1秒間に3000000000回くらいの頻度で命令を実行する最近のコンピュータにとっては
かなり長く感じられることだと思います。気を遣ってあげましょう。

そういった電力の瞬断や電圧変動、または本格的な停電などに対応するため、
コンピュータの電源はUPSという装置から取ることが推奨されます。
UPSは電気を一時的に溜めておくダムです。
停電時にバッテリーに切り替えるだけのお手軽な製品や、
瞬間的な電圧変動や瞬断を調整してコンピュータに悪影響を及ぼさないように
守ってくれる高機能な製品などがあります。5分から30分の間踏ん張ってくれれば、
そのうちに電力供給が再開するかもしれませんし、ダメそうだったら
やりかけの作業結果を保存して、正常なシャットダウン作業を行えるだけの時間を稼いでくれる装置です。
UPSにはコンセントが2口や4口などありますが、デスクトップPCの場合は
ディスプレイもUPSから取ることをお忘れなく。PCを複数台利用している環境で
本体しかUPSに繋げていない場合は停電時に手探りでシャットダウンする必要があります。

自作PC派の人向けに、5インチベイに取り付けるタイプのUPSもあります。
家庭ではうっかりクーラーをかけながらコーヒーを沸かすためにポットをつけつつ
電子レンジでドーナッツを暖めてブレーカーがドカンと落ちることがあります。
そういった場合はブレーカーを上げに行く30秒ほど持ちこたえてくれればかなり助かります。

しかしデータセンターともなると、こんな適当なことでは許されません。
電力は2つ以上の系統から供給を受けることが理想です。
昨年の大停電の折には、主系統と副系統の2本の高圧線が
同じところを通っていたため、2本とも切断されてしまいました。
こういった事故が起きても影響を受けないよう、
まったく別の系統から電力の供給を受けていると安心です。

そのようにしてデータセンターに引き入れた電源は、
電力を安定化する装置に通します。
今年の夏は新潟県の地震と猛暑により、ひょっとするとひょっとして
電力供給量を電力使用量が上回ることがあるかもしれません。
その場合、運が悪ければ停電、そうでなければ
電圧降下などが発生する可能性があります。

そうでなくても電線からやってくる電気をそのまま使うと
周波数や電圧があまりきれいでないため問題を起こすことがあります。
それらを避けるため、バッテリに一度電気を貯めるなどして
きれいな電気を出力するようにします。
これはオーディオが好きで好きでたまらない人はよくご存知かと思います。

また、停電時に使用するための大量のバッテリーを準備しておきます。
しかしデータセンターともなると、使っている電力量が半端じゃありません。
バッテリーだけで停電を乗り切るためにはとんでもない量のバッテリーが必要です。
そしてバッテリーだけではとても3日や1週間と言った停電を乗り切ることはできません。
(そんな事態があるかどうかは別として)
そこで、自家発電装置を併設することになります。
ガスタービン式だったりターボディーゼル式だったりしますが、
普通の生活ではまず見ないような巨大なエンジンを稼働させて
電気を起こします。エンジンが大きいと出力が安定するのに時間がかかるため、
それまでの時間を持ちこたえるために一時的にバッテリーを使用します。
たくさんのバッテリーを持ち運びするのは大変ですが、
石油を運ぶのはタンクローリーで持ってくるだけですので比較的簡単です。
こうして停電の際には、

  1. 主系統の電力会社の供給が死ぬ
  2. 瞬間的に副系統の電力会社の供給が頑張る
  3. ダメなら瞬間的にバッテリーに切り替わる
  4. バッテリーの電力が持つか、電力会社の供給が復旧しそうか悩む
  5. ダメそうだったら発電装置を起動
  6. 全然復旧しそうにないなら石油の手配
  7. (遠隔地代替施設への処理振り替えやデータ輸送)

というような対応が取られます。
もっと賢いパターンもあると思いますが、
自分が知ってるのはこれくらいです。

もし事業の継続を目的としてサーバをこういったデータセンターに預けるのであれば、
利用者が働く職場も無停電仕様にしなくてはなりません。
サーバだけが動いていてもクライアントがすべて停電により停止しているのでは
事業が継続できません。

サーバ上のデータが停電などの影響を受けないようにすることが目的であれば、
サーバが置かれるデータセンターさえしっかりしていれば職場のことは気にしなくても良いと思います。
少し気をつけるべき点は、いざデータセンターから「サーバは動かしたままでいいですか?」という
オペレーション上の連絡の手段が絶たれるかもしれないことです。普段から、停電より何分以内に
担当者の○○または△△に連絡がつかなければ◇◇オペレーションを行うこと。
という取り決めをしておくことでそのような混乱を防ぐことができます。

昔ながらのメタリック線の一般固定電話をすべて取り払ってオールIP電話化したという事務所は
少ないと思われますが、昨年の首都圏大規模停電の実績から言えば

  • 一般固定電話⇒元気
  • 携帯電話⇒輻輳したものもあった
  • IP電話⇒完全に死んだものもあった

ということでした。うちの家のIP電話兼固定電話はモデムへの電力供給が絶たれたため、
ただの固定電話と化しました。ACアダプタつきで、親機はコードあり、子機はコードレスの
電話なのですが、携帯電話から電話してみると親機はばっちり着信しました。
メタリック線を通して48Vが来ているということを実感できました。
IP電話の導入に際してはそういったリスクも考慮する必要があるかと思います。

あと2,3週間ほど夏の暑さを乗り切れば、
電力使用のピークにより電力供給に影響が出るという心配も無くなることでしょう。
しかし油断はできません。できるだけの節電を心がけ、
発電所に無用な負荷をかけない生活をしたいものです。

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