IT企業の限界③ 「できる能力があるのか、経験しただけなのか」
ベンダ選定を行い開発発注を行う時によく経験/能力を確かめるために、「~に関しての開発経験は?」または「~はできますか?」ということをヒアリングします。大体の場合には、それ以前の選定段階である程度会社としての経験値は確認していますが、具体的にどのようなことを経験し、力として蓄えているかを確認するために、再度提案者に対して確認を行います。
答えは決まって、「~は設計から開発まで全体を行いました」、「~は弊社の得意としている領域です」というような答えが返ってきます。営業的には当たり前の答えですが、実態とかなり乖離していることが多いことも事実です。
乖離のパターンはいくらでも上がりますが以下のパターンが多いようです。
- 会社としては受注し構築したが、殆どが下請けさんに丸投げしていたので実際には自社にスキルが残っていない(そのためパートナー社員だけのチームになってしまう)。
- 会社として受注しているがそもそもスキルが不足している領域で、キャッチアップもできていないため、その場しのぎの対応(1も同様)を行い、改めて実施するにはスキルが不足している。
- 下請けさんを含む他の人が作業しているところに居合わせた、または作業指示を受けて部分だけを行っていたため、全体のスキルが獲得できていない。
- できると自信を持っているが、実力が伴わない。
基礎的なスキルと理解力があれば新しいものであってもかなりの部分は類推して対応できますし、経験値を持った人が行うよりも良いアプローチと品質を確保することも可能であることが事実です。従って、問題の原因は会社の体質と人材そのものの問題であると言えます。
無理に受注して問題を起こすケースとしては
- 戦略的な部分を受けながら、教科書的なアプローチでしか対応できない
- 要件定義から受注しながら業務が理解できず、要件をまとめきれない
- 上記と関連して、業務だけでなくシステムの適用方法が解らないので設計書がずさんである
- そもそも管理もできないため、進捗確認、品質確認、テスト計画の綿密な定義、適用ができない
- システム構築のみならず業務全体のトランジションまで手を広げ、何一つ満足に完了できない
といったことが発生します。
背伸びしての対応は重要ですが、それはあくまでも人材・会社に本当の力が備わっている場合に行うべきことです。提案書やプレゼンテーションでいくら経験値を唄ったとしても、実態が伴っていないプロジェクトをこなして、それをさらに吹聴する形では日本のIT技術者の力はどんどん低下してしまいます。
いたずらに規模や受注を目指さずに、今一度自社の人材や力を第三者の目で冷静に確認したほうがよい結果を生みます。
ちなみに私の経験では、小規模(~200人くらいまで)の会社の方が、よほど対応力・基礎力が強い会社が多く、それ以上の大手はほぼ全滅に近いほど対応力と経験値が落ちていると体感しています。同時に社員にもプライドがあるので、客観的に力が無いことを認識できずに、悪いスパイラルに入ってしまっている会社が多いのも事実です。
SIのベンダ選定では、一度大手の経験値を疑い、もっと小規模な会社を上手く組み合わせて対応することも納期、品質を向上させるための近道かもしれません。