殆どの仕事は擬似体験でしかない?
プロジェクトメンバーの選定や、委託先を決定するお手伝いをしていると「xxを経験しました」、「xxをしたことがあります」という言葉をよく聞きます。確かにお話を聞いていると、物事がどのように進んでいくかに関しては知識が豊富です。しかし、質問として「あなたは実際に何をしましたか?」という問いに対しては、非常に曖昧な返答が返ってくることが殆どです。
その原因を考えてみると、仕事にも擬似体験があるということに気づきます。例をとってみると、テレビを見ることは擬似体験です。つまり、テレビで戦争やドキュメンタリーでの番組を見ていると、その場に居て経験していると同じ錯覚を受けますが、実際には仮想の世界で情報のみを吸収しているだけです。同じように、仕事も現場にはいるものの、実際の作業を行わない限り、それは知識や事実の把握だけであり、経験をしているとはいえません。つまり仕事現場としては経験していながらも、擬似体験をしているだけといえます。
例えば「全体を管理していました」、「作業管理と指示をしていました」という返事であれば、実際にはそこで行われている業務を経験しているわけではありません。従って、実際に管理を行うとしても、作業者側にスキルがあり、断片的な知識やはたで見た擬似的な経験の範囲内と同じ状態までは管理できますが、知識の幅を超えた場合には実経験はありませんので、管理不能となり、とたんにスキルレベルの低さが露呈します。
現在のように、仕事が階層化、細分化されている場合には、特に上位会社(いわゆる大手であったり、マスタコントラクタであたりする会社)には殆ど経験値は残りませんし、下請けであっても細分化されすぎて経験値の幅が狭くなります。従って、単純な「xxを経験しました」、「xxをしたことがあります」という言葉でスキルを測ることは、リスクを負うことになると思います。
また、資格試験のように、殆どが擬似経験や表面上の知識を確認する資格をもって、仕事を請け負うに値するスキルがあると判断することも、経験が擬似経験であるという意味では同じリスクを負うと思います。
擬似経験でなく、本当に経験させることの重要さを意識し、そして自らの経験が実経験であるか、擬似経験でしかないか正確に把握する客観性を持って仕事に臨む人であれば、自ら経験を積む機会を創出することができるのかもしれませんね。